答え
慎司はソファに座ってテレビを見ていた。足元には、恋人の美優がスマホを眺めながら腰掛けている。
美優が見ているのは、ファッション系の通販サイト。次のシーズンに向けて、ワンピースを探しているようだ。
「ねえ、慎司。このワンピースが可愛いと思うんだけど、どうかな?」
美優は、慎司にスマホの画面を見せた。
彼女から見せられたのは、袖口と裾にフリルが装飾されたワンピース。フワフワとした印象を受ける可愛らしいデザインだ。
最初に見た瞬間は、慎司も可愛いと思ったが、フリルに気がつくとその感情が薄れた。
「パッと見は可愛いけど、袖のフリルがちょっとな」
「えー、なんで? これが可愛いのに」
「可愛いんだけど、引っかかったりして邪魔になりそうなんだよな」
慎司はそう言うと、美優のスマホをスクロールして、良さげな物を流した。
そして彼女に勧めたのは、さっきのものと比べてなんの装飾も施されていない、とてもシンプルなものだった。
「これはどう? 動きやすそうじゃん?」
良いと思って進める慎司だったが、美優は不満そうに頬を膨らませていた。
「全然、可愛くないよ。さっきの方が可愛い」
「可愛さも大事だけど、動きやすさも大事だって。美優ってテーマパークとかで急に走り出したりするじゃん?」
「動きやすさだけならジャージでいいもん。今欲しいのは、可愛いワンピースなの」
「これだったら、汚れても洗濯機で洗えるよ。さっきのは手洗いでめんどくさいよ?」
慎司が良いと思う点上げていくたびに、美優の反論する声を荒げている。彼女の行動や性格、それに利便性を合わせて考えると、自分が選んだワンピースの方が良いのは間違いない。嫌がる理由が慎司には分からなかった。
美優は諦めたのか、見ていた通販サイトを閉じ、別の通販サイトでカバンを見始めた。
慎司も視線をテレビに移した。ニュースを解説するバラエティにチャンネルを変え、内容に耳を傾ける。
しばらくして、また美優がスマホの画面を見せてきた。
「ねえ、このカバンとこっちのカバン、どっちがいいと思う?」
見せられたのは、側面にポケットが付けられチャックでしっかりと閉じられるタイプのものと、四角いシンプルな作りでボタンで蓋をするタイプのものの、2種類のカバンだった。
慎司は、その二つの商品ページを読み、ポケットがありチャックで閉められる方を選んだ。
「こっちがいいと思うよ」
「私はこっちがいい」
美優は、慎司とは違う方のバックを選んだ。
決めていたのなら聞かなくても良いのにとも思ったが、慎司はそれを言わないようにした。ただ聞いてきたと言うことは、意見が欲しかったのだと思った。
「こっちの方がポケットもあるし、チャックでしっかり閉じられるから中身は落ちないと思うけど」
「慎司は、いつも機能性を重視し過ぎ」
美優の声は低かった。怒ってはいないが機嫌はよくない。
慎司には、美優が求める答えが分からなかった。ワンピースは、彼女との好みが合わなかったからだと思う。自分が良いと思ったものを提案したのだから、間違ったことは言ってないはずだ。
慎司はカバンについても考えた。どちらが良いかと聞かれたから、機能性が良い方を選んだ。だが彼女は違う方が良いと言ったが、迷っているから聞いたのだと思った。
何が正解だったのか考えていると、また美優がスマホを見せてきた。
「このカーディガン、可愛いと思う?」
美優は視線を向けることなく尋ねてきた。慎司はそこで、答えを間違ってはいけないと悟った。
必死に頭を回転させた結果、彼女の質問から数秒後に答えた。
「うん、可愛いと思うよ」
失敗したと慎司は思った。先ほどの流れから考えると、真剣に考えていないように思える答えだ。美優が怒ると思ったが、彼女の反応は違っていた。
「ほんと⁉︎ じゃあ、これ買うね」
美優は嬉しそうに購入手続きを始めた。
慎司はその様子を見て、彼女が求めていた答えが分かった気がした。
彼女は同意を求めていたのだ。自分の意見は求めておらず、ただただ同意が欲しかったのだ。自分の認識が違っていたことを、慎司は知った。
「今度の休みに買い物に行こうか」
「え、どうしたの?」
「美優が服を買ってるとこをみて、服を見に行きたくなった」
美優の好みをもっと知りたくなったとは言わない。彼女が求める正しい答えが言える自信が、慎司にデートの提案をさせたのだった。




