始まりの日
ある本を手にした少年はもう1つの世界を知ることとなる。
少年と少女が出会った時、世界を救う物語が始まる。
ある日見つけた本。
その本は、異世界へと繋がる鍵だった。
その本を見つけた少年は、本を持って謎の組織に追われることとなってしまったのだ。
ある日、少年の前にある1人の少女が現れた。
「貴方はその本をどうするつもり?」
「は?」
少年は少女の顔を不信に見てから手にしている本をぼんやりと眺めた。
「なんでそんなこと聞くんだ?」
「なんで?…その本の秘密を私は知っているから」
少女は真剣な表情をして少年を真っ直ぐに見た。
その時、ガタンっと音が鳴った。
少女はハッと息を飲み、少年の腕を掴んで引き寄せる。
「動かないで、静かに」
少年は唖然と少女を見る。
「何なんだ?」
小さく呟いた少年の声が静かな空間に響いた。
少女は少年を見て、それから唯一の出入口であるドアを見つめた。
ガタンっ
さっきよりも大きく響いた物音。
少女は掴んでいた少年の腕を放して、ドアへと近づいた。
「少年、そこを動かないでね」
少女は小声で少年にその場に居るようにたもす。
カツンッ
何かが当たって弾く音がした。
少女はドアの取っ手にそっと触れて少し隙間が出来る様に開けた。
カツンカツンカツンッ
少女は廊下から響いてくる足音に自身の気配を出来るだけ消して覗きこんだ。
響いてくる足音が近づくごとに話し声も聞こえてくる。
「まだ見つからないの?あの鍵は」
「申し訳ありません。なにしろ、しぶとい小僧があの鍵を持って逃げ回ってまして!」
「言い訳はよしなっ!さっさと見つけなきゃ、私らの使命が果たせないじゃないか!」
女性と男性の話し声が聞こえてくる。
どうやら、男女の二人組が話しているらしい。
少女はその話し声を聞いてそっと開けていたドアを閉じた。
そして、少年の元へと足音をたてないように静かに近づいた。
「もう追手が近くに居るわ。何処かに隠れるか逃げなくてはダメね」
少年を視界に入れて少女は小声で呟いた。
少年は少女の言葉を聞いて緊張感に支配される。
「追手…?この本を探してか?」
「えぇ、そうだよ。早くここから逃げなきゃ大変なことになるかも…」
少女は腕を組んで考えこむ。
少年はそんな少女を見て、周囲を見回した。
少年の視線に窓が移る。
「あの窓から逃げるのは無理か…?」
少女は少年の呟きに反応して窓を見た。
「そうね…、あの窓しか出口はないわね、多分。」
少女は少年に視線を寄越してから、窓に近づいた。
窓からは木々が見える。
少女はそっと窓を開いて、下を見下ろした。
「どうだ?大丈夫そうか?」
少年は少女に近づいて、少女の視線を追う。
「えぇ、良さそうな木が近くにあるわ。」
少女は窓から出る決意をしたのか強く頷いてから少年を見つめた。
「ここらへんの地理は分かる?」
「あぁ、よく通るからな…大丈夫」
少年の応えに少女はそっと窓を見つめてー
「行くわよ」
「ああ!」
二人が窓から出る決意をした時だった。
ガチャっ
「!?」
ドアのノブを誰かがひいた音がした。
少女は少年に早く窓から出る様にたもす。
「早くっ」
少女と少年の表情に焦りが募る。
少年は少女にたもされて、窓から素早く手近な木々に移る。
キィーッ
ドアが開いた。
開かれたドアから女性が姿を表す。
「…!?あんた、誰だい?!」
女性が少女に気づいてそう叫んだ。
少女は少年を逃がす時間を稼ぐために女性に身体を向けた。
「誰だと思いますか?」
「…チィッ、侵入者かい!?」
荒々しい女性の声音が響く。
「さあ?」
少女は妖艶に微笑んで、所持していたナックルを両手につけた。
女性はそんな少女を苛立ち気に見て、持っていたナイフを構える。
「侵入者だよ!!」
大声で女性は叫んで仲間を呼んだ。
少女は女性を視界に入れながらもそっと窓の外に居る少年を探した。
少年が遠ざかっている様子を見た少女は女性に向けてナックルを構えた。
「貴女ごときがこの私には勝てないわよ」
少女の気迫が女性を襲うが、女性はその気迫に怯えることなくニヤリと笑った。
「小娘ごときがっ」
少女をバカにした様にナイフを構えた。
女性の叫びを聞いた手下らしき人物の足音が響いてきた。
タタタタタッ
少女は近づく足音に焦りもせずに息を吸って女性へと攻撃を繰り出した。
ダンッ!
シュッ!
少女の攻撃が女性の身体を襲うも女性は少女の攻撃を避けて反撃して来る。
「ハァー!!」
少女の重い一撃が女性の腹部に叩きつけられた。
女性の身体がぶっ飛び、壁にぶつかる。
ドンッ!
「グッ…」
女性の呻き声が部屋に響いた。
少女は益々近づいてくる足音に振り返ることなく窓の外へと足を向けた。
「またね。組織の方」
少女は壁に凭れている女性に呟いて窓の外へと出た。