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君のツバサ  作者: 水無月
第八章
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第8章-4

 積み上げられた荷物の上から私を見下ろしていたレイは、少しして軽やかに私の前に降り立った。

 美しい身のこなしで静かに着地するその姿は、普段のおかしな言動からは想像できないくらいで、飛び降りたというよりは舞い降りたようだった。

「なにしとんねん」

 拘束された私の前で腕を組み、眉をひそめるレイ。

「捕まってるのよ」

「そんなん、見ればわかるっちゅーねん!」

 びしっとつっこむレイは、いつも通りでなんだか少しほっとする。

 先ほど来た彼女の部下達よりは、レイの方がずっと人間味がある気がした。

「居所つきとめて乗り込んでくるにしては早すぎやろ?なんで今、お前がここにおるのか聞いとるんや」

「知らないの?」

「アホかっ!知らないから聞いとんのやろ!!」

「いやいや、そうじゃなくて…」

「なんやねん!!」

 力いっぱいつっこむレイは、どうやら主人の本来の目的が私であったとは本当に知らないようだった。

 レイから空に漏れる事を危惧して知らせていないのかもしれない。

「とりあえず、この紐ほどいてくれない?」

「できるかっ!この建物の中で捕まってる人間、オレの一存で逃がせるわけないやろ」

「やっぱり?」

「わかってるなら最初から言うなや!!」

 テンポの良い会話に、私を縛っていた恐怖が徐々に和らいでいくのがわかった。

 レイのどこか冷たさの残る瞳は、空が傍に来たからか、あるいは大地と話したからか、以前より和らいでいるようだった。

「レイは、マスターがどうして日本に来たか知ってるの?」

「なんでそないな事お前に言わなあかんねん」

 先ほどから自分の求める答えが返ってこないことにイラついてか、半眼で睨むレイ。

「いや、ひょっとしてあまり信頼されてないのかなーとか」

「そんなことあるかっ!マスターがこれから大きな組織に入る手土産に、日本で仕留たい奴らがおるから来とんねん!!って、言ってしもた…」

 あっさり口を割るレイに思わず苦笑いする。

 これなら、本当のことを言われなくても仕方がない。

 というか、これでよく組織でやってきたものだと思ってしまう。

 実はこの仕事、レイには向いてないんじゃないだろうか…。

「それに必要だから捕まってるみたいよ」

「は?お前、どんな大物やねん」

 胡散臭そうに私を見つめるレイに、私は再び苦笑いを浮かべる。

 きっとレイは、空を組織に連れ戻す事だけを考えていたのだろう。

 主人がどんな相手を狙ってどんな方法をとるかは本当に関わっていないらしい。

「ターゲットを知らないって事は、やっぱり信用されてないんじゃ…」

「違うわっ!俺にはソラを一人で取り戻すという大きな使命が!!」

「やっかい払い?」

「違うって言うてるやろ!!」

 必死に言い返しつつも、自分でも疑問に思ったらしい。

 少し目が泳いでいる。

「新しい組織に入るのに、使える人間増やすのも大事な仕事やねん。せやから…」

「ホントに?」

「って、お前!なんかテンション変やぞっ!なんやそのノリはっ!!お前はソラかっ!!」

 首をかしげて問う私に、レイががなる。

 確かに、思わぬ事態に精神状態が不安定なのは確かだ。

「ごめん。死ぬかと思った後にレイが来たから、ちょっとおかしなノリが伝染したみたい」

「わかればええねん…って、伝染って俺は病原菌かいっ!」

 びしっとつっこんでから、レイは小さくため息をつくとどさっと私の隣に座り込んだ。

 ぐしゃっと乱暴に自分の髪をかきあげる。

「なんやろな。お前やハニーとおると、なんか調子狂う」

「私はほっとしたけど。レイが来て」

 そう言うと、呆れた眼差しを向けるレイ。

「あのな…。俺は敵やねん。ほっとすんなや」

「でも、他の人よりレイの方が人間らしいよ」

「どんなやねん…」

 ふぅっとため息をついて、レイはうつむいた。

 そのまま会話が途切れるが、レイは立ち去ろうとはしなかった。

 少しは私との距離が縮まったと思っていいのだろうか…。

「で、なんでおんねん。ハニーは知っとんのか?」

「大地の目の前で連れ去られたから…知ってるよ」

 私の答えに、顔をしかめるレイ。

 大地がどれだけ私の事を大切に思っているか聞いた直後なので、大地の今の心労を思っての事かもしれない。

「で、理由は?」

「上司から聞いてないのに、人質から聞いていいの?」

「…いい」

 いつのまにか、レイを取り巻く雰囲気が変わっていた。

 ふざけた雰囲気は消え、真剣な眼差しでどこか一点を見つめて何か考えている。

「組織を潰した警察の中に私の両親もいたの。それで、なんだかあなたのご主人は私の母を特に嫌ってるみたいで、報復のために私を人質にとったみたい」

「…組織をつぶした連中の中にいた日本人の娘?」

 何か思い出すように、眉をひそめるレイ。

 しばらくして、横目でちらりと私を見る。

 その視線が顔から胸へ移動し、再び顔に戻った。

「何?」

「お前が、セイラの娘?」

「お母さんの事知ってるの!?」

 レイの口から母の名前が出て、私は驚きの声をあげた。

「似てない…特に胸がないところが似てない…。いや、でもそのおかしな性格は似てるか?」

 失礼な独り言を言うレイ。

 でも、私はレイが母の性格まで知っている事が驚きだった。

「なんで知ってるの?」

「…だから、俺には言わなかったのか」

 すっかり自分の世界に入っているのか、大阪弁風の話し方も忘れて一人呟いているレイ。

「セイラを、殺すのか…」

「レイ?」

「……………」

 そのまま静かに口を閉ざし、目を伏せたレイの真剣な横顔を、私はただ黙って見つめている事しかできなかった。


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