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Blood of Dragon  作者: 居反り
第2章
32/32

第32話

 北東の街道跡へ探索にでている10名、ハンター二人を先導に5名が続く。この5名は牛人の若者、兵役に一度出て帰ってきている者たちである。5日分の食料以外に手土産として拳の半分ほどの岩塩と蒸留米酒、それに去年のものであるが米を手分けして80kgほど余計に担いでいる。一人当たり20kgは担いできているが彼ら牛人にとっては余裕である。残り3名はハンターであり左右と後方を警戒して続く。

 街道跡は集落跡地まで川沿いにあるおかげで多少は視界が広く、移動も楽である。交易や狩の拠点として行き来があるため下草に埋もれる程度で済んでいるのもあるが。

 ただし、不用意に突っ切ろうとすれば逃げ遅れた獣の反撃を食らったり、毒蛇や毒虫に出くわすこともあるため打ち払いながらの行軍となる。


 途中三度ほど休憩を挟み、仮眠程度で一気に集落跡地まで進んできている。これは村に程近いことと、集落跡地とはいえ来るたびに伐採し小屋も手入れされているためゆっくる休むことが出来るからでもある。小屋に限られるが獣避けの結界が張られており中には日持ちする保存食等の蓄えもある。これも毎回入れ替えて保っている。


 これ以外に獣人側からの交易品が積まれていることもあるが、これは交易時期以外にも運ばれているものである。かわりに保存食の穀物などが適量無くなっていれば取引成立といった具合。不足なり希望なりがある場合は札お互い木札に書き残して伝言としている。

 村のハンターである猫人たちと獣人国の残存部族はほぼ親戚縁者であり、嫁や婿の行き来もあれば傷病者の村への受け入れなどでも交流がある。残存部族とはいえ因子が薄く森の生活が厳しいと判断された者も村へ降りてくるのでつながりは深い。

 村としても優秀なハンターがいることはプラスであるし、村の耕作地も荒れないように維持している状況なので人が増える分には問題がない。ちなみに余剰作物は酒の原料となるか牧場にいる豚や牛馬のエサとなる。




「さて、ここまでは何もなかったわけだが」

 この偵察隊のリーダーであるハンターの男が言う。

「予定通りここで隊を分けるか?」

 サブリーダーである牛人の男。予定ではハンター3名ともう3名でさらに奥までいく手はず。

「我らだけで行動する方が身軽なのだがな。出くわしたとしても道を外れて森に入れば追うことは出来んはずだし」

「ゴブリンがどのルートで移動したかは不明だが獣人の支配領域を掠めぬはずはない、なのに1部族ほどが聖龍の山までたどり着いている」

 リーダーの言うことももっともだと頷きはするがそれでも不安の方が大きいため反論する。そもそも村から山々を越えた北側に広がる一帯を押さえている獣人たちを避けてたどり着けるとは思えない。山深い森の中のゴブリンの1部族ごときなら簡単に罠に掛け待ち伏せし時には行軍中に掠め取りと、彼らであれば苦もなく排除するはずである。見逃すなどということも荒らされるだけなので絶対にない。

「何事もなく、向こうからも来てくれているとよいのだがな」

 この時期の交易は村の収穫が落ち着いた後、およそ一ヵ月は後になる。お互いにおおよその時期を見計らいある程度ごとに運び込み最終的に顔をあわせ交換するのが常。前もってくるには少々早いので望み薄ではある。

「コヴシープ村跡までは予定どうり行こう、北西からの偵察斑がエルサイブ峠越えで合流できるはずだ、そこから先に向かう場合はハンターだけのほうが良いかもしれん」

「ここからの山越えはかなりの難所なのだがな、まぁ超えてしまえばコーヴス川沿いはより開けているし」

「そのあたりは狩にもなれたものを選んだ来たわけだし大丈夫だろう」

「ではそうするか。山越えは明日、それまでに交代で休憩を取る。特に牛人の山越え斑は十分睡眠もとること。以上だ」


***


 アルケとサマサが村娘たちと露天風呂を楽しんでいる頃、その少し前から男共は動いていた。それは大きく分けて2つのグループであり、別行動を取る。一つは妻帯者を中心としたおおよそ30~40代の男、彼らは娘たちの成長の具合を確かめるべく果敢にアタックしていたがサマサの《ミスト・ウォール》をはじめとした妨害魔法によりなかなかたどり着けずにいる。

 もう一方のグループ、こちらは18~20代後半までといったところ。半数は結婚し子供もいるがまだまだ若輩扱いされる者たちである。それを指揮するのは村の変り種、兵役に出てすぐ学力で軍に取り立てられ、さらに国費で南へ薬学を修めるために派遣された経歴を持つ男。今はディファレイの軍学校で薬学を教える立場にあるが長期休暇を取り村に帰ってきていた。


 手早く実働要員を集めるとサブリーダー格の男に確認する。

「場所の方は大丈夫なんだろうな」

「任せろ、今ここにいるのは皆長老宅の屋敷森の下草刈にいったはずだ。中に栗の木もあるからそうでなくてもよく拾いにいくしな。入る場所と向きを間違えなければ問題はない」

村の周囲―結界の境目―の森とは違い川沿いの林や屋敷森などは意図的にドングリが取れるよう残されていることもあり子供にとってのよい遊び場となっていた。

「桶のほうは確保できた、荷車にのせてくるからもうすぐ着くだろう。設備の方は抑えてあるから問題ない」

「ではいくぞ」

「任せた、タイミングと合図も見落とすなよ。後、引き際が肝心だぞ? いいな」


 選ばれた者たちの寡黙なアタックが実り、無事にたどり着く。《ミスト・ウォール》により視界を防がれ、ミストの混ぜられた《ミューカス》により動きを徐々に重くされる。竹の樋を持ち、それを押してもらうことで何とか進んできた。さらに近づくと《コーズ・フィアー》も用意されていたが彼らの目的地はその範囲外。

 彼らの狙いは露天風呂の掛け流しの湯の排水口。彼らも見たいのであるがあえて実を取る。たどり着いたところで先ず網で受け、さらに樋を差込む。後に続く数名が同様にして樋を繋ぎ外で待機する荷車の桶に流し込む。ここ数日、この露天風呂使用者は巫女様一行以外はいないし迎えた当日にも徹底して掃除してあるので確実に入手できるはず。

 ふと、月明かりが差し込み樋に流れる湯が鮮明に見える。

「ここの湯は透明なはずだが……」


 先頭のサブリーダーの所にはかろうじて中の嬌声らしきものが聞こえていたがそれも程なく途絶える。これまで立ち上る湯の香りに当てられてもなんとか耐え忍んできた。

「微妙に聞こえてたのも辛いが急に静かになると余計気になるな。しかし変化があったということはそろそろ引き上げるべきか。ブツのほうは確保できていることだし」

 樋を叩き引き上げる合図を送る。帰りも次の者に引いてもらうことで確実に帰還できる。そうこうするうち、周囲が俄かに騒がしさがましたように感じられる。なんとはなしではあるが妨害魔法が薄れたような感覚もある。

「どうやら引いて正解だったようだな」

 中継地点の仲間に話し掛け、次まで引いてもらうよう合図を送る。後二度繰り返し、樋は森の中に隠して撤収までが彼らの役目。運搬は別の者達が、抽出はリーダーが担当する。


***


 若輩者が確実な成果を上げている傍ら、オヤジ共は奮闘し続けていた。視界を奪われ木々を迂回するのもままならない。さらに時間がたつほどに粘つく霧に覆われ動きを抑えられ始める。

「このままでは埒がいかんの」

「これほどまでの警戒ぶり、娘たちだけでなく巫女のお側にいた方もおいでなのだろ」

「あの方もなかなか立派な物をお持ちのようだったしな」

「貴様らはどこに目をつけている、巫女どののようなタイプはなかなかおらんぞ? あのサイズで垂れてないのはなかなかおるまい」

一団となって絡め取られつつ進むオヤジたち、まだ見ぬ裸体の妄想を糧に突き進まんとするももはや方角すら怪しくなってきている。

「屋敷森だというのにこうまで防がれるとは、なかなかやりおる」

「うむ、しかし心なしか軽くなってきたようだ」

「時間切れかの」

「急ぐとするか《マッスル・ヒート》」

「おぅ滾っとるねぇ、わしらも続こうか《マッスル・ヒート》」

次々、漢心を滾らせ突破せんとするオヤジたち、何処かのバカとはちがい意図的にセーブしつつ必要な力を発揮させる。一歩、一歩進むごとに沸き立つ力により身が軽くなる。近づくほどにえもいわれぬ香りに当てられさらに滾る漢心。

「皆の者、あと一息、あの繁みの向こうぞ」

「オゥ、ここまできて逃せるかっ」

「ふはは、我一番乗りっ」




かぽーん




 そこは、桃源郷だった。桃源郷ではあった。桃源郷には違いなかった。若干、年齢層があがってはいるが。




 パコーン

「あんたら全員正座っ」


 香油と酒に当てられた娘たちを全員運び終わり、交代で入っていたご婦人達。既に薄れ始めてはいたがいまだに残る香りのおかげでずいぶんゆったり寛いでいた。酒に関しては当然追加で持ち込み皆でゆるゆると飲み交わしていた。

 そこへ、娘の姿を拝まんと突破してきたオヤジ共が勢いあまって乱入。彼らは彼らで当初の目的である鑑賞を横に追いやり、ただ障害を突破せんとしたのは香油と娘の香りに当てられたせいか。全員繁みを突き抜けなかには湯船に落ちる者まで出る。

 瞬間、全員が止まった。


 いち早く気を取り直したとある奥さん(38)いまだに十分現役な彼女の一喝でオヤジ共は洗い場で横一列で正座。ほかのご婦人方の数人も彼らの前で仁王立ちで説教開始。

 他はそれぞれ湯船の縁にたぷんと載せて眺めたり、その傍らで互いに酌をしつつ飲んだり飲まれたり。肌の張りはともかくむっちりふにっと具合では彼女らの方が断然上であるところにいっさい隠す気なし。いまだ立ち上る香油の香りは湯船に浸かる木桶からか。乳色の湯から立ち上るソレに加え彼女らからもなかなかな香り。説教中の奥さんたちも肌も湯気と湿気だけでなしに光る露の玉がつつーっとたれる。よく見ると若干乳白色だったり場所によっては粘性も。


 オヤジ共は見上げつつこれはこれでなかなかな絶景なワケで、いまだに《マッスル・ヒート》を解除していない為漢心は滾ったままであり、ソレはごく一部に集中するわけで。

「んもぉぉおおおおおおおおお、しんぼーたまらんっ」

「やってやるっ、わが棍捌きでいかせてやるわっ」

「ふっ、ぬしらには負けんっ、まとめて果てさせてくれよう」




 娘さんたちを一通り布でスマキにし、大広間にころがしその傍らでチビチビやってるアルケとハガネ、サマサはアスターをヒザに載せて付き合っている。

「なにやら嬌声が聞こえてきてるんだけど?」

「解除するの早かったですかね? 一番近づいてた気配が引き上げたのは確認したのですが」

「んー、逃げてきてないみたいだしいいんじゃないかな? 」

アルケの疑問に魔法を解除したというサマサ、ハガネが適当に突っ込む。

「ん、子沢山なのはいいことだ」

「いい加減ですね。にしてもおじさんたちの子とずいぶん年が離れるんじゃない?」

「しばらくお風呂使えないね」


 翌朝、艶やかなご婦人方と枯れはしたがやり遂げたオヤジ達が建築現場にいたという。

《コーズ・フィアー》恐怖の喚起

TRPGより拝借、ほぼ同系統と捉えてください、今回彼女が使ったのは一応死霊ではないとだけして置きます。似た何か、ということですが。

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