第7章-9
穏やかに輝いていた太陽が闇に溶けていくと共に、空の瞳も暗闇に沈んでいくようだった。
優しい光が消え、出会った頃のように…いや、それよりも深い闇が空の瞳を覆いつくしていった。
過去の記憶は、それ程辛いものだったのだろうか…。
「空…いいよ。思い出さなくても」
不安になって声をかけると、空ははっとしたように一瞬目を見開く。
マスターの事を考えようとし、そのまま過去の世界に引きずり込まれていたのかも知れない。
「でも羽美、それを聞いておかないと…」
「空の心の方が大事だよ」
不服そうだった大地は、ぐっと言葉を飲み込んだ。
思い出したくない記憶は、誰にでもある。
ようやく癒え始めた傷を、今開いてはいけない気がした。
空は、戸惑うような瞳で私を見つめている。
「嫌な記憶は思い出さなくていいよ。ただ、一個だけ確認。その人は、空達みたいに強いの?」
その質問に、空は静かに首を振った。
「…人並み?」
「いや、お前の人並みの判断がどの程度かわからんから」
大地のつっこみに首をかしげる空。
いつもの空に戻ったようで、少しほっとする。
「世間の人並みと、組織の人並みはおそらく違うぞ」
「…銃が普通に撃てる、羽美ぐらい?」
首をかしげながら答える空に、小さくため息をつく大地。
微妙な表現に、判断しかねているらしい。
「銃はともかく、体術なら負けはしないってことでしょ。朗報じゃない」
「銃がともかくですむ問題じゃないんだけど…。ほんと、ポジティブだな」
呆れながらも、小さく笑う大地に、私も笑い返す。
暗く考えた所で、何が変わるわけでもない。
事実は事実と受け止めて、それをふまえて先のことを考える。
一人では怖気ついてしまうときもあるけど、でも支えてくれる大切な人がいるから大丈夫。
「じゃ、先にレイをとっ捕まえて、それから父様に連絡して諸悪の根源を捕まえてもらえば、それで解決!それで決まりね!」
「いや、まぁ、そうだけどさ」
「…それが、難しい」
二人からため息のような言葉が零れ落ちる。
「なんとかなるわよ!一番怖いのは遠くからの狙撃だけど、ここら辺は建物が密集してて狙える場所は限られてるはず。その場所を確認して気をつければ、狙撃は平気でしょ。後は接近戦。それは、空がいてくれれば大丈夫でしょ?あとは、レイの出方を見つつ、捕獲する作戦を考えていこう!」
笑顔でまくし立てる。
ただ、空が取りこまれそうになった闇から少しでも遠ざけたかった。
マスターの事はあまり考えさせないように、そして、少しでも明るく振舞う事。
空の瞳に燈り始めた、あの穏やかな光を守りたかった。
「…そう、だな」
「まぁ、やるしかないしな」
仕方ないなといった、でも優しげな瞳の二人。
大丈夫。
この二人となら、怖くない。
誰かを守るためなら、強くなれるから。
力は足りないかもしれない。
でも、守られるだけじゃなく、心で二人を守りたかった。