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Blood of Dragon  作者: 居反り
第2章
26/32

第26話

「よろしいでしょうか?」

 ちょうど動きが止まったところをみはからい村長が声をかける、それを見て村長の奥さんも出てくる。盆に載せた大き目の陶器の椀―小型の丼サイズ―にお茶を入れてき手くれている。

「私たちが夏場の作業後に飲むため入れて置く薬草茶です、お口に合うといいのですが」

 裏口脇の縁台にうながし、薄茶色で少し香ばしい香りのするお茶を差し出す。


「ありがとう、さっぱりしますね、このお茶」

 縁台に半跏にすわり、片手で椀を掴みぐいっと飲む。なんというか非女性的、というか野趣あふれるとでも言うか。かなり地が出ている。

 お茶はいくつかの野草を煎じたものらしく苦味が勝るが飲んだ後はかえってすっきりする物。

 繋がりっぱなしのハガネにも感覚を伝えてみると。

『ハコ茶に近い感じ?』

 香りや苦味なんかで記憶から浮かび上がってきた名を伝えてくる。なんでも疲労回復以外にイボも取れるそうだが。


 晴天の下、そよぐ風がきもちいい。このままぼーっと座ってお茶いただいてるのもわるくない。うん、そういうわけにもいかないんだけど。立ったままの村長見上げ、なんとなく。

「立ってもらったままというのは気が引けるというか」

 縁台の端に横向きに座りなおし、目で促す。


 奥さんがお茶のおかわりにお茶請け持ってきてくれてます、湯のみでしたが村長の分も。お茶請けのマクワウリをひとつ二ついただきお茶をいただいたあたり。


「村の防備のことですが」

 と、あらたまって切り出してきた。


 巡回警備は既に指示済み、男手の7割は元軍人なだけあるのでこのあたりは指揮系統―顔役(長老)の指示だけれど―もそれなりにあるので手早く済んでいるそうだ。

「今まで結界に頼り切ってきたツケなのかもしれませんが、武器といえるものがそれほど無いのが改めて問題でして」

 実際、兵役に行かせる前に一通りの訓練はするので多少はあるのだけれど、数が少なすぎ、配備できたのは戦える者の半数にすら程遠い。弓は更に少なく、矢は無いといってもいい程度。だったらしい。


「なんとなく想像はしてましたから」

 ちょっと見回っただけでも男手が少ないというか、農作業してるの女の人ばっかりだったしね。しかも男は女の人のかわりに普通の倍は兵役につくことが多いそうだし。北部の村なら当たり前にある集落の囲いもないしね。ほんと、どこの理想郷よって思ったもの。

「あまり大げさに晒したくないですが、資材があれば造りますよ、魔法で」

 この辺は昨日も言ったような。まぁ改めてお願いに来たと言ったところだろうか。

「参考までに用意されている武器を見せてもらっていいですか? 倉庫のような物があるならそちらに資材持ってきてもらえればどうにかしますが」

 ついでに倉庫を内側から強化してしまおう、なんてハガネから提案が。


***


 旅籠を出、近くにある建物に案内される。ミルストニス川にかかる橋の袂で村の中心地でもあり、倉庫風の窓のない建物がいくつか並んでいる。いくつかは高床式になっているので穀物庫なのだろう。


「ここなら堀に壁を作るだけで十分砦になりそうね」

『手が空いてる人いるなら掘ってもらっとこうか、無駄になったほうがいい物だけど』

 あいかわらず繋がりっぱなしのハガネから提案。木造藁葺きなので火に弱いからどうにかしたいところなんだけどね。


「ここが武器庫になります、既にほとんどを配りたいして残っておりませんが」

 ここの責任者といったところのおじさん、たぶん顔役の一人だろう人が説明してくれる。実際、武器で残っている物は槍と剣が10本ほど、盾がいくつかといったところか。訓練用らしき棒に木剣もいくつか見える。


「弓と矢はないのか、参考にしたいからいいもの持ってきてもらっていいかな。あと、木材とか石材の手配よろしく。ここ以外に回す分はそっちで作るから西と東にもそれなりにおいといてもらっていいかな」

 おじさんに直接頼む。ほんとうなら村長通すべきだろうが。

「とりあえず男の人に持たせる分が先かな」

 アルケは残っていた槍を手にしてみるが、痛みの激しい物のようだ。使える物は全て配備しているのだろう。ということは他の残りも痛んでいるのだろう。

『ハガネ、とりあえずこの辺のなおしてみようか』

『りょーかい、とりあえず全部とりこんどこう、訓練用のも』

「ちょっと全部使うよ?」

 と声だけかけて、お腹に巻いていたベルトをはずし、ハガネを右手に乗せ。この辺はドラゴンの棲家を掃除した時と同じ要領、さっと撫でるようにして全部取り込み終了。


『とりあえず直すだけでいいからね』

『了解ですよって、剣はちょっと細工しときたいな、こんなのどう?』

 出てきたのは取り込んだモノと形は同じ。刃の峰の部分が石に置き換わっている。


『芯を石材にして鉄を確保してみたよ、2本を3本にできるかな。石と炭素繊維のも出してみるけど試してみて?』

 石剣と木製の人型が出てくる。


「ちょっと下がってて」

 石製のショートソード―鉄製の倍は肉厚―を人型にたたきつける。


 ガッ

 ガコッ


 上段から2連撃、ついで左から右へ打ち払う。

 ガーン


 切れることなく吹っ飛ぶ人型。


「石は今ひとつだね」

『これだと棍棒のほうがいいかなぁ、あとさすがにコレは使い物にならないよね?』

 といって出てきたのはオブシディアン製のショートソード、カーボン繊維仕込みなのは同じ。


 立て直した人型に同じように打ち込む。


 ザクッ ピシ


「刃はあるみたいだけど脆すぎ」

 一撃で止めて刃を見ながら呟く。 カーボン繊維のおかげか砕けるまではいっていないが、打ち付けた部分は刃こぼれし、そこから大きな亀裂が反対まで走っている。

『やっぱり材料無いのがつらいね、鉱石らしき物からも抽出はしたけどほとんどつかっちゃったし』


***


「何をしておいでか?」

 倉庫入り口に退避し、覗き込んでいた村長に尋ねる顔役。

「おぉ戻られたか、手はずの方は?」

 問いに答えず違うことを聞く村長。

「そのあたりは確実に、弓矢の方もハンターの一人につかいを出しているし」

「それなら問題は無いか」

「いやまぁ、それはそれなりにな。で、先ほども聞いたがこの音は何だ?」


「アルキオネ様が試し切りしておられる」

 倉庫ないからは相変わらず酷い音が響いている。入り口からそっと覗くとなにやら打ち据えているのは見える。


「試し切りというか、今は試し打ち据えか? いや、なんとも豪快な方ですな」

 既に二度目なので多少の免疫のある村長。今回のは極まっとうな金砕棒風の物だったこともある。もっとも、石製カーボン繊維強化済みな逸品でまともな重さではないのだけれど。


 顔役も覗き込むがその恐ろしさにすぐに引っ込む。ちょうど全力フルスイングかまして人型ぶッちぎったところなのが不運といえば不運。跳ねた人型の上半分がちょうど入り口付近まで転がってきた。


「コレ持てる人いるかな?」

 アルケが砕棒(石砕棒?)を軽く突き出して村長に突きつける。


 見るからに石、石の塊である。重さは30kgほどはあるか? 大き目の漬物石なりであればもてなくは無いだろうが、棒状な物の端を差し出されて受け取れるほどの力は無い。きちんと積んだ米俵であれば今でもひとつ担げはするのだけど。

「さて、持てる者はいるでしょうが使える者となりますと」


「やはり全部石だと重すぎるよね、先端だけにするかー」

『普通のを取りあえず出すよ、ソレはその辺おいといたらいいんじゃないかな』

 アルケが石砕棒を立てかけたのを見計らい、新たに石製の棍棒が出てくる。形状はトゲの丸めなモーニングスター。先端は石、柄は木にカーボン繊維のメッシュを貼り付けたもの。折角なので全部ドラゴンの巣産の物で製作。

「コレだと使える人なら使えるんじゃないかな」

 と言いながら村長に手渡す。


「これはっ」

 両手で受け取る、その前から何とはなしに神気を感じ察しはしていたが。直接触れるとよくわかる、ドラゴンの気。村が祭る神龍の気。


「石と木はけっこうもらってきたからね。全員分はさすがに無いんだけど、というか石とか欲しい物かな?」

『オブシディアンの器とかにした方が喜びそうな?』

 ぽろっと出てきたのはお茶いただいた時ぐらいの大きさの器。黒く輝くのは側面に切子模様。均一の材質なのでそれほど目立つ物ではないけれど。素材は同じくドラゴンの巣の岩、選別したら色も変えられそうだけどそこまではしていない。無論、血の華咲かせてたモノはきっちり取り除いてあるけれど。村長の後ろから覗き込んでる顔役と目が合った、なのでひょいっと投げ渡してみる。


「あっ、ちょっと。っていうかぁっぁあぁぁ」

 取り落としそうになって腰砕けて座り込んでます、いい大人がなみだ目。器はブルブル震える手でしっかり押さえ込んでる


「こちらにいらしたんですかー、底の抜けた鍋に壊れた鍬とか皆持ってきてますよ?」

 ひょっこり顔を出したのは村民Aさん。年齢は17ぐらいか、普通の村だと大概兵役に出ているため村内であまり見られる年齢ではない。だぶついた服を着ていてもわかる不釣合いな胸肉がぶら下がってるのがよく見えます。座り込んだ顔役にたいして前かがみになっているので胸の谷間が全開ですというか、ぶら下げた付け根が丸見えなんですが。

「村長もこちらにいらしたんですね、で、この倉庫にもってくればいいんでしょうか?」

 そのままの姿勢でちょっと見上げ、首を傾げてます。手をヒザにやっているので乳肉挟み寄せなあのポーズになってます。


「ちょうどよい所に、取りあえずその鍋はそこに置いてコレを持ってはくれまいか」

 顔役がオブシディアンの器を差し出す。


「はいはいーって。こっこれ持つんですかっ」


「腰抜けて持っているのもやっとなんだ、すまんが頼む」

 腕のブルブル具合がさっきよりきつそう。


「腰ぬけたかー、癒し手いる? いないならサマサがその辺散歩してるはずだから呼んできて?」


「そちらの方は私が行こう」

 村長がモーニングスターを捧げ持ったまま広場へ向かう。

 村民Aさんは器を受け取った後ほわーっとしてますね、なんかトリップ中?


「動かすのまずそうだからそのままね、ひっくり返しといた方がいいのかな?」

 顔役に聞くが額に油汗たらしてるので聞こえてないかも。

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