第23話、第24話
■クルス■
朝食の支度をしながらアルケの様子を伺う。昨日一番に寝たにも関わらずいまだ熟睡中。
消耗した体力を回復中? なんとなくそう感じられるので無理に起こすことはしていない。
消耗するような事というと異常なペースの山越えというか山から飛び降りというか?
往復20分程の全力疾走とそのときの怪我、切り傷に打撲が無数。ドラゴンと混じることで力は人を超越してしまったようだけれど、スタミナはそうでもなかったということだろうか?
それとも鍛錬のように繰り返せばこれも克服できるのか、強くなりすぎるのも困ったもの。
いずれにせよ、しばらくは抑制するようにしないと危険だ。今日明日はまだどうにかなる、移動するならばだが。それ以降、森をでれば竜の棲家を通り抜けねばならない、うまく縄張りの境目を突ければいいが肉食の小型竜に追われれば厄介だ。
行きに来たルート、樹海を縦断する獣道その分岐はすでに通り過ぎているがそちらに戻るなら馬を捨てねばならない。飼葉が既に尽きているから。
思い返すと剣士一行は帰るつもりはあったのか?
食料の余分はあったが飼葉は切れている、そして食料も帰りのことを思うと少なすぎる。
今の私たちにはハガネがいるおかげで刈り取りさえすれば草を大量に運ぶことは出来るが、私たちの食料に少々不安がのこる、穀物が少なすぎるから。なくてもどうとでもなるのだが、あるのとないのでは違いすぎる。偵察なしで進めるので森を抜けるのに1週間かからないとはいえ、抜けてすぐ街というわけでもないし。
それに、ここへは森の意思。
というかサマサが探査で導かれたルートだということ。そのサマサは今また《エレメンタル・ディテクト》を行使中。なんでもこの先5kmほどのところに結界らしきものが、もっとも10kmもいけば森を抜けるらしい。悪い感じではないが気になるので再探査中。
アルケをむりに起こさないとなるといつ出発できるかも不明だ。川沿いで開けてる旧街道跡とはいえ、既に木々に埋まりきている5km。安全確保とキャンプ地確保を考えればもう一泊ここで過ごすほうが無難か?
■サマサ■
クルスさんに念を押されたので再ど探査中。
精霊にこのキャンプ位置を進められた以上危険ではないと思うのだけれど、昨日の探査でもこの先ははっきり見えていなかった。結界が張られていると予想はしたがそれもはっきり見たわけではない。
そして今日の探査でも変わらず、なにやら精霊の結界のような気配なので強引に精霊にお願いすれば見えるでしょうけれど、それでは敵対的過ぎるかもしれない。
結局は行ってみるのが手っ取り早いのですけれど。
アルケさん次第ですね。
心配はしていたけれど、いろいろ探査とかしてるうちにアルケさんは起きていた。昼前には完全にいつもどおり。ゆっくりお茶しながら観察、というか推測したことを話し合ってたのだけれど。一度のことなので確定はないけれど、全力で動けば後に反動が出るってことで間違いないんじゃないかということ。それと体の内外関わらず傷つけばその分回復に時間かかるのではないかということ。
私たちの知識にはなかったが過度の運動ので筋肉に傷がつき、回復する過程で増強されるらしい。アルケさんはあくまで右手首から先はドラゴンで血もドラゴン化しているかもしれないが、他はヒトのままなはず、右手首を支えるにそれでは不足となれば全身が強化の対象になってもおかしくはないだろう、少なくともヒトは不完全なモノと判断されてるようだし。もっとも殆ど返したはずなので全身ドラゴン化とかになることはないんじゃないか?
とはハガネの推測、右手首が治されたときの感じからの判断なのであってるかどうかなんてわかんないそうだけど。
今起きた本人はぐっすり寝て目覚めすっきり?
■アルケ■
うーん。昨日バカみたいに山を駆け上がり飛び越えたりはしたけど、当然いろいろ超えちゃってるとは思ったけどね。今も昨日より強くなったのか?とか聞かれてもさっぱり実感がない。
力を使い切ったら落ちて熟睡、なんだろうか?そういえばあのドラゴンも寝たがってたわよね私はすっきり目覚めてるから急に寝ちゃうことはないと思うんだけどさ。
ということで昼食後に問題の結界付近へむけて移動でいいと思うんだけど。
向こうに何かいるとしてたかが5km、その気があれば夜に襲撃とかいくらでも出来ただろうしね。行って見ないとなんともいえないけど害のあるものじゃないと思うよ。
***
■ハガネ■
ボクの立場的に、こういう話しはさっぱりなので大概アルケさんのヒザの上で聞いてるだけ。
取り込んであるモノの整理というか分解して素材化とかいくらでもやっときたいことはあるし一部、扱いに困るブツはどうしようもないんだけどね。弄るにしても精神的にこたえるし。
というかね、取り込んだままの肉、肉ねもうそういうしかないけど。剣士とかはどこかに穴掘って埋めるかその前に焼いてもらいたいです、なんとなく元の記憶的に。
で、もう一方のゴブリン大量なんだけどさ、わりあいできたてで新鮮なわけで。見た目たしかに違うんだけど、人とそんなに変わるようにも見えないのよねー。
記憶の中の人種、これで区別するのはイケナイ事て感じがしまくってるけど、肌の色だとか肉の付き具合だとか骨格だとか、違う物は違う。そして同じ人の範疇であることも理解してる、生殖可能とかだけでなしに。
ここでアルケさんがクォーターオーガだっていってたことだとかが頭をよぎるわけで、ハーフゴブリンとかいるんじゃないの?
ということなのよね、ゲンミツに調べる気にならないけど。というか後々のために一回がんばった方がいいんだろうか?ターヘルアナトミア程度の知識すらないわけだし。
いや、なんとなくね、知ってるような知らないような?
アルケさんの時のこともあるし少しは慣れた方がいいのかななどというのもあるわけで。
けっこう危険な世界みたいだし。
とりあえず、破損状況とか〆てからの時間とか適当に判断して分別。目覚めた時にのっかてたやつは鮮度抜群みたい、たぶんだけど。
洞窟出るときに回収したヤツはちょっと鮮度低め、といっても冷暗貯蔵なので適度に血抜き済みにできあがってますね。ちょっとモツの中身が原因で内臓周りのぐっちょり度が増加してるぐらい。肉とかけっこう綺麗なものですね。
モツの差でいくと包丁入れたら角がピンと立つ切り口になるかどうかの境目ぐらい?さすがに生食はないけど。モノがモノなのになんか食べ物の例えが浮かんできますね。
剣でばっさりな死体はハラワタがいかれてなければ綺麗なので標本用に保存、これが3体。
そのほかに鮮度よさそうなのが6体ほど、これもなんとなく保存。腹まわりとか破損部分以外が綺麗な死体も避けておきます、こちらは10体ほど。なんで避けとくかって?後のお楽しみ。
洞窟の入り口付近の死体はさすがにお肉屋さん店頭の肉みたいな感じに近いですね。まだまだ生でもイケルなどという声が沸いてますが食材ではありませんよ、断じて。
それでも、モツだって現状維持というかにゅるっぽさが無いというか。取り込んだときから時間とまってるような感じ?たぶん温度とかも維持。と言うより変化無しといったほうがいいか。
そういや風呂ごと取り込んだお湯もそのままの温度で排出できたし。これはあれだ、熱々のシチューを鍋ごと取り込んどけばどこでもすぐ取り出して食べれるんじゃないか?小型鍋量産しておいて小分け保存すれば便利かも、これは要報告で即実行すべきですかね。先に鍋作っとくか。
鍋作るというか鍋じゃなくて保存容器ならなんでもいいかな?素材的に鉄とかちょっともったいないし、今大量に持ってるのは岩とか石に川原の砂利とか土。この辺を適当に分解して整形したヤツを焼き固めてやれば十分じゃないかな?ということでざっくり作成、腑分けはどうした。
人間やなことから目をそむけるものだよね。スライムだけど。
折角なので素材ごとに焼成温度とかいろいろ変えたりして見ました。
結果、どう見ても石壺なのが10個、オブデシアン化してるのが5個、磁器みたいなのが3個
そういやボーンチャイナって骨混ぜるんだっけ?さすがに食器にゴブ骨はないから鹿の骨混ぜてみますか。白っぽい石と骨の粉末均等に混ぜて壺にして焼成イメージっと。練習用なので湯のみサイズで。ティーカップじゃなしに。
つくっちゃ壊しで何度もやればソレっぽいものにも近づけるというもの、ホンモノにはかなわないだろうけど。そのへんは素人のお遊びで満足。急須と湯のみセットにお銚子にお猪口のセット作って終了。シチューは石壺で十分だし。
さてゴブの死体に戻りますかね。ぐちょってる死体の胴回り、から内蔵引きずり出して見てみるけどなんとなく人間と変わらん。人間腑分けしたこと無いけどたぶんほぼ同じ。じゃーどうにかなるのかとかいわれたってどうにもなんないけど。アルケさんたちの補修用パーツとかヤだし。
それは無いとしても《死霊魔術》とか有りそうだし使えるかもね?ほかにも何かあるかもしれないし。たとえばオ○ラ○ト○ー作ってみるとか、あれって巨大甲虫の殻とか魔物の肉とかだし。
甲虫の殻のかわりにフルプレートでもいけるかな?そもそもそういう魔法あればの話だけど。
剣と魔法の世界みたいだけどどういう具合なのかは確認しないとダメだね。
そのへんは今後の課題、とりあえず観察しながらダメそうな部分は取り除いて綺麗なブツを保存しとこう。
医学的知識もとめて腑分けしたらネクロマンシー期待な保存になってたけど良しとしとこう。
***
◇旧第24話◇
■ハガネ■
なんていうか、あっけない。
急に森が切れた境目が結界ではあったようだけど、イヤな気配がないのでそのまま踏み込んだと言うか、無防備というか。
結果、目の前に広がる田園をみて唖然とするわけで。待ち構えてた村長に連れられるがままに招待されお茶などをいただいてると言う。
何でも精霊に教えられて待ってたとか。
こういう土地に暮らすからか、精霊とそこそこうまくやれる人が多く結界事態もどっちかと言うと森のほうが勝手に作っちゃってるような具合らしい。
そんなわけでドラゴン化とか精霊感応上がり切ってる一行は神さま扱い? 宴とかではなしに静かに迎え入れてくれたことは非常にありがたいですね。
そう思っていたのは最初だけでした。
まずは宿にと案内されてついたら歓待コース、旅装を解いてごゆっくり。なんかえらく手馴れてるなとおもったら村長の爺さん曰く、元々温泉保養地だとか。60年前は旅籠やってた家の出だとかで親の仕事にあこがれてたそうだ、いろいろあって継げなかっただけに。
それにしても緑茶にお菓子とか手馴れてますよね。お菓子のほうは鉱泉利用のサクサクした歯ごたえの煎餅風のが出ました。水あめで練りこんだ餡子はさんでます、モナカっぽいですね。
ちなみに馬のほうは村の人が世話してくれてます。至れり尽くせり。
ボクはあいかわらずカバンに入ったままアルケさんに抱えられてます。脇においといても大丈夫だと思うのですがカバンの中とはいえヒザの上だとお菓子もらいやすいのでOKですよ。
あからさまな武器なクルスさんの小太刀もベルトごと手元に置いてるだけでとくになにも言われないので敵意とかないと思うんだけど。毒とか盛ってたらって?その辺はサマサさんがこっそり調べ済み。
ただ単にまったりお茶たいむでなしに村長さんから村の由来だとかいろいろ話しがありました。
かいつまんでまとめると60年ほど前に取り残された村で、ここより奥は完全に放棄というか封印というか。
竜のいた山の麓にそこを信仰の対象とし守ってた村と、その向こうにあった獣人の国が半分ほど樹海に埋もれて、そこからの避難民の一部がこの村に残ったらしい。
それ以外はディファレイとヘロナマウトに移住してるから知ってる人は知ってたとか。
ここに残った獣人は山や樹海に適応しづらい因子を持つ人たちで、特に牛の因子を持つ一族はほぼここにいるみたい。女だと性的に狙われやすいし男だと物理的に致しがたいとか。その辺は馬の因子も似たとこがあるようですが。どうしてもヤリたいならゆっくり拡張したらできるそうですよ?アルケさんが頷いてたので物理的な差異を乗り越えるのはどこでもやってるみたい。オーガも巨大ということですね。
ということでこの村にいるのは牛人に馬人と元からいた村の子孫、男手の半数ほどがヘロナマウトやディファレイへ稼ぎにいってるそうで、上のほうともつながりはあるらしい。兵士として優秀な人が多いからだそうな。
とはいえ、アルケさんたちはさっぱり知らなかったそうでどこまで本当だかわかんないとか。
獣人の国自体はまだ顕在だし、行き来もできなくはないから街にいても不思議じゃなかったそうですよ。それが魔属領の向こうだとしても。
そんなこんなで隠れ里化してるけどディファレイの支配圏、竜の生息範囲を挟んだ向こうにあるので微妙なところだけど、この村出身として兵役も出してるとか。
一応、モータリスが村の名前。具体的にどこにあるかは秘密だけど開拓村の一つとしての扱いみたい。村民およそ1400人なのでかなりの規模だったりする。
積極的に知らしめてないこととはいえ、いろいろ詳しく語ってくれました。
お茶請けのお菓子がなくなってしばらくしたら軽い膳が出てます、4つほど。板の間ですがアスターもわら座布団に座ってますし目の前に皿がでてます、骨付き肉が振舞われてました。
膳は4つ、間違いなく察知されてますね。ということでカバンのなかからこんにちわ、改めて村長さんにご挨拶。ついでにアルケさんが軽くこれまでのこと説明してました。
村長さんとして龍の血に反応つよいのは当然として、ゴブリンの一隊と剣士一行に顔しかめてます。信仰の対象に手出しされてるので当然ですか。話のついでに彼らの装備をいくつか出してみましたが物としては南部でよくある形式、刻まれている魔方陣は専門家じゃないと詳しくわからないそうだけど。
とにかくこの話をまとめ手紙にして急ぎで使者をヘロナマウトに出すそうですので、その筋からギルドの方へも連絡してもらうように頼んどきました。
***
■サマサ■
村長は村の人たちと会合、樹海の奥に来たゴブリンがたまたまなのか確認しなければいけないのでその相談だそうです、結界の外は熊に狼に蛇にとかなりやっかいな所だそうで、そう簡単に入り込めるところではないそうですが。ついでに言うと村の東側、ヒレアスト平原との境目の森は小型竜が巣くってるのでかなりの危険度だとか。ちなみにディファレイへ行くには村を西から東に流れるミルストニス川に筏うかべて下るのが一番安全、馬を載せるのは大変だけど水棲竜は村にもいるらしくて抑えられると言うか共生状態?精霊感応が高いとどうにかできるそうだ。
その間私たちは村長の奥さんに村を案内してもらってます、ついでにめぼしいところでご挨拶も。どういう風に話しが行くかわから無いけど街に戻るよりここにいる方が安全みたいですしね。
アルケさん先頭にその横ちょっと遅れるようにして村長の奥さん、すぐ後ろにいるクルスさんは護衛みたいですね、腰の後ろに小太刀挿してるので余計そう見えます。
私とアスターは声が聞こえるギリギリぐらいをついていってます、ちょっとした散歩気分。
森に囲まれた水田、中央に流れる川、点在する家、周囲の獣や小型竜のこと聞いていなかったらどこの理想郷ですかと聞きたくなるところ。結界があるからだというのはわかってるけど、逆に考えるとそれを抜けられたらひとたまりも無いですね、とかいって見たら村長はそのこと含めて会合中なんだとか。聖龍の洞窟奥までゴブリンが入り込んでたのをかなり危険視してると。
《エレメンタル・ディテクト》の結果、10kmほどの範囲内にはゴブリンが居ないことは言ってありますが、街道跡を辿れば移動は楽なので安心すべきではないとか。
そういう目で見ると酷く脆いのがこの村の状況、孤立している上に砦や城壁も皆無、川にかかる橋も木製でちょっと頼りない。頼りになりそうな成人男性の半数は出稼ぎで村に不在なのも痛い。そんなことを喋りながら廻ってると。
「ないなら作ってみせますか」
などとアルケさんのお腹のあたりから。カバンに収まってるハガネが顔だしてますね、また何か作るつもりですか。
***
■ハガネ■
話をまとめると、この村に長期逗留予定、樹海の中の隠れ里なので結界抜かれたらちょっと危険かも?
ボクらがお世話になるのは元旅籠、川沿いに点在する温泉付き旅籠跡の一軒、それぞれが屋敷森に囲まれてるます
なのでちょっと強化してみたくなったので奥さん権限で軽く作業開始。屋敷森にまずは空掘りをさっくり掘削、法面は削った土でU字溝ブロックつくって設置、セラミック製。とりあえず巾 5m深さ5m、長さは50mでやってみました、用水路みたいな感じですね。
次に館側に高さ4mの壁を設置、10m置きに狭間を付けて両端と中央に櫓風の建築物も追加。
時間にして1時間ほど、掘り進めるのに時間かかってます。やっぱり移動は苦手ですよ。
「ということで村の人に掘ってもらえればこんな感じで補強はさっくり、時間かければ城もできるかもとか提案してみますよ?」
さすがに奥さんだけで判断できないので隣の旅籠で会合中の面々呼んで来てもらいました。
会合の方でアルケさんたちのことと一緒にボクとアスターのことも出てたみたいなので隠れる必要なくなってます、なのでもう10mほど追加で実演してみたり。
皆さんびっくりしてますね、というか拝み始めますか。というか龍の血のアルケさんが巫女というか教祖でボクはその使い魔的なポジションみたい、アルケさん拝み倒してる人もいますね。
とにかく落ち着いてもらいました。精神的に疲れますよ。
そんな感じで村長さんたちは再び会合です、ちょっとした砦風に改築する場所の選定と、作業要員の選出に資材の確保とかお願いしときました。
***
■アルケ■
そんなこんなでホントにごゆっくりたいむ。元温泉旅籠なところを貸しきりにしてくれたので温泉堪能。
ざぱーん
ぷかぷか
つー
元旅籠だけあって広い露天風呂、今までハガネが出してたのはあくまで3人が余裕で入れるサイズ。間違っても、飛び込んだ挙句体伸ばして浮いてそのまま泳げる広さなんてなかったわけで
庭の手入れも十分されてるし、ちらっと見える垣根も含めいつでも再開できそうなかんじ。
「んー、快適ですねー」
快適なのは広さだけではない。
村長が気を利かせて特産の米酒を持たせてくれたのだ。風呂で飲むというと前もって水で割ってくれている、というか店で出す時点である程度水で薄めるそうだが。
それを桶にいれたサマサの冷却魔法で作った氷の山に瓶ごと挿してある。
椀に注いだ酒をくぃっと呑み。
「く~~~」
などと声が出る。うん、確かにこれはいいものだ。酒場で喧騒の中飲む濃いヤツとは趣がまったく違うね。水でじゃぶじゃぶ薄めてる、最初はそう思ったんだけどその薄め加減と十分に冷やされているのですっきりのどごしというかくぃくぃ呑めるのね。
さらに温泉の縁に腰掛け足だけ浸かる、上半身は川面からの冷たい風に晒してるのが心地よい
サマサは湯に肩までつかりぼーっと浮かべている、時折こちらに酒精を求めてくるがクルスは最初に椀一杯飲み干した後、湯に浮いて漂ってる。今呑んでないのはハガネとアスターだけだ。
そのアスターは木桶を船にしてサマサのそばに浮かんでる。じつにほほえましい、顔だけ出してサマサにくっついてる。
ハガネはというと私のヒザの上である。正確には胸肉の下?
うん、だんだん起きてるのがあれですよ。もたれかかれるんだからむぎゅっともたれかかっていいじゃない、にしてもあったかいけどあいかわらずぷにぷにでつるつるよね~
なんて思ってたら。
■ハガネ■
『ぷにぷにつるつるーっていうかアルケさん酔ってるなー
なんかむっちりフトモモと押し付けられたぷるぷるにむぎゅってヘブンすぎる』
■アルケ■
なんか久々に繋がった感覚。
『へぶん~なにそれ~』
ん、なんだ。かなり酔ってるのが自分でもわかる。
うりうり。
なんかしらんが気持ちよさそうにしてるのできもちよくなってやろー。
ていうかぷにつるなの気持ちよいね。
■ハガネ■
『おぉぅ、なんか繋がるの久しぶりですねって、なんかふにゃっとしますがなんですかこれ。繋がるのは思考だけでなしに感覚もですか?というから酔ってるせいでいろいろ垂れ流し状態?』
ちょっと危険かも、繋がってるってことはどうにか出来そうな出来ないような?
というかアルケさんのぽっちがボクのピンクのぷにつる肌にめり込んでますが。ひょっとしてここで繋がりましたか?
ぽっちを刺激しすぎるのはまずい気がしますね。なので勝手知ったる腹の中、ちょっと血管に繋がって強引にアルコール排除してみますか。
■アルケ■
急にクリアになったっ、なにこれなんかすっきりし過ぎでキモチイイというか怖いというか。
繋がりっぱなしのハガネ曰く、極細の体で血管に取り付いてそこで酒精とりのぞいてるとかなんか無茶しすぎてませんか?
何?このままイメージ伝達実験やりたい?よくわかんないけど任せるわ。
最初は三角だとか四角だとか、言葉でなしにソレっぽいものが浮かんでくるような。
少しずつ複雑に、といっても壺だとか桶のようなわかりやすい形が浮かんでくる。いくつか続いた後、サイズ違いや材質もなんとなくつたわってっくる。ダマスカス鋼の短剣とか小型シャベル。クルスの小太刀など見覚えのあるものだとかなり正確に伝わる気がする。
そのまま『知ってるものははっきりわかるね』と伝えると記憶のなかから引っ張り出して補完されてるんじゃないかな?とか。折角なのでこのまま武器作ってみるかと聞かれたので二つ返事でお願いした。思い出すのは出身の村の神殿に奉納されていた大太刀、刀身は昔見たときでも背丈ほど、柄は腕一本近く。大鬼の太刀として言い伝えられていた一振り。
■ハガネ■
んー、アルケさんのお求めはなかなかの代物、というか使った事無いだろうに大丈夫なのかな?
作れなくは無いけど重すぎたら振り回すだけになりそうな、収納もどうするか考えなきゃなー。
木刀ベースにして金属コーティング、さらにドラゴンのウロコをコーティングした上で刃をつけてみるかな、軽く出来そうだし。木刀部分は厚さ15mm、巾50mm、それに8mmの金属で覆ってさらに1~2mmのウロコで覆って作った大太刀を膝上に出してみる。
柄の金属部分に銘を刻むのも忘れずに《甲》の字と反対に《碧龍鱗神木乃大太刀》とストレートに刻んどきます。
■アルケ■
かなりゴツイものが出てきました。イメージはきちんと伝わらなかったかな?長さとか柄はほぼそのままだけど厚みがぜんぜん違うし。
扱えるかわからないからゴツ目にしたと、なるほど。あと、魔力は込めるなと? 繋がりっぱなしのハガネからクルスが振るう小太刀のイメージが送られてくる。魔力込みはえらいことになってるみたいね、よくわからないけど。
念のためサマサとクススがいない方へ向いて立ち、大上段から振り下ろし水面で止める。まずは軽くゆっくりと、見た目に反し金属の塊ではにのでかなり軽く仕上がってます。これなら振り切ってももっていかれることは無いかな?
全力で。
ヒュゴゥッ
水面で止めるっ。
遅れてきた剣風でお湯が撒き散らされる。
広い露天風呂だけど3cmは減ったかな?
アスターが乗った桶がひっくり返って飛んでいってますね、サマサがにらんでますよ。
アスターは無事なので許していただきたいところ。
クルスは縁の石に頭ぶつけたみたいです。こっちもにらんで来ましたよって消えうせたと思ったらお尻に衝撃が。背後からとび蹴りかますとかしゃれになりませんがって加減したから尻ですと?
起き上がった私の正面にたって見上げてますね、無防備もいいとこ。
「胸肉で圧殺してくれるわっ」
スキをついてがばっと抱え込んで顔を肉で埋める、無駄にでかい胸肉の有効利用。そのままうりうりぐりぐりしてたらハガネが諌めてきた
■ハガネ■
『クルスさん鼻血ふいてるので程ほどにしてください、うらやましいですが』