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君のツバサ  作者: 水無月
第九章
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第9章-7

 片手に銃を構え、もう一方の腕で私を抱きながら、空は周囲に視線を彷徨わせていた。

 今の状況を正確に把握し、最善の策を考えているのだろう。

 どちらかというとほわんとしていてちょっと天然気味だと思っていた空だが、その横顔はドキッとするほど凛々しかった。

「守りながら戦うのはちときついで、ソラ」

「…あぁ」

 少し離れた荷物の陰に隠れているレイの言葉に、静かに頷く空。

 私を抱く腕に、僅かに力が入る。

「…だが、守ることが最優先だ」

「全員無事帰るのが最優先だよ。誰が欠けるのも無しだからな」

 揺るぎのない瞳で言った空に、大地がそう返す。

 そして、私を見つめると優しく微笑んだ。

「そうじゃないと、助かっても羽美が泣くからな」

「あくまであの女中心かい…」

「当然だろ」

 しれっと言い放つ大地に、小さく息をつくレイ。

 そんな会話に、少しほっとする。

 緊迫した状況の中でも、心を強く持てている証拠だ。

「まぁええわ。それより、ハニー。ソラの方に行ってくれへん?互いに守りながら戦うより、分担した方がやりやすいんや」

 レイの言葉に、空は僅かに表情を曇らせる。

 それを見て取ったのか、空が口を開く前にレイが言葉を続ける。

「ソラより俺の方が戦いに向いてるのはわかっとるやろ。その女とハニーは任せる。突破口くらいひらいたるわ」

「…レイ」

「任せとき。ハニー、援護するから合図したらあっちに移ってや」

 有無を言わせぬ笑顔をソラに向けた後、レイは大地に視線を移した。

 何か言いたげにじっとレイを見つめた大地だったが、何も言わずにレイの肩をぽんっと叩いた。

 そして、隠れている荷物の端に身を寄せる。

「死ぬのは無しだからな。お前でも、死んだら後味が悪い」

 視線を合わせずにそう言った大地にきょとんとした後、微笑を浮かべるレイ。

 素直ではないが、身を案じてくれている事が嬉しかったのだろう。

「帰ったら、ごほうびにデートしてや」

「断る」

「即答はないやろっ。頑張ったらサービスしてや」

 子気味よく突っ込んだ後、手にしていた銃を構えるレイ。

 穏やかだった空気が、凍てつくような雰囲気に豹変する。

 そして、私たちと大地達の潜んでいる場所の間にある道に視線を向けた。

「行くで、ハニー」

「あぁ。無茶すんなよ」

 頷くレイ。

 私は緊張して息を飲んだ。

「GO!」

 レイはそう短く叫ぶと、身を低くして敵のいる方へと走り出した。

 同時に、大地もこちらへ駆け出す。

 低音のくぐもった銃声が何発も聞こえ、私は祈るように目を閉じた。

 ただ無事を祈ることしか出来ない自分が歯がゆくて、悔しかった。

「羽美、大丈夫か?」

「大地!」

 傍で聞こえた声にぱっと顔を上げると、そこには気遣うような大地の瞳があった。

「怪我はない!?」

「俺は平気」

 そう答えながら、視線をレイが飛び出していった方向に向ける。

 銃声はすでに止んでいた。

 レイが無事なのか、不安で鼓動が早くなる。

「…頼む」

 空は大地にそう言って、私の背をそっと押した。

 温もりを確かめるかのように、ぎゅっと私の手を握る大地。

「離れるなよ、羽美」

「うん」

 手を繋いだまま、荷物の影に身を潜める私たち。

 空は通路ぎりぎりの場所に立つと僅かに顔を出し、レイが走っていた方に視線を走らせた。

「空。レイは…」

「…大丈夫だ」

 目視で無事な姿を確認したのだろう、安堵したように頷く空。

 使われていない倉庫のようだが、残されていったらしい荷物は沢山ある。

 その一つに、なんとか無事に身を潜める事ができたのだろう。

「で、一対四で勝算あるのか?」

「…厳しいな」

 大地の問いに、呟くように答える空。

 だが、その瞳には何故か希望の光があった。

「…今の状況では、俺が行った所で勝算は薄い。だが…」

 そう言ってじっと大地を見つめる空。

 その視線に、大地はふっと微笑を浮かべる。

「朝宮がわかってるなら、あいつもわかってるって事だよな?」

「…あぁ」

「……何?」

 どうやら男三人は何かを分かり合っているらしい。

 一人取り残された気分でそう尋ねると、大地は微笑んだ。

「俺が、たった一人でここまで来れると思うか?」

「え?」

「しかも、銃なんて持ってさ」

「あ…」

 言われてみて、ようやく気づく。

 空やレイと違って、ただの高校生の大地がそんな事ができるはずはない。

 驚きの連続で冷静な思考ではなくなっていたようだ。

「それって…」

「ちゃんと助けは来てるって事。ただ…」

 一度言葉を区切ると、苦笑を浮かべる大地。

「ここ、敷地が結構広くてね…。俺、途中から一人で突っ走ってきた上に、途中で通信機落としてきたから、いつ助けがここに来るかは不明」

「…けっこうドジ?」

 首をかしげる空に、ぽりぽりと頬をかく大地。

「羽美をいち早く見つけようと必死だったんだよ…」

「…見つけても、殺されたら意味がない?」

「あー、悪かったよっ!」

 空の突っ込みに顔を赤らめる大地だが、本当に無事にここにたどり着いてくれてよかったとほっとする。

「とにかくっ!派手に音でもたてて見つけてもらうか、時間を稼げればこっちの勝ちだ」

「…時間を稼ぐ事の方が難しい」

「だから、レイは仕掛けたんだろ?」

「あぁ」

 細かな相談をしなくとも、男の子たちはちゃんと通じ合っているようだった。

 空は、再び思案するように辺りを見回す。

 そして、息を殺して周囲の気配を探っている大地の横顔を、私はじっと見つめた。

「なんで、大地は私の居場所がわかったの?」

 大地の話しからすると、助けに来てくれた人たちもアジトの場所はわかっても、私がその中のどこにいるかは特定できていなかったようだ。

 それなのに、プロよりも先に駆けつけたのは大地…。

「昔から羽美がいる場所見つけるのは得意なんだよ。俺の自慢の特技?」

 そう言って微笑んだ大地の手を、そっと握り返す。

 自分を大切に思ってくれる人の為、私も何かしないといけないと、そっと誓った。



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