少年と少女
「はぁはぁ…」
少年は荒い息を吐きながらも、足を止めずに駆ける。
「なんだってんだよ、いったい!」
額から一粒の汗が滴り落ちるのも気づかないようで走る、走る。
木々が繁り、草や木々が進行を妨げるがそれを気にすることもない様子の少年はさっきまで一緒に居た少女を思い出した。
「…あの子、大丈夫なのか?」
少年は心配気に取り残して来た少女に思い、足を止めた。
もう、町の入口にたどり着いていた。
少年は少女を心配に思ったが今は逃げるべきだと思考し、自宅へと足を向けた。
タッタッタッ
少年は自宅へとたどり着くとリュックに必要最低限の物を詰めて、服も動きやすく目立ちにくい格好に着替えた。
「早くして、ここからも出た方が良いよな…」
少年はそっと呟いて、電気をつけて明るくなった部屋を見渡した。
ピンポーン
チャイムが鳴った。
少年は誰が来たのか確認するためにモニターに近づいた。
「…?!」
モニターには、さっき出会った少女が居た。
「さっきの…」
少年は戸惑いながらも、ドアへと近づき、用心深くそっと開いた。
「大丈夫だった?」
少女は心配げに開いたドアの中に居る少年を見つめた。
少年は戸惑いを隠せないまま、少女を見つめ返す。
「なんで…?」
「説明は後よ!早くここよりも遠くに逃げた方がいいわ」
少女は早口でそう告げて少年を中へと押しやり、少女も部屋の中へ足を踏み入れた。
「貴方が持っているその本は絶体に誰かに渡してはいけないわ」
少女の強い眼差しが少年を射ぬく。
「は?なんでだよ!てか、あんたは誰なんだ?」
「そう…ね。自己紹介がまだだったわね。私は真里…羽葉真里よ。」
「羽葉さん?」
「えぇ、貴方は頼人よね。」
「は?なんで知って…いやあってるけど」
少女ーいや真里が少年ー頼人の名前を知っていることに驚いた様子で頼人の瞳が揺れた。
真里は頼人の様子を見て、首を傾げた。
「あ、あぁ、私は貴方とクラスメートよ」
真里は呆れた様子で頼人を見つめて、そっと視線を窓へと向けた。
「く、クラスメート!?」
頼人は驚いて、必死に思いだそうと記憶を探る。
数秒後、ハッとして顔をあげた頼人はどうやら真里に該当するクラスメートを思いだして真っ直ぐに見つめた。
「そういえば…居たな。で、この本は一体なんなんだ?」
「その説明は後でって言ったでしょ?」
真里は窓の外を眺めながら、頼人に返答する。
「準備は出来てる?後、体力には自信はある?」
真里は唐突にそう頼人に問いかけた。
その問いに頼人は力強く頷いた。
「まあ、準備はしてるし…自信もあるぜ。」
真里は少し安心したかの様に頼人へと視線を向けてから頼人の腕を掴んだ。
「今から私の仲間の所に向かうわ。」
「羽葉さんの仲間…?」
「そう」
真里は頷いて、頼人の腕を握る力を少し強めた。
「私だけでは貴方と貴方が持つ本を護るのは難しいの」
「いや…護るって…」
少女に護ると言われたのが複雑で頼人は眉をくすめた。
真里は複雑そうな表情をする頼人を見、俯いた。
「私に護られるのは不服かも知れないわ。でも、私にはそれだけの力と役目があるの。」
「力…?役目…?」
頼人には俯いた真里の表情は見えないが、疑問に思うことを聞き返した。
「えぇ。そうね…私には超能力の様な力があるの。」
「超能力?」
「特殊能力とも言うか…とりあえず能力者なの。」
真里は俯いていた顔をあげて頼人を見返した。
顔をあげた真里の表情もまた頼人と同様に複雑そうな表情をしていた。
「この話しは止めよう。もう、ここを出なきゃあ」
真里は頼人の腕をひいて、家の外へ出るようにたもす。
頼人は真里に大人しく従い、無言のままリュックを背負い部屋の電機を消して、ドアへと向かう。
「どこへ行くんだ?」
「さっきも言った通り仲間が居るところ……ここから北にある隣町に行くわ。」
「わかった。」
そして、少年と少女はその場を後にした。
真里と頼人ははや歩きで暗くなった夜闇の中、月明かりと頼人が持ってきたらしい懐中電灯を頼りに隣町へと急ぐ。
「もうすぐね。」
真里が呟いた時、隣町の家々の光らしきモノが見えてきていた。
「まだ、体力とか大丈夫?」
「あぁ、大丈夫だ」
頼人は素っ気なくそう返事をして真里の隣に並んで歩いていた。
真里は頼人に視線を投げかけて…真っ直ぐに前を向いた。
が、真里がキョロキョロと突然辺りを見回した。
「頼人…、待って」
真里は何かに気づいたらしく、頼人の腕を掴んで動きを止めさせた。
「何か居るわ。」
「え?…何かって?」
「分からない」
真里は何かの気配を探るために辺りを見回す。
そして、頼人の腕を掴んだまま素早く走り出した。
「な?!どうしたんだよ」
出来るだけ小声で叫んだ頼人に真里はただ真っ直ぐに前を見据えて走る。
カサッ
背後から音が鳴る。
「この世界に居ないはずの存在が私達を追ってきてる」
真里は振り返らずにそう頼人に応え、速度をあげて走る。
頼人は足が縺れそうになったが何とか転けない様に真里の後に続く。
「町に侵入させるわけにはいかないわよね…」
真里は頼人の腕を前にひいて放し背中を軽く押した。
「先に町に行ってsweettimeって言う店に居るユエを呼んで来てちょうだい!」
「な!?…わ、分かったよ」
余裕の無さそうな表情をした真里は、もう一度頼人の背中を軽く押して振り返った。
頼人はそんな真里に押されて、振り返ることなく走った。
「もう1ラウンドと行きましょうか」
真里の声が頼人の背後でそう発したのが聞こえた。
カサカサカサッ
真里の前に表れたのは、真里とあまり変わらない小柄な体格の鬼だった。
「鬼…組織が実験していた人工生命体の1つね」
真里の呟きを消し去るかの様に鬼が吠えた。
「グワアァー!?」
真里「まだあの装置は回復してないのに…この状態で戦うにはちょっとまずいわね」
真里の焦った声が響くが、この鬼には人間の言語を理解することが出来ない様で獣の様にただ吠えている。
カサカサ
また、何かがやって来る音がする。
真里は焦る気持ちを抑えて拳を構えた。
対等する鬼は現在は一匹、早々に決着をつけるべきである。
「ハアッ!」
突き出した拳を鬼は身軽に右に避けて、持っている大きな斧を真里に振り下ろす。
ドーンッ
真里は斧を避けて、斧は一直線に地面を叩き、地響きが鳴る。
鬼は構わず地面に突き刺さった斧を軽々抜き、真里へと振り下ろす。
一発でも食らったらアウトな破壊力に真里は回避行動ばかりをとらざるおえない状態だ。
「もう!鬼にしては小柄なのにこの破壊力…!」
真里は回避行動を続けながらも、策略を練る。
そして、気づいた。
鬼は先程から振り下ろす作業しかしていない、横には凪ぎ払って来ないのだ。
「何でなの?」
疑問に思ったが、他には今のところ攻撃の特徴等はない。
真里は思いきって木に登った鬼の手がギリギリ届かないトコロまで。
鬼は目標人物が木に登ったことをただ見ているだけだった。
攻撃行動はしていない。
真里は斧を下ろして此方を威嚇している鬼に向かってチャンスだと言わんばかりに鬼の真上へと飛びかかった。
叩きつける様に鬼の額に真里の拳が入る。
トスッ
思ったよりは軽い音だったが、鬼には効いた様でフラフラとして斧から手を放して頭を抑えた。
「効いた…?」
真里は容赦なく、次の攻撃行動に移る。
拳の連続した突きが鬼の腹に叩き込む。
トストストスドスッ
鬼の身体が後ろに下がる。
「グウゥーオォォー!?」
鬼の苦しげな叫びをあげた。
真里は留めを刺すために、拳に力を込めて思いっきり飛びかかり左胸辺りに拳を叩きつけた。
ドスッ
鬼の身体はその攻撃に耐えられなかったらしく、ゆっくりと倒れた。
「ふー、倒せたかな?」
真里は小さく呟いて、倒れた鬼を見た。
鬼はピクピクっと動いてはいたが立ち上がる気力は残ってない様だった。
カサカサカサッ
すぐ近くで音がした。
真里は抜いていた気を持ち直し、音がした方に視線を移した。
カサカサカサッ
「お前…」
表れたのは、研究衣を纏った男性だった。
真里は思わず視線をさっき倒した鬼へと向けた。
「私の試作品を倒したか…面白い」
男性は鬼へと視線を向けてから真里に視線を移して楽し気に笑った。
「貴方…どうしてこんなことを」
真里は男性を睨み付けて、拳を握った。
「おぉ、怖い怖い。」
男性はおどけた調子でそう答えた後、首を傾げた。
真里はそんな調子の男性に増悪を隠さずに表情に出した。
「どうしてこんなことを?」
さっきよりも強めに問う。
男性は楽し気な表情をして真里を見る。
「どうして?…この鬼を造ったことかい?」
真里は小さく頷く。
「それもあるわ。貴方、組織の人間?」
どこか確信めいた表情で真里は男性へと告げる。
「クハハ。この鬼を造ったのは造って見たかったからだ。そして…俺は組織の人間だ!」
男性は興味深けに真里を見て平然と答えた。