第9話
d■アルケ■
話し合ったときと同じようにかまどの火の回りで皆で食べた。鍋とポットはがんばって積んできて正解だったと思う。こういう行軍で鍋とかないと保存食か丸焼きばっかりになりがちだしね
岩塩ひとかたまりとか、かなり贅沢。
なんにせよ多少の贅沢は許されるべき。
ハガネがいつの間にか膝にのってたからスープに浸した黒パンをあげてみた。吸収するときと違ってちゃんと食べてるみたい。カワイイからどんどんやってたら私の分全部なくなってた。
それほどおなか減ってたわけじゃないしいいんだけど。
そういえばまったく疲れを感じてないのはドラゴンが混じった影響? サマサやクルスみたいにぶっ倒れてたわけじゃないけど、丸2日ちかく寝てないんだけど。んーお腹に物が入った分眠気は出てきたかな?
そんなこと考えてぼーっとしてたらハガネがクルスの方に跳ねていった。
■ハガネ■
「クルセイスさん、これ」
そういって細身の剣を差し出してみる。二人を回収した時に横に落ちてたからたぶんクルセイスさんのだと思う。
■クルス■
「クルスでいいよ。っていうか驚くな、キミは。どう考えてもこの長さが収まるとは思えないんだが」
細身の剣にしてはゴツイ拵えのそれを受け取る。
選定基準は扱いやすさ、そして武人の蛮用に耐える物。それでも壊れるものは壊れる、いわば消耗品。荷物の中になかったからドラゴンの巣に置き去りだったんだろうと思っていた。
■ハガネ■
クルスさんのとこからもう一回戻って。
「アルケさんはこれ。最初に会った所にあった短剣、いろいろ試して元とはずいぶん違ってるけど」
革ケース入りの短剣、というよりナイフを差し出す。いろいろやったっていうのは取り込んだモノを解析して分解して再構築ができるとわかったから。そしてゴブリンの剣はともかく短剣もクルスさんの剣も鋼とかそういう感じはあんまりしなかった。
なんだかんだいって武器はいっぱい取り込んだし岩盤地盤いろいろ取り込んでたし。なんかいろいろ分離したり混ぜたりで鋼とかステンレスできないかなーてずーっとやってた。重い話のときはちゃんと聞いてましたよ? 洞窟の移動中とかゴハン待ちの間とかにね。
色々やりすぎた結果、木材から炭にして炭素いじくり倒してたらカーボンナノチューブが。
見えるのかって?
見るんじゃない感じるんだ、ですよ?
フラーレンもできるし、やたら繋いで単分子ワイヤーとかいろいろ作れたけどとりあえずお蔵入り。あと銅はわかりやすかったけど他にも色々分離した中にやたらテカテカの金属あったのでこれをとりあえず仮にクロムとし、鉄に混ぜてみたりカーボンナノチューブ粉も混ぜてこねくり回してうにうにした結果、とりあえずステンレス鋼の候補を二種類作成。
白っぽいのと黒っぽいの2種類、とりあえず白鋼と黒鋼としておこう。これを見た以上アレを作らねばなりませんよねってことで。さらにうにうに、折り返し鍛錬モドキをやって整形。
ダマスカス鋼風ナイフの完成ですよ、グリップは日本刀思い出して紐っぽいもの作って編み上げてみました。技術拡散やばいとかそういうのはどーした?
忘れてました。
■アルケ■
ハガネに渡されたのは見たこともないデザイン、作りの革製品。確かに重さ的には短剣が収まってるんだろうけど。
料理だとか解体用の鋭いナイフとかだと布に包んでたりするけど短剣はけっこう雑に使うからズボンの帯に挟んでただけだったりするんだけどな。なんか柄も凄いことになってるし。
なんだろ?
紐で編み上げてるような?
なんかすごいのきたねー。
っていうかこれ抜けないけどどうすんの、振り回しても抜けないけど?
■ハガネ■
やりすぎた。
なんか予想外のとこでやりすぎた。
これはあれだ”スナップボタン”はないんだ。
鋲に見えてるのかな?
「えーっと、アルケさん落ち着いて? それちょっとここに置いてみて」
素直に置いてもらいました。
「それで、ここをね」
体で本体抑えてうにょーんと伸ばした体(手)でボタンのはしを持って。
って持てません。
「ここ持って引っ張りあげて?」
アルケさんにお願いしてみる。
ぱちん。
■アルケ■
ナニコレ。
なんか外れたっ。
帯になっててて抑えてたのね?
っていうか鋲じゃないのか。顔くっつけてよく見るとなんか細い部品とか見える。
■ハガネ■
「くっつける時はぽっちを穴にあわせて抑えてね」
ぱちっ
ぱちん
ぱちっ
ぱちん
■アルケ■
ちょっとナニコレ、なんか凄いんだけど。
「いや、サマサもクルスも呆れて見てないでこっち来てくっついて見なさいよ。これ、ほら。ここの細かいのなんてドワーフの細工師が作れると思う?」
■サマサ■
「これってハガネが作った、ってことでいいのよね? 見たことも聞いたこともない、文献に載るようなものなら大概目を通してるけど」
■クルス■
「革の鞘?このわっかはベルトにぶら下げる? 柄の組紐も見たことないね」
ぱちっ
ぱちん
ぱちっ
ぱちん
■ハガネ■
アルケさんはひたすらスナップボタンの開け閉めしてます、嵌った?
がしっと両脇から挟まれて向きかえられました、クルスさんに
■クルス■
「キミ、何者?」
■ハガネ■
やっちゃったのがわかるからこの短い問もわかる。知られていない技術がありふれたものであるかのようにしれっと出したことへの疑問だ。鉄砲伝来時のネジみたいなものだろうか?
あれは鉄砲本体もつくれないだろーって自慢してたらとかなんとかでネジだけできなかったとは思わなかったって話だっけ? まるっきり違いすぎるか。
半端にごまかしてもボロでるだろうなー。
っていうかこの程度でボロでてるとなると先が思いやられるなー。
いそぶっちゃけてみかたにするべきだよねー。
ていうか目をのぞきこまれてるー。
ここはあれだ、ぶっちゃけよう。できるだけ危険な技術に繋がりそうなことはぼかすのは前提だけど、少なくとも”魔法がない”世界からの転移か生まれ変わりで前世?の記憶持ちだとはぶっちゃけよう。ダマスカス鋼とかないだろーしなー。
と、もうひとつやっちゃってるモノあるわけだし。
ということでその前世、24年分の記憶。 それも魔術はないかわりに技術が発達した世界の記憶を持っていること。全部見たわけじゃないけど技術格差は数百年分はあるはずなこと。
こっちはどう見ても産業革命どころか錬金術から出た科学に化学。数学の発展(元は魔術だしね)その他諸々がつみかさなった意識改革とその産物。いわゆる工業生産物っぽいものが皆無だし間違ってないと思う。
理屈はわかっても構造を知らない物だらけなので作れるのは簡単なものでしかないこと。そしてそういった認識の違う物とか考え方がきっかけになって大改革が起こりかねないとか、いい方じゃなくて混乱を予想してみてるだとかいっきにまくし立ててみる。
■クルス■
「わかった、というかわかり難いことがわかった。とりあえず24年ぶんの記憶って言ったよね?キミは24才? それとも0才?」
しゃべれてるし知的だしでなんとなくわかるけど、でも違うと思う。
■ハガネ■
「たぶん0才のボクがほんとうのボク。アルケさんに初めて名乗ろうとした時、記憶の名前じゃなくてそこから名前をとったよ。その時にも身体に心がひっぱられる感じがして記憶とか無くすのが怖いけど、でも違うっておもいが強かったんだ。言葉が通じてるのはなんでだかわかんないけど」
「24年ぶんの記憶って言うのも今だと暗記した技術書? それ以外にいろいろ生活とかなんだかんの思い出もあるんだけどね。でも今のボクとは別の自分のことみたいな感じ」
そういうのとは別に吸収解析分離生成とか反則技すぎるってのもあるか。たとえば機械式時計はわかるしなんとなく造りもわかるけど設計できない以上作ることができないとかね。歯車はわかるけど、歯車つくってうまく動くか?のほうがわかりよいかな。こっちのボクが解析したなら別なんだろうけど。
といってもスナップボタンぐらいの構造だとちょっと試せばOKだったから油断したなー。
■クルス■
「そういえばそっちも疑問なのよね。なんか出てくるのは見たからそのまま取り込めてるってのもわかるつもり。解析だとか分解だとかは言葉そのままの意味? なんとなくわかるんだけど」