第5話
■不定形生物■
おねーさんの手にくっついたままなので、拭き掃除の要領でそこいら撫でまくってもらう。あんまり直視したくない物もけっこうあるけど、意識しないように努力しなきゃならかったけど
正直、吸収するのにいちいちより分けるのめんどくさいので山肌の血肉の華になっちゃってるのとかその岩盤ごとがっつりやってるうちに慣れた。ドラゴンの足の下とかはさすがにどいてもらって地面ごとイタダキマシタ。
おねーさんはかなりおつかれの様子。なにしろかなりの広範囲を拭き掃除だし、最後はドラゴンの体もふきまくりなので無理もないか。肉体的にはともかく精神的に座り込みたいだろうと思うけど。
■ドラゴン■
「終わったなら早々に気絶してるモノどもかついで立ち去るがいい。力は大半返したとは言うが、それでもそれなりに残っておるだろう、一度に担いでいくことも造作ないはず。それに、その方らがきた穴を塞いで眠りたいのでな」
なんだかドラゴンもお疲れな雰囲気。
■不定形生物■
おねーさんを励まして倒れてる二人いっぺんに担ぎ上げてもらう。パワーアップ?
繋がってた時にドラゴンの血というか気というかが一旦体内に流れたからかな? ほとんど返したつもりだけどそれでも結構な《力》が残ってるみたい。おねーさんは主に右手首に集中してるけどボクの場合はなんとなく光ってるそうですよ? この体に部位なんて無いってことかな。まー飛び跳ねる距離とか伸びたので自分で移動とか結構できるようになってるし。
彼女らの装備もきっちり回収(吸収)してぷよんぷよーんと跳ねながらついていく。ついでに、着地点のヒカリモノもちゃっかり吸収してみたけど問題ないよね?
***
■不定形生物=ハガネ■
洞窟の進行も問題なし。そもそもあるのは死体とか装備品とかゴブリン以外の蟲? とかあってあんまり気が進まないけどぜんぶ吸収していきますよ。ちなみに明かりのほうはさらに問題なし、ぶっちゃけ自分輝いてますし。なんだか目もよく見えるような?
ということで今度はボクが先導しつつぷよーんぷよんと跳ねてます。一本道なので迷うこともないしね。結構長いというか何km? ずいぶん移動してると思うのよね。
で、外に出て馬のいる結界(こっちのは普通な感じ、さっぱり邪悪な感じ無し)その中にはいって二人をおろしたところで。
どごーんずががががっがが。てなぐあいに揺れまくり崩れまくり。
おねーさんと見詰め合って。
「「ブレス?」」
二人同時につぶやいてみたり。ドラゴンと繋がった分敏感になってるみたいでなんとなく何やったかわかる。というか、剣士一行に一発かましたら終わりじゃないっていうぐらいの一撃。
呪いの結界だろうが魔法的に強化された重装盾だろうがお構い無しだったんじゃなかろうか。
たぶんね、まだ気絶してる彼女たちを巻き込まないようにあしらってくれてたのかな。気遣いすぎて隙つかれたのがあの結果、でちょっと本気だしてみんなぺたんこにしたんだろうし、わかんないけど、そういうことにしておこうと思う。
というか洞窟ふさぐのに山沈めますか? やっぱりドラゴンは規格外すぎる、ラスボスつえー
へたりこんだおねーさんとその膝に思わずとびのるボク。
しばらくむぎゅーってしてもらった。
「あらためて、よろしくお願いします? おねがいしても大丈夫です?」
なにがよろしくなんだかよくわかんないけどやっぱりあれだ、挨拶は大事。
でもなんかもどかしい感じもする。いまさらだからというかもうずいぶん協力関係にあったというかずいぶん繋がったままだったからかなー。
おぅ。
あれだ。
挨拶は大事だけど抜けすぎてやしませんか。名乗ってないし名前聞いてませんよ。
「えーっと、ハガネともうしますよ。おねーさんとはいっしんどー じゃないや、お友達になりたいのですが、よろしくお願いしていいですか?」
膝の上でぷるぷるしつつとっさに考えて名なのってみる。元の名前はあるけど漢字とかどうかんがえてもなさそうだし意味不明だしね。なんか違うとも感じてるし。
ダメ押しにむにゅっと体の右側から手みたいに伸ばして握手求めてみたり。握手の習慣ってあるのかな?
***
■女戦士=アルケ■
「ずいぶん助けてもらったけどそういえばお互い名乗る余裕とかなかったよね。私の名前はアルキオネ・ミケナイ、アルケとでも呼んでくれ。いろいろ治してもらう時に繋がってたからわかったかもしれないけどクウォーター・オーガだ、戦士というのがわかりやすいか、三人の中で前衛を勤めてたよ」
膝の上のぷるぷるが伸ばした手?手でいいのかな? を両手で包んでしゃべりかける。ちょっと見えにくくなったのですぐ離して両手で体をはさんでみたけどぷるぷるだわ。このぷるぷるの手触りはすばらしすぎよっ。
私だって女、いや女の子としてカワイイ物好きの血が騒ぎまくってます。
ぷるぷる、ぷにぷに。
いやされるー。
ぷるぷるぷにぷにしまくってみましたが、いつまでもそうしている訳にもいかないのでハガネに倒れてる二人の看病を任せて、荷物整理というよりお茶と軽食の準備。
「魔力切れで意識がないだけ、二人にはいい森だからすぐにでも起きるよ」
「トーチ」
ごぅわぁー。
■ハガネ■
一瞬で巨大火柱がっ。馬びびって逃げそうですよ、まだつながれてるから距離とってるだけだけれど。 ていうか熱い、あついー。
アルケさん茫然自失してるのね。
「消してーけしてー」
■アルケ■
ハガネに二人の看病、というか起きたら知らせてもらうよう頼んで私は荷物のチェックを開始した。元々の人数からずいぶん減っているので食料他帰るだけなら余裕過ぎるのはすぐわかった
なのでお茶の準備でもしておこう。本格的な休憩は川沿いまで下った方がいいのだろうけどもうしばらくここにいるぐらいはたぶん大丈夫だろう。
石で簡単にかまどを組んでその辺の木切れ、枯れ枝を積み重ねる。ちょっとお湯沸かすだけなのでそんなにいらないし。
《トーチ》と呟いて右手人差し指で組んだ木を指す。魔法の名は意識するため、指でさすのは位置を確定しやすくするため。実際、ちょっとした火を灯す魔法なのでややこしい手順は必要ない簡単な魔法なんだけど。
轟音とともに立ち上る火柱。サイズこそかまどに収まってるので直径30~40cmほど?
ただ、高さが見上げるぐらいにはなってる。
5mはあるかなー。
もうなんだ、あきれて見上げるしかなかったんだけどハガネが注意してくれなきゃ山火事になってたか。
魔法の火なので意識すれば消すのは簡単。かまどの中の木切れとかは一気に炭になってたけど、火種としてはこれで十分。かまど全体が焼けて熱いし種もあるので小枝とか放り込むだけで簡単に火がつく。ていうかかまどの石がかなり高温になってるみたいね。
水を入れたポットを吊るしてお茶の準備再開。お茶はほわほわした魔法使いが入れてくれるのがおいしいんだけどな。まだ起きてないし、すぐ何か飲めた方が落ち着くか。いろいろありすぎたしね。軽食は固焼きのビスケットでいいかな? 木の実いりのこれは神官のお気に入りだし。
なんて現実逃避もちょっと限度が。ハガネはマジマジとこっち見てるし、あんたは二人見てないとダメでしょ。
「なにかさ、ものすごく魔法の力もあがったっぽい」
■ハガネ■
アルケさん曰く、火おこしに小さいけど高温の炎の魔法を使ったんだそう。魔法とかよくわかんないけど入門クラスの便利魔法らしいのね。使わない人は使わないけどギルドの講習で野外活動に便利ってことで明かりの継続魔法の「ライト」、火付けの「トーチ」なんかは必須なんだそうだ。回復魔法や毒消しなんかは実習が難しいので現場で覚えるんだそう。もっとも「ライト」は魔力を消費し続けるので雨でもないと使わないそうだが。
昔の軍だと促成教育するのに傷つけた家畜を連れてきて練習したそうだけど、ちょっとした止血とかはできるようになってもそれ以上はどうしてもできなくなってしまったそうだ。
なんでも無理やりケガさせたのを治そうということが引っかかるらしい。結局、回復魔法に長けるのは余程の場数を踏んだベテランか、個人の実力に関係ない神官たちの神への祈りか、精霊の助けを受けられるものに限られるそうだ。
話がそれたけど、「トーチ」の魔法であの威力はありえない。ああなるには余程の魔力か精霊の影響がないと無理だけど精霊が無茶することはないから違うらしい。というかドラゴンと繋がっただけでなくほんの少しもらってるからその影響しかありえないとか。
■アルケ■
「強すぎて困るのがこんなことだとは思わなかったわ。そういえばドラゴンと繋がってた時そんなこと言ってたよね」
右手首から先はドラゴンの一部が特に混ざってるとかも言ってたっけ。
■ハガネ■
「アルケさんもボクも、ドラゴンにつながったとき無理なく血が循環してたからね。ドラゴンにもボクたちの血なんかが流れたはずだけどあっちへの影響はないんじゃないかな? 比べるにも値しないぐらいの力だしね」
「それにね、ドラゴンと繋がった時はアルケさんの右手の治療中だったんだ。どうやったらいいのかわかんなかったから、とにかく手の中に入って骨とか肉とか包み込んでたときだからそういうのを含め全部ドラゴンの治癒力、たぶん自然治癒なんだろうけど。そういうので一気に治されちゃったから、見た目アルケさんのもとのままだけど実際は右手首はドラゴンの一部みたいなものになってたりするのかもしれないようなしないような?」
■アルケ■
いろいろ語ってくれてるけど結局お互いわからないのね。いやまぁドラゴンのことなんて誰がわかるだろうか? そのドラゴンに繋がること自体ありえないのに、ドラゴンの自然治癒だとか血が流れたとかどうなのよそれ。力もやたら強くなってるっぽい上に魔力もあがるって何その反則。ひょっとすると回復力も跳ね上がってるかもね?