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悪役令嬢ですが、ヒロインに泣きつかれています

作者: 氷桜 零
掲載日:2026/04/25


放課後の校舎は、昼の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

長い廊下に差し込む夕陽が、床に淡い金色の帯を作る。


ローゼリア・ハーレストは、ゆっくりと歩いていた。

数日前に突然よみがえった前世の記憶――

この世界が乙女ゲームで、自分が悪役令嬢であり、婚約者ラゼン・ポートマンはヒロインに惹かれていく運命。


……破滅フラグを避ける方法を考えないと。


そう思いながら角を曲がった瞬間――


「ひっ……!」


小さな悲鳴とともに、柔らかい衝撃が胸元にぶつかった。


「ちょっと……大丈夫?」


見下ろすと、そこには小さな小動物のように震える少女がいた。

淡い栗色の髪、涙で濡れた睫毛、怯えた瞳。


アリア。

この世界のヒロイン。


……まさか、こんな形で出会うなんて。


アリアは必死に言葉を探していた。


「ご、ごめんなさい……!あの、逃げてきて……!」


「逃げてきた?誰から?」


ローゼリアが問いかけると、アリアはさらに肩を縮めた。


「し、知らない男の人たちが……急に、囲んできて……

『運命を感じた』とか、『手を取ってほしい』とか……

わ、私、怖くて……!」


攻略対象者たち……

そして、ラゼンも含まれているわね。


ローゼリアはすぐに理解した。

だがアリアはゲームを知らない。

ただ見知らぬ男子に囲まれた、という恐怖だけが残っている。


「あなた、泣いているの?」


「ご、ごめんなさい……!泣くつもりじゃ……でも、怖くて……!」


涙がぽろぽろと落ちる。

その姿は、ゲームの華やかなヒロイン像とはまるで違う。


ローゼリアは静かに息を吐いた。

呆れではなく、状況を把握した者の冷静な呼吸。


「……ここは人目があるわ。ついてきて」


アリアはこくこくと頷き、ローゼリアの袖をそっと掴んだ。

その手は驚くほど冷たく、弱い。


二人は人気のない温室へ移動した。

夕陽がガラス越しに差し込み、植物の影が揺れる。


ローゼリアは椅子を引き、アリアを座らせた。


「落ち着いて。深呼吸して」


アリアは震える息を整えながら、ぽつりぽつりと話し始めた。


「わ、私……ただ落としたハンカチを拾っただけなのに……そしたら、急に囲まれて……『君の涙は宝石だ』とか……そ、そんなこと言われても……意味が分からなくて……!」


イベントを無自覚に踏んでいる……

この子、本当に何も知らないのね。


ローゼリアは静かに目を閉じた。

前世の記憶が、冷たい現実を突きつける。


このままでは、アリアは攻略対象者たちに振り回され、自分は悪役令嬢として破滅する。

特に、婚約者ラゼンはヒロインに惹かれる運命。


だが――


目の前の少女は、ただ怯えて泣いているだけの、守られるべき存在だった。


ローゼリアはそっとアリアの手を取った。


「アリア。あなたが悪いわけじゃないわ。怖かったでしょう。でも――」


その瞳は、優しさと計算が同時に宿る。


「あなたを守る人が必要よ。そして……私にも、あなたの存在が必要なの」


アリアは瞬きをした。


「え……?」


「あなたを泣かせる連中を放っておくつもりはないわ。

私と一緒にいなさい。そうすれば、誰もあなたに勝手なことはできない」


アリアの瞳が揺れ、そして――


「……はい……!ローゼリア様が……守ってくれるなら……」


小さな声で、しかし確かに頷いた。


その瞬間、悪役令嬢とヒロインの同盟が結ばれた。


ローゼリアは微笑む。

優雅で、静かで、底知れない。


――これでいい。

この子を守り、同時に私の破滅も避ける。

二人でなら、筋書きは変えられる。


温室に、夕陽が二人の影を重ねた。





――――――


翌朝の学園は、いつもよりざわついていた。

理由は簡単だ。

攻略対象者たちが、昨日アリアを囲んだ件で、妙に浮き足立っているからだ。


ローゼリアは、廊下を歩きながら静かに観察していた。

アリアは彼女の後ろを小さく歩く。

袖をつまむ指先が、まだ少し震えている。


……この子を守るためにも、まずは状況の把握からね。


ローゼリアは、前世の記憶で知っている。

この世界の男たちは、ヒロインに惹かれるよう設定されている。

だが、アリアはそれを知らない。

ただ怖がり、泣き、逃げるだけ。


そして、私の婚約者――ラゼン・ポートマン。

あなたはアリアに惹かれ、私を捨てる未来を辿る。

……そんな筋書き、許すつもりはないわ。


ローゼリアは微笑んだ。

優雅で、冷たく、しかしどこか楽しげな笑み。


教室に入ると、数人の男子生徒がアリアを見てざわついた。


「昨日の子だ……」


「泣いてたのに、可愛かったよな」


「今日こそ話しかけてみようか」


アリアはびくっと肩を震わせ、ローゼリアの背に隠れた。

ローゼリアはゆっくりと振り返り、微笑む。


「……何かご用かしら?」


その声は柔らかいのに、空気が一瞬で冷えた。

男子たちは顔を引きつらせ、慌てて視線を逸らす。


まずは、牽制。

アリアに近づくには、私を通らなければならないと理解させる。


アリアは小声で囁いた。


「ろ、ローゼリア様……すごい……」


「いいえ。あなたが怯える必要がないようにしているだけよ」


ローゼリアはアリアの頭を軽く撫でた。

アリアは小動物のように縮こまりながらも、安心したように目を細める。



昼休み。

中庭でアリアと軽食を取っていると、影が落ちた。


「ローゼリア。話がある」


第二王子ラゼン・ポートマン。

ローゼリアの婚約者であり、未来の破滅フラグ製造機。


ローゼリアは優雅に微笑んだ。


「まあ、ラゼン殿下。ご機嫌よう」


ラゼンはローゼリアではなく、アリアを見ていた。

その視線は、昨日のイベントの続きのように熱を帯びている。


「君……昨日泣いていた子だな。大丈夫だったか?」


アリアは怯え、ローゼリアの袖を掴んだ。


「ひっ……あ、あの……」


ローゼリアはすっと立ち上がり、ラゼンの前に出た。


「殿下。アリアは怖がっているのが見えませんか?」


ラゼンは眉をひそめた。


「怖がっている?なぜだ?」


「あなたが理由ですわ」


ローゼリアは微笑んだまま、淡々と言い放つ。


「昨日、彼女を囲んだ男性陣の中に殿下もいらしたでしょう?アリアは突然囲まれ、泣くほど怯えていたのです。……それを好意と勘違いされては困りますわ」


ラゼンの表情が固まる。


「な……っ」


アリアは小さく震えながら、ローゼリアの背に隠れた。


ローゼリアは続ける。


「殿下。アリアに近づく前に、まずは彼女の気持ちを理解なさって。……でなければ、ただの迷惑行為ですわ」


ラゼンは言葉を失い、拳を握りしめた。


――第一段階、完了。

殿下の自信を揺らし、アリアの恐怖を明確に示す。

これで、彼が軽々しくアリアに近づくことはできない。


ローゼリアはアリアの手を取り、優しく言った。


「行きましょう、アリア」


アリアはこくりと頷き、ローゼリアに寄り添う。


二人が歩き去る背中を、ラゼンは呆然と見つめていた。


殿下。

あなたが私を軽んじた瞬間から、もうざまぁは始まっているのよ。


ローゼリアの微笑みは、夕陽よりも冷たく美しかった。





――――――


数日が経った。


アリアは相変わらず小心者で、ローゼリアの後ろに隠れる癖は抜けない。

だが、ローゼリアの庇護下で過ごすうちに、ほんの少しだけ変化が生まれていた。


「お、おはようございます……」


アリアが小さな声で挨拶すると、クラスの空気がわずかに揺れた。


「……あれ、なんか今日のアリアさん……」


「雰囲気、柔らかくなった?」


「昨日より、顔色がいいな」


アリア本人は気づいていない。

だが、ローゼリアには分かる。


私の庇護下で安心したことで、アリアの本来の魅力が滲み始めている。


アリアは怯えながらも、ローゼリアの隣に座り、ノートを開く。

その仕草は小動物のように慎ましく、守りたくなる。


そして――

その守りたくなる魅力こそが、攻略対象者たちを惹きつける最大の要因。


ローゼリアは横目でアリアを見ながら、静かに思う。


……この子は、意図せず人を惹きつける。

それは天性のもの。

だからこそ、私が制御しなければならない。



昼休み、中庭で二人が並んで座っていると、

アリアの周囲に、自然と視線が集まっていた。


「アリアさん、今日も可愛いな……」


「守ってあげたくなる感じ、すごいよな」


「昨日より表情が柔らかい……」


アリアは気づかず、パンをもぐもぐ食べている。


「ろ、ローゼリア様……?あの、なんだか視線が……」


「気にしなくていいわ。あなたが可愛いだけよ」


「か、可愛い……!?そ、そんな……!」


アリアは真っ赤になり、両手で頬を覆った。

その反応がまた周囲の男子の心を撃ち抜く。


ローゼリアはため息をついた。


……この子、本当に自覚がないのね。


しかし同時に、胸の奥に小さな満足感が生まれる。


私の庇護下で、アリアは安全に魅力を発揮できる。

それは、彼女のためでもあり……

私の破滅を避けるためでもある。



その日の放課後。

廊下で、ラゼンが二人を待ち構えていた。


「アリア。少し話がしたい」


アリアはびくっと震え、ローゼリアの背に隠れる。


「ひっ……!む、無理です……!」


ラゼンは困惑したように眉を寄せた。


「なぜそんなに怯える?俺はただ――」


「殿下」


ローゼリアは一歩前に出た。

その声は柔らかいのに、空気を切り裂くほど鋭い。


「アリアは、あなたが怖いと言っているのです。それ以上の理由が必要ですか?」


ラゼンは言葉を失う。


ローゼリアは続ける。


「殿下は、アリアの気持ちを理解しようとせず、自分の感情だけを押しつけている。……それでは、誰もついてきませんわ」


ラゼンの表情が揺れた。

自信が崩れ、焦りが滲む。


殿下。

あなたがアリアに惹かれれば惹かれるほど、アリアがあなたを怖がっているという事実が、あなたを追い詰める。


ローゼリアはアリアの手を取り、優しく言った。


「行きましょう、アリア」


アリアはこくりと頷き、ローゼリアに寄り添う。


二人が歩き去る背中を、ラゼンは呆然と見つめていた。


――第二段階、完了。

殿下の焦りを育て、アリアの魅力を手の届かないものにする。

これで、殿下は自滅の道を進むしかない。


ローゼリアの微笑みは、静かで、冷たく、美しかった。





――――――


ラゼン・ポートマンは、落ち着かなかった。


ここ数日、アリアが自分を避けている。

いや、避けているどころではない。

彼女はラゼンを見るだけで怯え、ローゼリアの背に隠れる。


なぜだ……

俺は、ただ心配して声をかけただけなのに。


だが、ラゼンには分からない。

アリアにとって、突然囲まれた昨日の出来事がどれほど恐怖だったか。

そして、ローゼリアがどれほど巧妙にアリアの恐怖を周囲に示しているか。



中庭に向かう途中、ラゼンは耳にした。


「アリアさん、最近ローゼリア様と一緒にいるよな」


「殿下が近づくと怯えるって噂、本当なのか?」


「だとしたら、殿下ちょっと……」


ラゼンは足を止めた。


……俺が、アリアを怯えさせている?


そんなはずはない。

だが、周囲の視線は確かに冷たくなっていた。



その日の午後。

ラゼンは偶然、廊下でアリアを見かけた。


アリアはローゼリアと並んで歩いていた。

以前より表情が柔らかく、声も少しだけ明るい。


「ローゼリア様、今日の授業……ちょっと分かりました……!」


「ええ、よく頑張ったわ。アリア」


アリアは嬉しそうに笑った。

その笑顔は、ラゼンが見たことのないものだった。


……俺には、そんな顔を見せたことがない。


胸の奥がざわつく。


ラゼンは思わず声をかけた。


「アリア!」


アリアはびくっと震え、ローゼリアの背に隠れた。


「ひっ……!」


その反応は、ラゼンの心を鋭く刺した。


「アリア、どうしてそんなに怯えるんだ……?俺は、君に何も――」


「殿下」


ローゼリアが一歩前に出た。

その声は柔らかいのに、空気を凍らせる。


「アリアはあなたが怖いと言っているのです。それ以上の説明が必要ですか?」


ラゼンは息を呑んだ。


「お、俺は……ただ……」


「ただ、ですか?」


ローゼリアは微笑んだ。

優雅で、冷たく、完璧な笑み。


「殿下が『ただ』と思っている行動が、アリアにとっては恐怖なのです。……それを理解できないのなら、殿下は彼女に近づくべきではありません」


周囲の生徒たちがざわめく。


「殿下、アリアさんを怖がらせてたのか……?」


「ローゼリア様の言う通りだよな」


「殿下、ちょっと強引すぎるんじゃ……」


ラゼンの顔が青ざめた。


なぜだ……なぜ、こんなことに……


ローゼリアはアリアの手を取り、優しく言った。


「行きましょう、アリア」


アリアはこくりと頷き、ローゼリアに寄り添う。


二人が歩き去る背中を、ラゼンは呆然と見つめていた。


胸の奥で、何かが崩れ落ちる音がした。


ローゼリア……

お前が……


だが、ラゼンはまだ気づいていない。


――ローゼリアは何もしていない。

ただアリアの恐怖を、そのまま見える形にしただけ。


破滅フラグは、ラゼン自身の手で立ち上がっている。


ローゼリアは振り返らない。

だが、その横顔は静かに微笑んでいた。


殿下。

あなたが私を軽んじた瞬間から、もう『ざまぁ』は始まっているのよ。


夕陽が、ローゼリアの影を長く伸ばした。





――――――


王城の大広間。

貴族たちが見守る中、第二王子ラゼンは堂々と立っていた。


「本日、私は――ローゼリア・ハーレストとの婚約を破棄する!」


ざわめきが広がる。

だが、ローゼリアは微笑んだまま、微動だにしない。


……来たわね。

予定通り。


ラゼンは続ける。


「理由は明白だ。ローゼリアは冷たく、婚約者としての務めを果たしていない。その一方で――」


視線が、ローゼリアの後ろに隠れるアリアへ向く。


「アリアは純粋で、優しく……俺は彼女を守りたいと思った!」


アリアはびくっと震え、ローゼリアの袖を掴んだ。


「ひっ……!」


その怯えた声が、大広間に響く。


ラゼンは困惑した。


「アリア……?どうしてそんな……」


ローゼリアが一歩前に出た。

その動きだけで、空気が変わる。


「殿下。アリアが、あなたを怖がっていることに、まだお気づきにならないのですか?」


ざわめきがさらに大きくなる。


「怖がって……?俺が……?」


ラゼンは信じられないという顔をした。


ローゼリアは静かに、しかし確実に追い詰める。


「殿下は、アリアが泣いて逃げた日、彼女を囲んだ男性陣の中にいらっしゃいましたね?」


「そ、それは……!」


「アリアは突然囲まれ、泣くほど怯えていたのです。殿下の好意は、彼女にとって恐怖でしかありませんでした」


アリアは震える声で、絞り出すように言った。


「……こ、怖かったんです……ラゼン殿下が……近づいてくると……息が苦しくて……」


その言葉が、大広間の空気を凍らせた。


ラゼンは青ざめる。


「ま、待ってくれ……俺は……そんなつもりじゃ……!」


ローゼリアは微笑んだ。

優雅で、冷たく、完璧な笑み。


「『そんなつもりじゃない』――それは、加害者が最もよく使う言葉ですわ」


貴族たちがざわつく。


「殿下がアリアに向けた言葉や行動は、彼女にとって恐怖でしかなかった。それを理解しないまま、私を悪者にして婚約破棄?……滑稽ですわ」


ラゼンは震える声で叫んだ。


「俺は……アリアを守りたかっただけだ!」


「守りたい相手が怯えているのに、その声を聞こうとしない殿下が……?」


ローゼリアはゆっくりとアリアの肩を抱いた。


「アリアは、殿下を見るだけで震えるのです。――それが、すべての答えですわ」


アリアは小さく頷いた。


「……ごめんなさい……わ、私……殿下が……怖いんです……」


大広間が静まり返る。


ラゼンは崩れ落ちるように膝をついた。


「な……ぜだ……どうして……」


ローゼリアは最後に、静かに告げた。


「殿下。あなたが私を軽んじ、アリアを追い詰めた瞬間から――あなたの破滅は、もう決まっていたのです」


その言葉は、刃よりも冷たく、美しかった。


ラゼンは何も言えない。

周囲の貴族たちは、彼に冷たい視線を向けていた。


婚約破棄は成立。

だが、破滅したのはローゼリアではなく――

ラゼンだった。


ローゼリアはアリアの手を取り、優雅に歩き去る。


これで、殿下の『ざまぁ』は完了。

次は――

アリアの未来を整える番ね。


アリアはローゼリアの袖を握りながら、小さく微笑んだ。


「ローゼリア様……ありがとう……」


「ええ。あなたはもう、誰にも怯える必要はないわ」


二人の影が重なり、ゆっくりと大広間を後にした。





――――――


婚約破棄から数日後。

学園の空気は、以前とはまるで違っていた。


ラゼンは表舞台から姿を消し、周囲の貴族たちはローゼリアに対して一転して敬意を示すようになった。

アリアに向けられていた不用意な視線も、すっかり影を潜めている。


その日の放課後。

温室には柔らかな夕陽が差し込み、花々の香りが静かに満ちていた。


ローゼリアは椅子に座り、紅茶を口に運ぶ。

向かいには、アリアが小さく座っていた。


「ローゼリア様……その……本当に、ありがとうございました」


アリアは両手でカップを包み込みながら、小動物のようにおずおずと頭を下げた。


ローゼリアは微笑む。


「礼を言う必要はないわ。私はただ、あなたを守りたかっただけ」


アリアは顔を上げる。

その瞳は、以前よりずっと澄んでいた。


「……私、ローゼリア様と出会って……初めて、安心っていう気持ちを知りました」


ローゼリアの胸が、わずかに揺れた。


この子は、本当に……

まっすぐで、脆くて、愛しい。


アリアは続ける。


「怖いことがあっても……ローゼリア様がそばにいてくれたら、大丈夫って思えるんです」


その言葉は、ローゼリアの心の奥に静かに染み込んだ。


ローゼリアは席を立ち、アリアの前に膝をついた。

そっとアリアの手を取る。


「アリア。あなたはもう、誰にも怯える必要はないわ」


アリアの瞳が揺れる。


「……ローゼリア様……?」


「これからは、私があなたを守る。あなたが望む限り、ずっと」


アリアは小さく息を呑み、そして――

ローゼリアの手をぎゅっと握り返した。


「……はい。私も……ローゼリア様と一緒にいたいです」


温室に、夕陽が二人の影を重ねる。

その影は、もう二度と離れないように寄り添っていた。


ローゼリアは静かに微笑む。


殿下のざまぁは終わった。

でも――

私とアリアの物語は、ここから始まる。


風が花弁を揺らし、二人の未来を祝福するように温室を満たした。


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