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Blood of Dragon  作者: 居反り
第2章
29/32

第29話

 翌朝、広場に出ると村のおばさん中心に炊き出しが行なわれていた。

 振舞われていたのは汁物に米を入れて煮た粥、大鍋に干し肉や野菜と一緒に炒め煮したものを更に水でのばしたもの。全部入れて火を通せばどうにかなるので、大人数の食事を朝から作るのにも向いている。むろん、ご婦人方の腕前なので大変おいしく出来ているが。なにより椀の一つで腹が膨れるし、朝の冷え込みもあってあったまるのもいいところ。


 鍋は火からおろし、今は湯を沸かしてある。アルケはハガネのにも食べさせながらなので遠慮なく2杯、サマサは1杯食べた後白湯をもらっている。アスターにはハガネがこっそり出した生鹿肉の筋を刻んで皿に入れてやっている。


 男性陣は既に半数は食事を終わり作業に向かい始めている、今日は石材の回収斑は昨日の半分に。かわりに掘削作業斑を増員してもらう。地縄張りは既に昨日してある、今日は一気に掘り下げるより全体を浅くでも掘り進めることを優先してもらう。それ以外に街道側にある入り口の向かい側―旅籠の屋敷森の一角―を伐採して視界を広くする作業も行なわれる。南部の伐採斑の木材も今日の昼ごろからこちらに届けられるはずだ。


 アルケも白湯をもらい、木の椀を濯ぎながら飲んだあと炊き出し担当に返す。受け取ったおばさんが軽く湯を入れてゆすぎ脇においた台に伏せて並べる。まだまだこれから朝食という者も多いので忙しそうだ。


***


 広場の反対側では顔役ほか数人が仕事の振り分けをしていた。

 昨日から来ている人は既に班分けされているようで7~10人ごとに川へ向かう斑や、道具を手に掘りへ向かう班など。女性陣の班分けもされておりこちらは掘削斑の補助だろうか、もっこをもって移動する姿が見られる。


「村長、私とハガネは各拠点をまわろうと思っているんだけど誰かつけてくれない?」

 顔役たちが取り仕切る様子を少し離れたところで見守っていた村長にアルケが聞く。彼らは村の次の代表者候補といったところだろうか、顔役は次期村長なのかもしれない。


「おはようございますアルキオネ様。早々に動かれますか、申し訳ございません。

それはそうと馬でまわられますか? そうなりますと、手すきの者で乗馬もできる者をと」

 男は兵役前に訓練するので全員乗れる、女は牧場周りに住む者ならまず乗れるが全員というわけではない。村から出ることが無いため必要もなければ機会も限られるから仕方ないのだが。

「ん、丁度よい所に、エルフィナっこちらに来なさい」

 そこには幸せそうな顔でお椀を持ち木匙をくわえている村民Aさん。村長に再度呼びかけられそのまま駆けてくる。

「なんですかそんひょーっ」

 隣にいるアルケとハガネを見て昨晩のことを思い出したのか、驚いて椀と匙を取り落としてしまってる。アルケ達に驚いたのでなく、魔法で作ったという建屋のことを思い出していたのだが。じっさい、さっきまでそこで寝ていたのでよく覚えている。ざらついた質感だが継ぎ目の無い壁と床、天井も同じ素材で作られていた。一緒に寝た娘たちと色々見ても不思議だったがちょっと硬い以外の不満は無い、むしろ皆の家より余程頑丈そうで安心できた。


「エルフィナって言うのね、名前」

 取り落とした椀と匙を拾い立ち上がったアルケ、その二つは即ハガネが取り込み、手渡す前にミントティを淹れて渡す。

「これ飲むと落ち着くわよ」


「ありがとうございます? どうやって??」

 空のはずの椀にすっとする香りのミントティーが入っているので驚かないほうが無理がある。


「村長も飲む?」

 アルケはそう言って磁器風の湯のみに入れたものを手渡し、自分でも同じものを一口。

「魔法。何も問題は無いよ」

 実際は肩の上のハガネが右手の平の付け根まで体を伸ばし、そこで取り込んだり出したりしているだけだが。

「今日は他の拠点を見て回ろうかと思ってね、村長に誰か案内に付けてって頼んだんだけど」

 ひとくち飲んで、あっおいしい、などと呟いてるエルフィナ(村民Aさん)を見やりながら。本人は左手に湯のみに入ったミントティ、右手に鹿肉サンドを持ちほおばっているのでちょっとモゴモゴした喋り方だが。鹿肉サンドは物足りなさそうなアルケを感じ取ってハガネが出したもの。暖められた黒パンにタマネギスライスと鹿肉が挟まれている。味付けは鹿の骨の髄とニンニク、タマネギ、トマトを煮込んだものでかなり濃厚。

『ハガネ、これ美味しいね。こんどクルスがいるときにもお願い』


「エルフィナちゃん落ち着いたかな? お腹すいてるならコレ食べる?」

 何気なく鹿肉サンドをもう一つ手に持ち差し出す。

「お仕事前のご褒美だよ、連れまわすけど疲れたとは言わせない」

 受け取るのを見届けて宣言。


「あぅ、なんかいろいろ諦めましたし」

 ぱく


 もきゅもきゅ


 ぱくもきゅ、ぱくもきゅ

「んんっ~」

 バタバタ


「色気より食い気なのかしら、この娘」

『ゴハンで釣れるなら簡単かも』

「ふむ、そういえばまだ浮いた話も出ておらんかったはず。年齢的にはそろそろなのですが」


 じとっ

「今、集落にいる男の人はおじさんばっかりじゃ無いですか、それに12歳以下は対象外ですよ」

「お前さんの家の周りだとそうだったかなぁ、今年帰ってくる者でもねらっとるのかい。それならワシからも口を利いてやろうかの? 確か何人か年頃の男が兵役から帰ってくるはず」

「いや、あのぉ、なんというかまだちょっと早いというか、まだなんにもして無いというか……」


「はいはい、なんかごちそうさま?」

 パンっっと手を叩き。

「それじゃ村長、エルフィナちゃん借りてくわ。こっちはサマサが残るけどできるのは伝言ぐらいかな。いろいろ作るのはとハガネだし」


「アルキオネ様、そういえば弓と矢が昨日の夜に届いておりましたが」

 すぐ側の倉庫の入り口に立てかけてあった弓と矢筒を持ってくる。


「そういえば頼んでたね、ちょっと借りるよ」

『ハガネ、お願い』

『了解、取り込んですぐ複製して返すよ。

矢の素材が足りないのは移動中にどうにか考える』

 アルケが受け取りおよそ5分後に再び現れた弓と矢を返す。

「ありがとう、これは元の持ち主に返しといて」


 ハガネは解析し複製した弓を思案中、矢に関しては矢羽の素材の鳥の羽に持ち合わせが無い。取り込んだ矢は鳥の羽の裏表の反りを利用した三枚羽、どちらかを揃えて付けられていた。放てば時計回りかその逆に回るのはわかる。単純にカーボン繊維の張り合わせでうまく作れるか、作ったとしてその物が見えているのもどうか。

 既に意識は再構成と改良に向いている。知識を継いだとはいえ素人の思考でどこまで職人に迫れるものかは不明であるが、今までの小太刀や大太刀のようにうまくいく可能性も無いとは言えない。少なくとも素材の加工に合成や接着はハガネに勝てるものはいないのは確実であるし。


 エルフィナを伴い旅籠の厩へ向かうアルケを見送る村長。手には木の椀と匙のほか磁器の湯飲みを二つ押し付けられている。

「よろしくお願いいたします」


 さて、と手の中の物を見やる。木の椀はともかく磁器の湯飲みはどうしたものかと。

「この二つだけでも街へ持ってゆけばいくらの値がつくことやら。今、村の資源や労力をつぎ込んだとていくらでも取り戻せましょうに。鉄や塩どころでなく村に無い野菜類の種を得ることも可能でしょうか。先渡しされた物だけでも金額で考えるのが馬鹿らしい物ばかりですが、なんとしてでもご期待にこたえねばなりますまい」

 そう呟きながら差配を終えた顔役たちのところへ向かう。


***


 アルケが村長を捕まえて案内役の交渉をしている時、サマサは既にアスターと散歩に出ていた。いろいろ作り出すハガネとアルケは各拠点を回って様子見、さらに道具か武器でも置いてくる予定である。では私に何ができるのか? という問いの答えだ。

 散歩、犬を飼う以上必須の行動。縄張りの巡回というより排泄の為という側面が大きいか、アスターは女のこだし。子犬の成長の為にも良く食べさせたらそのぶん運動させるのはよいことだし


 という感じで昨日は旅籠の廻りを一周した、当然、出会う村人に話しかけ仕事を押し付けた格好ではあるがそのことにやんわり礼を言い、実際作業していた川原では男衆にも声をかけ労い。

 おかげでか、砦の地縄張りには参加したさい、彼らの想定よりふたまわり大きめにすることを了承させたりした。


 今日も昨日と同じくのんびり散歩する風を装い、作業を見守ろうと思っている。




「なんともまぁ凄い代物だな」

 昨日の続きをと堀に集まった村人の一人が言う。

「女どもが寝とった小屋と同じ素材かのう、一見脆そうじゃがこれだけ厚みがあるとそう簡単にぶち破れるものでは無いだろうな」

「角にたっとる塔も同じ素材のようだが、中に階段があるしそれぞれに窓もある」

「それによ、中に大盾に棍棒と槍も置いてあったそうだ」

「魔法、と言っておられたが」

「これだけのものをあっという間に作れるのなら……」


「作るのは簡単な方らしいですよ、でも物を集めたり土地をどうにかするのは時間がかかるそうです。それに、そうですね、あまり言っても仕方ないかもしれませんが。男の方々はある程度は事情を説明されていたかと、皆さん軍歴もおありでしょうしそのあたりは」

 村人たちのざわめきに割ってはいるサマサ。


「おぅ、皆まで言ってもらわなくてもわかるよ。それに村のことは村の者でやるのが筋だ」

「知らせてくれた上、手伝ってもらうとは望外」

「何もなければそれでよし、何かあったときに元のままならたとえ1部族でも、な」

「今までが結界に頼りすぎではあったのだからなぁ」

「そうだの、夜半に入り込まれたら小集落のひとつふたつはあっというまじゃろ」

 男たちのうち50代の数人から。

「こういったことは砦の補修で慣れているからな」

「伊達に他の倍以上兵役や軍にいっとらんよ」

「お前は他の5倍はいっとたろ、嫁と子の世話誰がみたとおもっとるんだ」

 最後に一つ、余計な突込みが入っているようだが。


 それを聞き、ただにっこり微笑み返すサマサ。

「では皆さん、きょうもよろしくお願いしますね」

 そういってアスターと散歩に戻る。


***


 エルフィナを先頭に馬で北西に向かうアルケとハガネ。ハガネは例のごとくカバンに収まって取り込んだ物でいろいろ作成し実験を繰り返している。今取り掛かっているのは弓。ここの弓は1本の硬い木を削りだし動物の腸と思われるものを張ってある割合簡単なもの。大きさは立てて大人の腰あたりでどちらかと言うと小ぶりでは無いだろうか。おそらく樹海の中に持ち込むためなのだろうけれど。


 グリップは中央、細くした皮ひもを巻きつけ樹脂を塗りこんであるようだ。上部に比べ下部が太く硬めになっている。このあたりの加減も弓としては大事なところである。ただ頑丈であればどうにかなる棍棒や、構造をまねてうまくいったと思える太刀とは違うところ

『最後はいくつかサンプル作って試し射ちしてもらわないと確実とはいかないよな。いっそのことクロスボウでもつくっちゃおうか? アレなら左右揃えればいいし』

 矢羽も張り合わせた薄板一枚挟むだけでいいかもしれないし、付いてないのもあったはず。何より直接照準で精度はいいはず。使い方説明しなきゃややこしいかもしれないけど簡単な訓練で命中させられるようになるはずなも魅力だ。断片的に浮かび上がる記憶をかき集め検討しながら方向性を決める。


 そういや刺又とかもあるんだよな、取り込んだままだから作り変えとかいくらでもできるけど説明しなきゃならないものが多いのはよくないかもしれない。

 クロスボウも一つだけ作っとくか、使い方はアルケさんにイメージで伝えればどうにかなるだろうし。


 素材の方はどうするか、全部カーボンだと弾力ありすぎになりそうだし、コンポジットボウまねて骨とか張り合わせるかな? 鹿の骨でもいいけどゴブリンの骨が大量にあるし分解して再構成したらただの骨でしかないしね。そういや腱もあるけど。

 ベースは何かの骨、それにほぐした筋を伸ばして貼り付けカーボン繊維で巻いた上で合成、弦もそのままカーボン繊維とする。本体は普通に作るなら板材の張り合わせが楽だろうけど、ここは好きなようにいじくれるから削りだしで、それも圧縮神木。引き金 とバネは金属で。先端にフットバーも付けておく、バイポットみたいに使えなくも無いし。ついでだからグリップはブルパップ方式みたいに中央付近まで前にだしておこうか、終端を曲げた肘の内側ぐらいにしておくと取り回しは楽かもしれないし。

 アルケさんの腕力なら指差すようにして照準してもらえばいけるだろうしね。クロスボウはこのぐらいにしておこう。実際に試して調整しなければならないだろうけど。


 さて、本命は弓のほうだけれど。そのまま複製してはみたものの、素材の差で強度やバランスが同じとは限らないのが問題か。こちらの方は狂いがあるとうまく飛ばないことが予想されるし。一応こちらもコンポジットボウもつくっておこう。どちらも一つずつ、何度か試して調整が必要であるし。


 それ以上に問題となる矢に関しては、クロスボウ用のボルトは最初に考えたとおり張り合わせた薄板を矢羽とした。鏃は矢と同じ径の石、これを10本。鏃をブレード状にしたものも10本。実験用に用意。弓用には複製したものと同じサイズで作成、ただ今のところ矢羽はなし。

オールカーボンのリムもありかなと思いましたが製作物はコンポジット


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