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Blood of Dragon  作者: 居反り
第2章
30/32

第30話

 北西の集落、そこは中央の集落ほどではないがそこそこの数の家屋があつまる。ミルストニス川とニティニーネ川に挟まれた平地の中央付近に位置し、集落の家屋は中央からの入り口である東から北西へ抜ける道に沿う形であり、その両端に倉庫がいくつかまとまった数があった。それ以外にもわき道の先にある家屋や倉庫なども散見される。


 北西へ抜けた道はニティニーネ川にぶつかった後そのまま沿う形で下流の北東の集落まで続く。森にのまれる前であればそこに橋がかかり、山越えの道の入り口であったところである。村の結界はニティニーネ川の対岸、わずかばかり森のに入ったあたりでありこちらから見る限り穏やかな里山にしか見えない。


 その境界沿いの道を4名の少年が天秤棒を槍のように担ぎ歩いている。目は常に対岸に向けられており異常が無いか目を光らせている。この付近の道の側の耕作地はイモだろうか、畝一面に濃緑の葉が茂り這い回る。川沿いからは遠く見える村の水田は水が抜かれ、頭を垂れた稲穂が黄色く色いている。収穫まであと10日、遅くとも半月後には忙しくなる。


 しばらく歩いた後、先頭の少年―今年15歳、何事もなければ冬の前にヘロナマウトへ兵役に向かう予定―の合図で小休止、2名交代で水筒の水を飲み、見張りと交代する。




 それを見守る30代の男、彼は一昨年まで軍に在籍しており、彼らの教育係として随行している。少年たちが森にばかり気を取られている点、両岸の草の繁みやこちら側の耕作地にも注意せねばならないことをどう伝えるか考えていた。別に試験というわけではないため早い方がいい、となると中間地点で予定している大休止の時がいいだろう。


 川沿いの道の中間点はモータリス村の中央集落からまっすぐ北へ突き当たったところであり、付近の者が数名常駐することにしている、そのおかげで全員で休憩することも可能。こってり絞るのは本番の兵役で十分だろう、今は軽く指摘し慣れさせればいい。


 ゴブリンへの警戒は訓練のスパイス、年少者の訓練の一環として昼の哨戒は組まれている。


***


 北西の倉庫群に着いたアルケとエルフィナが見たものはバカだった。


 顔役と村娘の伝令隊のおかげかこちらでも掘削作業ははかどっている。規模が小さい分ぐるりと取り囲むのもすぐの様だ、しかしながら作業する者の内、男性陣の様子がおかしい。具体的にいうと妙にボロボロになっている。作業が荒くて汚れたといった雰囲気ではないのは取れかけた袖やほつれた頭髪から。決定的なのは数人の顔にアザらしき跡がついていること。


 倉庫群に囲まれた広場の中央、ひときわ大きな体格の男が娘さんを抱えて吼えている。それを窘めるのか説教中なのかは不明だが顔役とおぼしき男と同年代の者が向かい合っている。


「なにをやってる?」

 入り口付近にいた年配の男に聞く。


「これは巫女様、お恥ずかしいところを。騒いでおるのはあのバカだけですので。作業も哨戒の方も今のところ問題は無いのですが」


「巫女とかやめて、なんかむずがゆいし。作業とか進んでるならいいんだけど、っていうかあの娘さんなんか項垂れてるのがね」


「はぁ、今朝こちらに来た娘を見初めて結婚をせまっておるというか、捕まえて吼えとるだけなのですが」


「なんか聞こえるけどずいぶん恥ずかしい思想の持ち主ね」


「たしか18になるのですが、アレなものですから兵役に出すわけにもいかず」


「ゴブリンの10や20ぐらい蹴散らしてやる? 俺をみるだけで逃げ出すだろうからてを出すまでも無い? なんというか……、あの子実戦経験もないんじゃない?」


「膂力だけはあるのですが、なにぶんバカですので狩にも連れて行くことも不可能でして。訓練では敵なしなのもバカに拍車をかけるありさまで。この集落ですと今兵役にいっとる者や軍に行っておる者にはかなわんのですが」


「それで作業してるおじさん達がボロボロなわけね。とりあえず戦力外なだけでなく邪魔者か。しかも娘さん抱えるとは許しがたいね」


『ハガネ、棍』

 するりと右手に出現した石製モーニングスターを、軽く投げつける。

 バカの顔面にHit。


「いてぇ、なにしやがるっ」

 さすがに娘さんから手を離し顔面を押さえる、両手で顔覆うとはさすがバカ。


『刺又』

 一気に踏み込み首めがけ突きいれ、そのまま倉庫の壁まで押し込む。

「バカは邪魔なだけ、しかも弱いのに吼えるし。さらに娘さんに手を出すとは許しがたい、これ以上邪魔するなら玉抜くよ?」


「うるせぇ、はなしやがれクソアマ」


「力自慢の割りに押し返せもしないじゃない?」


「クソがっ、ちょうしにのんじゃねぇ。

唸れ筋肉っ! 《マッスル・ヒート》!」

 暑苦しい掛け声とともに膨れ上がる肉、およそ150%増し。

 迸る漢汁(汗)が陽光にきらめきえもいわれぬ香りがあたりを包む。

 刺又を両手で掴み、さらに増量される肉と漢汁で柄を握り潰す。


「多少はやるのか、しかしむさすぎる。娘さんはやれん」

『ハガネ、突棒』

『はいさー、っていうか臭すぎるよね。体臭技?』

『なんか陽炎まで出てるわ、どんだけ迸らせてるのよ』

 臭すぎるため距離をとり、突付きまくる。

 バカの筋力は凄くはあるが、その分スピードは著しく欠ける。

 アゴ下に突き入れ、そこに伸ばした手を払い、隙を見て膝にも打撃を入れる。

『やたら頑丈みたいね、めんどくさくなって来たから何処かに縫いとめとくか。邪魔だし』

『刺又の大きいのでどう? 首と手足に打ち込んどけばうごけないんじゃない?』

『倉庫に刺しても壊れそうだけどね、なんかない?』

『んじゃU字ブロックでも出そうか。縫いとめた後で強化しなおせば壊れないだろうし』


 一瞬、後ろを振り返り周囲を確認。

 人垣が出来てはいるが距離は十分。

 ゴスッっと逆さにした3m角のU字ブロックを出現させる。

 アルケの真後ろに出現した物を見て驚くバカ、むろん周囲で見守る村人も驚いているが。


 その隙に突棒を横薙ぎ後頭部を引っ掛け引き込みつつ位置を入れ替え、再度突付きまくり壁際まで追い詰める。


『ハガネっ、縫い止めるっ!』

 突棒を脇に放り投げ、大型化した刺又で右手、左手と絡みつけ跳ね飛ばし大の字になるよう手首を縫い止め。ついで両足も同様に。最後に首が絞まるギリギリまで打ち込む。


 U字ブロックはヒビが入りはしているが炭素繊維メッシュのおかげではがれることも無い。

「案外丈夫に出来てるのね」

『臭いけど近寄って、ヒビうめとくし』


***


 バカの処理を年配の村人に任せ、北西の顔役と状況確認。高床式倉庫x4に農機具倉庫x2を四角く囲むように一辺120mほどで掘り、今3辺が終わるところのようだ。取りあえず出来ている部分だけでも強化しておくこととし、その間に適当に作り出した武器を選んでおいてもらうことにする。被害にあった娘さんは休憩―おそらく付き添われて水浴び、バカが臭かったし―なので他の手の空いた娘さんがたにお茶の準備などもしてもらう。こういうのは休憩みたいなかんじで手に取り試したりしてもらうのがいいからね。


 出したのは鉄製の槍とショートソードそれぞれ10、他に石製の槍、棍棒、タワーシールド、バックラーをそれぞれ40。ついでに突棒と刺又も10ずつ置いておく。弓はあとで使えるかみてもらいたいのでハンターさんに集合しておいてもらうように頼んでおく。


 堀と壁の設置はずいぶんなれたので手早く終了。うまく伝達できていたようで直線的に掘られ、転圧もほどほどにかかっていたのもある。堀の5m角も壁の3m角もある意味規格品。各コーナーに塔も設置、杭代わりのブロック設置が一番手間取った。




 広場に戻るとバカは未だ説教中、一晩でおとなしくなりそうに無いので二三日そのままにしておこうかなどという声も聞こえている。顔にアザ作られた人けっこういたせいだろう。

 武器選んでもらってる人たちは何人かで組み手のような格好で試しているようだ。突棒や刺又を手にしている人もいるので説明は不要だろう。丁度バカ打ちのめすのが見本となったようだ。


 少し離れたところにハンターが数名、ハーフとはいえワーキャット、外見でわかりやすい。

「ハンターさん方に試してもらいたいのはこういうのなんだけど」

 と、取り出したのは手本とした弓のコピー品とゴブ骨コンポジットボウ。各人に手渡す。

「矢のほうなんだけどね、こういうのでも使える?」

 と見せたのは矢羽のない矢。


 手に取り具合を確かめるハンターさんたち。

「バランスはいいようですね、これだとたぶん大丈夫だと思いますが」

「試し射ちすればよくわかりますがね、おそらく飛距離が落ちる程度ではないかと」

「弓も素材が違うようだし試してみたいね」


 ちょうどいい壁が出来ているのでバカを縫いとめた反対側に木の板を貼りつけ的にする。矢の方はまとめて100本ほど出して一人に抱えてもらっている。矢筒なども必要なのかもしれないが、今は弓と矢の出来具合の確認が先。

「木の無垢のは普段使っているものに近いな」

 かわるがわる試し射ちながら。的に当るたびにカツカツという音が響いている。

「この黒いのはなかなか強いがその分やっかいかもしれん」

 引く力を要求される分、遠くまで飛ばせるだろうが使えるものが限られることになる。

「30m直射で頭を狙って胸上のあたりか、慣れればどうにかなるな。曲射は狙って打つものではないしそのときに修正すればいいだろう」

「どの道数がそろはねば意味無いからな」


 概ね合格はもらえているようだ。

「その出来でよければ木と石さえあれば数はおいていくことが出来ますよ」

 少々セールストーク気味のアルケ。

『ついでだからこれ試してみる?』

 ハガネが出したのはここに来るまでに作っておいたクロスボウ。

 使い方はイメージでレクチャー済み。


 弦を引きボルトを置いて指差すように狙い、軽く引き鉄を絞る。

 ガスンッ。と短い矢ではあるがひときわ大きな音を立て、筈の近くまでめり込んでいる。

「これは引くのに力いるね」

『アルケさんに合わせて作ったつもりだからね、もっと軽いの試してもらう?』

 そして出て来たのは一般的なライフルタイプのクロスボウ。木の無垢とコンポジットの中間ほどの張力にしたもの。

「直射専用だけどね、ちょっと試してみる?」

 そういって横にいたハンターの一人にボルトと共に手渡す。


「機械弓ですか」

 受け取ったハンターは一応知りはしていたようで、軽く説明しただけで使ってみせる。

「私が見たのはもっと大型で攻城兵器でしたが」

 ガスッっとアルケの時よりは控えめな音とともにボルトが的に食い込んでいる。

「小型化されているようですが重いので少々扱いがたいですな、威力はありますし狙えれば弓より正確に当てられそうですが」

 フットバーを踏み、両手で弦を掴み背筋で引きながら、その割りに狙いやすい事も把握したようだ。


『狭間をちょっと工夫して置けるようにしたの出してみようか?』

「台に置ければ娘さんでも使えないかな?」

 試し射ちを一旦中断させて、ドカっと横置きU字ブロックを設置。今回の狭間は横長、クロスボウを載せてねらいを付けられる程度の巾になっている。

「はいはい、驚いてるのはわかるけどここの溝に載せて打ってみてよ」

 狭間の隙間をポンポンと叩いて促す。


 この後、張力を変更した物をいくつか試し、脇に付き添っていたエルフィナさんに試し射ちさせてみたりしてそれぞれ調整。弓の方は元の自分のものと予備に気に入ったものを1張りずつ配布、矢はまとめて1000本どかっと渡し管理は任せる。

 さらに村娘さん用にクロスボウ(ピストルタイプ)張力は弱めを20丁にボルトを1000本。これも指導含めハンターさん方に任せる。

ハンターさん方の普段の装備(狩猟時)

ショートボウx1、矢x8~15

ショートスピアx1(1.5m程)

ショートソードx1(山刀)

水筒、携帯食、綱、傷薬等


槍か剣はどちらか、3~5人で組んで小型の獣を取るか大型獣向けの罠を設置し回収する。

村からせいぜい2~3kmで十分取れるぐらい獣が多い、その分危険種も多いので普段は深入りしない。

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