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Blood of Dragon  作者: 居反り
第2章
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第25話

 樹海の中を東西に流れるミルストニス川に沿うように水田が広がる村、モータリス。

中心部は川を挟んで橋がかかり、両側に温泉宿(跡)が残る。元々、村の有力者の所有でもあるため大半が住居兼用で、そうでなくとも村の公共施設として利用されそれなりの状態で現存している。それぞれの宿は露天風呂の目隠し目的のついでか屋敷森に囲われている造りであり他の街道筋の宿とは趣を異にしている。60年前なら極普通の宿もあったであろうが今は無い。


 ミルストニス川上流は川の南側に大きく開けており、40軒固まる中心地はあるが100軒ほどが散らばるように点在している。主に水田や畑作の農家の集落。下流付近には南側に牧場がいくつか、川沿いに加工場が数軒、北側にハンターの集落が10軒ほど固まる。むろんそれ以外にもハンターはいるし特に固まることもなく農家も点在している。樹海に取り残されたとはいえ、いや、逆に取り残された上に結界が張られたおかげでかなり安全な集落であった。


 60年前の当時もゴブリンの襲撃はここまでこず―周囲からの避難民の通過点として殺気立ちはしたが―周囲を樹海に呑まれ、村の東部を小型竜により封鎖された以外目立つ変化は無かったとも言える。むろん、周辺にあった小規模集落や街道の街としての人の往来がなくなったため人口も大幅に減少することになったのだけれど。

 良質の水に恵まれるおかげで酒造りも盛んであったものの流通に障害があるため生産も激減、もっとも逆に高値がつくようになった為、塩や鉄製品などの購入に支障は無い。


 その村にドラゴン(龍)の因子の濃いアルケ一行が来ることは精霊より村のシャーマンに伝えられており、村長と顔役で出迎え歓待するまではよかったのだが。彼女らがここにきた原因となるもの、そしてゴブリンが聖龍の山奥まで入り込んだことが危険視される。結果、伝令をヘロナマウトへ送り、北部の街道跡を中心に探索すべくハンターを中心に3組送り出した。


 改めて、朝食後に訪れた村長と顔役より聞かされる。




「それでですなぁ、なんと申しますか、村の防衛の方なのですが」

 村長が切り出す。

「村の男手の多くが兵士としてヘロナマウトとディファレイへ出ておりまして。無論、村の農作業をする者などは十分にいるのですが」

 早い話が大掛かりな工事というのはすぐには難しい。しかしながら結界のようなもののある聖聖龍の山の麓の森を抜け、奥まで入り込むゴブリンが出た以上ここも今までどうりと行かないのもわかる。

「昨日、見せられた通り魔法ですべてかたがつくのであれば楽なのもわかるのですが。

ハガネ様の魔法に全てをお任せしてしまうと村のものが依存しきってしまうのは明らかなのです。我らの村は自立していたからこそ隔絶されても維持してこれたのですから」




「私たちの方は呪術を使う剣士一行の背後関係を危惧していますから。

もちろんゴブリンのほうも気になりますが、規模としては1部族の移動かもしれませんし」

 膝の上にハガネをのせたアルケが答える。

「無策のままヘロナマウトへ入ることを思えば、村が間に立っていただいているだけでも感謝しております。さらに滞在の許可、いえ、このようにもてなしていただいているお礼をさせていただきたく思っております」

 ある意味彼女らが凶報をもたらしたともいえる状況である、少なくとも剣士一行に関してはそうだ。何らかの組織に属していたと思われ、それゆえに追われる可能性があるのだから。


「昨日もお話ししたとおり、ゴブリンの気配は周囲10kmにはありません。もっとも東西に伸びる村の周囲全てを探査できたわけではありませんが」

 昨日、村についてから中央まで、その周囲は案内されはしたが村全部を回ったわけではない。

 また、結界のせいでもあるが村の中からではそとを探りがたく探査は出来ていない。そのあたりのことを特に意味もなくハガネをぷにりつつ喋るさまはなんと言うべきか。


「我々もそう森に入ることは無いのです。精々北と南の森に5kmほどといったところでしょうか、村との境界付近での伐採と少し奥に狩に行く程度ですから」

「その範囲内でも廃墟、といいますか小集落跡はありますし、さらに奥へ向かう道の跡もありますので。少々遠回りとなりますが、山脈の合い間にあった獣人国の跡を通ってノスグランデまでいく街道がありました、その名残はもう木々に埋まっておりますが何も無いよりは移動しやすいですから」

 あえてアルケの顔から視線を外さずに説明する村長。もっとも、神龍とおぼしき雰囲気を持つ相手であるのでどうであっても崇めていたであろうけど。


「備えをしたいとも思いますが、どういった事態なのかがまだまだ不明なのです」

 少し間を空け、俯きつつ。

「もし、仮にですが、村に侵入されますと迎え撃てる数であればまだましなのですが、樹海に包まれている村ですので、手に負えぬ数でありますと逃げ場が無いのです」

 村長は顔を上げ、困惑した顔で語る。

「とはいえ、いたずらに煽るような結果となりますと。

60年前はまだ子供でしたがずいぶん荒れたことを覚えております」


「村と森の境界付近の巡回警備、小集落ごとにちょっとした避難場所。これは食料保管庫を中心にいくつかの倉庫を囲えれば少しはマシですかね、収穫物は各家で保管してますか?」

 こういう場であればあまり喋ることの無いクルスが村長に問う。

「東西のどこからか侵入されるとして、全てを中央にというわけにも行かないでしょう。

また、旧街道跡の出口ごとに関か砦のようなものを作るより集落ごとに倉庫を避難場所としたほうが逃げ込みやすいはず」


「しかしながらどこから手を付けるかとなりますとそれもまた問題ではありますが……」

 村長が顎にてをやり眉をしかめながら考える。

 大げさに動いて何もなかった場合、無駄に労力をかけただけになる。

 無論、何かあった場合には役立つし、倉庫もいずれは手を入れて修繕せねばならないのを先にやったと思えればいいのではあるが。村民に不安や不満の種をまくだけになるのは愚策。

「ちょっとした倉庫や集会所は各集落にありますからそこをどうにかする方向で話てみます」

 申し訳なさそうな目でアルケを見る村長。


「ん、こちらが手を貸すことにはさほど問題は無いよ」

 と軽く答える、がこっそり繋がっていたハガネから。

『あんまり見せない方がいいのかもしれない』


 膝の上のハガネをまたぷにりだしながら。

「そうだね、あまり見せるのは困るかな、魔法で作ることは知られてもかまわないが、あまり広めたくは無いからね」

「空掘はそちらで掘っておいてもらってその法面や壁を作るのはこちらで引き受けるということでどうだろう。そうそう、掘り起こした土を使うから近くに積んでおいてくれると助かる。それ以外に石材や不要な鉄などもあれば頂きたいが」

 新たにハガネからの注文を付け加える。


「石切り場は森に埋もれてしまっております。川から拾い上げる以外となりますと廃屋などで使ったものの回収ぐらいかと。鉄ですが鍛冶は共同作業所で心得のあるものが請け負う形で農機具の修繕などをしております、正直量が無いものですのでご希望に添えるかどうか……」

 村にとって貴重な資材であるだけに困る村長。無論、神の使いのごとき一行の希望であるので差し出すのに異論は無いのであるが。


 繋がったハガネから。

『ちょっとした武器、槍とかがあったほうがいいかなとおもったんだけどそういう風に言ってもらえないかな? ゴブリンの武器から回収した鉄とかあるけど数が足りないし』

 なのですこし表現を変えて切り出す。

「我々の報酬として要求しているのではなく、魔法で作るのに素材がいるからですよ。鉄の方は武器を作ってさしあげたほうがよさそうなので。さすがにそういった物の数は無いですよね?」

 ただ閉じこもったところでどうにもならない、他の街からの救援を期待できない以上村内でどうにかできる備えとして提案する。


「年を取っておりますが兵役から帰ってきたものも多いです、なので使える者は多いのですが、確かに数を揃えてはおりません、弓はそこそこあるでしょうが矢は数が無いかと、他は訓練用の棒があるぐらいでしょうか。いざとなれば鍬や鎌がありますが」

 ともすれば大げさな方に話しが流れるのを危惧しつつ、とはいえゴブリンが奥まで来たことがなかっただけにどこまで備えるかとなると誰も正解は知らない。

 神の使いのごとき一行なので彼女らがいる間なら手を貸してもらえそうだが、何時までも村にいるわけでもないこともわかっている。


 どのみちやらずに後悔するよりやった方が良いに決まっている。

「改めて、ご協力お願いいたします。ご要求の品は出来うる限り揃えるよう通達いたします。

また、各小集落ごとに建屋を選定し作業にかからせます」

 深々と頭を下げる村長。


「いや、そんなにかしこまられても困るというか。ここは他と違って砦もなければ城壁も無いみたいだし、軍がいるようでもないから。というか備えるのであればお手伝いしますよってことなんだけど」

 アルケもさっきまでと違い地がではじめている。

 正直、堅苦しいのは苦手である。

『いっそばらしてどーんとやっちゃう?』

『そんなことしたらゴブリンどころの騒ぎじゃないと思うよ?』

 まったく、こちらも出来れば公にしたくないのが困るところ。


「うだうだやっていても埒が明きませんわ、とりあえず西と東に中央の三箇所。手ごろなところを選んでやった方が早いかと」

 いままでだまってアスターを撫でてたサマサが結論を。


***


 サマサに言われたからというわけではないけど、それが結論、ということで村長が顔役に東西それぞれ選択させ、準備しておくように指示、自分は中央の準備をしに行く。


 クルスは村長に一筆書いてもらって東の森の探索に、馬で牧場まで行って預ける為ですね。 最初一人でいくことに反対していたけれど屋敷森の木々を飛び回った上、穏行して背後に立たれては納得するしかないか。一通りいるであろう獣や小型竜について説明受け、すぐに出立。


 サマサはできることが無いからとアスターと散歩、旅籠の庭を回っている。ハガネから小型シャベルと紙袋渡されて怪訝な顔。特に説明なかったのでそのままもっていく。




『暇なので昨日取り込んだ木を素材にちょっと作ってみるよ、適当に出すから試してみて』

『ん、わかった』


 まずは2mほどのただの棒、強度的に使えるか見てもらう。振り回したり地面に叩きつけたり、庭石を的にするのはまずいので森の端に適当な石を出してお試し中。


『このままだとちょっと柔らかいかな、密にできる?』

 カバンをお腹の前に固定してあるのですぐに取り込んで新しい物と取り替える。

『ゴブリンの槍と同じぐらいになるようにしてみたよ』

 昨日まで生えていた生木ではなく既に乾燥しきった物が出ているわけだけど、さらに密度なども調整されてきた。


『硬ければいいってわけでもないからねぇ』

 ほどほどにしなりがあるほうがいい場合もある。しなりすぎるのも使いにくいのだけれど。

『槍とするなら3mぐらいが手ごろかな、6mとかあると訓練して無いと使えないし』

 街中や建屋の周りだと使いづらいのもあるけれど。


『こういうのとかどうかな』

 新たに出したのはいわゆる刺又、それに突棒と袖搦もついでに。

『動きを封じるのに特化した道具なんだけど』

 先端部はどれも鉄製でトゲだらけなのも歴史的資料どうり。梯子や十手も出したいし提灯も出したいところだけど自重。


『なんかまた変なもの出すね、トゲトゲなのは殴るの?』

『先端がU字なのとT字なのはそこで押さえつける為、トゲは服とかを絡めとる為と手でつかまれないようにする為ですよ』

 全長およそ3m、槍のように刺突面積が狭く突き損ねる心配も少ない。また力いっぱい突くのではなく相手にたいして押し付けられればいい。とうぜん棍棒のように力いっぱい振り回す必要も無いから小さな動きで相手を押さえつけられる。反面、殺傷能力は低くなってはいるが。

『実際試してみないとわかりにくいかな、トゲ無しのU字のだしといて。村長戻ってきたら試してもらうから』


『動きを止めたところで槍で突ければ確実かな、短いしちょっとした棍棒みたいにも使えそうだしいいかもしれない』

 そのまま渡したら変な棍棒として使われるんだろうけど。

『トゲトゲのやつが一番わかりやすいかもね』

 袖搦を持ち棍棒としての動作を試しながら伝える。トゲで殴るだけで十分だと思うんだけど。


 いわゆる戦いの動きを始めると半端に固定してあったカバンが暴れまわる。

『ハガネ、降りるかぎゅっと縛り付けるかどっちか選択』

『縛り付ける方で、意識すればペタンコにもなれるし』

 幅広ベルトを出し、カバンの上から押さえつけるように絞めてもらう。


 固定具合を確かめた後。

 袖搦の終端をもち大振りのスイングを左右だけでなくカチ上げ、たたき伏せるように。 何度か繰り返し、左から振り上げ、その勢いのまま身体だけ背を向けるように回転。後ろからまわした右足で一歩、更にまわした左足でもう一歩進み、離した左手で柄の中ほどを掴み、細かい突きを織り交ぜ左右に振り、かち上げ叩き降し、突き、捻り、かち上げ、叩き伏せ。

『実際使わないとわかんないけど、けっこう良いかもしれない。絡め取って引き倒すのは足飛ばせばうまく行きそう』


『T字型の突棒はその幅広さが突きを当てやすくしているし、ハンマーのようにも使えなくはなさそうなのもいいかもしれない。U字型の刺又は嵌ればいちばん確実に押さえ込めそうだけど外した時が問題かな?』

『刺又を取り込むのでお腹のところにもってきて』

 取り込んだ刺又をU字型からH型に、ついでに刃をつけたものをアルケさんに渡す。


『いきなり凶悪度あがってるねー』

 渡された刺又というより斧と槍の半端な合体物を振り回す。あくまで棒であるため危なっかしいだけで使いにくいというか、これだと刃筋立ててあてるのは難しいね。

『トゲだけのほうが良いかもしれない。ちょっと当てがたいから刃でなくていいと思うし』

 お腹のハガネのところに持っていって取り込んでもらう。


 無難にトゲを増やす形で落ち着きました、無難とはいいがたい形状ですが。




 戻ってきた村長さんは恐ろしくて近寄るどころか声かけることも出来なかったそうな。奥さんはお茶準備して戸口の裏に隠れていたそうで。

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