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君のツバサ  作者: 水無月
第七章
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第7章-5

 居間はなんだか重苦しい空気に包まれていた。

 大地は完全に目が据わっているし、空は悩んでいるような表情を浮かべている。

「レイって…確か、お前にくだらない事吹き込んだ奴だよな?なんなんだよ、あの男はっ」

 そういえば、空が私にキスしそうになった時に出た名前だったと思い出した時、空はちょっと首をかしげながら大地に答えた。

「……日本のお笑いと美をこよなく愛する、この世でもっとも美しき暗殺者(アサシン)?」

「なんじゃそりゃーー!!」

 大地がちゃぶ台をひっくり返しそうな勢いのツッコミを返すが、空はいたって真面目な表情のままだ。

「…レイが、いつもそう自己紹介していた」

「どんな自己紹介だ」

 大地は思い切り顔をしかめてそう言ったが、本題に戻そうと小さくため息をついてから口を再び開いた。

「あいつが組織の仲間でちょっとアホなのはわかった。それはいい。それよりも、さっきの羽美に対する行為はなんだったのか答えろ」

 その問いに、空は僅かに目を伏せた。

「いい意味じゃないのはわかってる。話して?」

 促す私を戸惑うように見つめてから、空は静かに口を開いた。

「…レイは…依頼を受けると…ターゲットが異性の場合ああする」

 依頼と標的(ターゲット)という言葉に、私と大地は目を見合わせた。

 空たちが受ける依頼など一つしかないはずだ。

「誰かが、私の命を奪えって…?」

 躊躇いがちに空が頷くと、大地は黙って携帯を取り出した。

 どこかに連絡しようとした大地の手から、空が携帯を奪う。

 大地は静かに空を睨み付けた。

「羽美が狙われてるんだ。大和さんに報告して警備してもらう」

「…それは、しないほうがいい」

「何故」

 お互い譲らない雰囲気だ。

 空が自分の意志を表に出すのも珍しかった。

「……俺が護る」

「それじゃ答えにならない」

 少し考えていた空に対し、大地はすぐにそう切り替えした。

 空の瞳が揺れる。

「ねぇ、空。あの方って、誰?」

 レイが口にした『あの方』が依頼をした自分物だろう。

 なんとなく思い当たる人物がいたが、それを確かめたかった。

 空は再び目を伏せた。

 それから、ゆっくりと口を開く。

「……マスター」

 やはり、と思う。

 組織で空の心を縛っていた人物。

 暗示を解いたとはいえ、心に刻み込まれたものはそう簡単に消えはしないだろう。

 レイと共にその人物の影が見え、空は動揺している。

「そいつが依頼主だとして、何故通報しない」

 動揺している空に容赦なく、大地は言葉を続ける。

「オレやお前が羽美を護るのは当然だ。だが、警察の力も借りたほうがより安全だろ。それを、何故止める」

「…ゲームだからだ」

 呟くように、空は言った。

「…狙いは、羽美の命じゃない。俺との勝負だ」

「人の命を狙っといて、ゲームだと?」

 ひくっと大地の顔が引きつる。

「大地!」

 空に殴りかかりそうな勢いだったので思わず声をかけると、大地は浮かしかけた腰を下ろした。

 すぅっと大きく息を吸い、冷静になろうとしている。

「彼らの狙いが私でも空でも、父様たちには報告した方がいいんじゃない?」

 組織を崩壊させたのは、父様たちだ。

 ならば、残党がいるのなら追っているはず。

 しかし、空は私の言葉にも首を振った。

「…レイが本気を出せば、誰に頼んでも護れない。日本の警察や月也たちに言えば、レイは本気になる」

 レイの実力は、一緒に仕事をしていた空が一番知っているはずだ。

 その空が護れないと言うなら、きっとそうなのだろう。

 レイの冷たい微笑を思い出し、思わずぞっとする。

「相手がゲーム感覚なら、護れるのか?」

 真剣な瞳で問う大地に、空はしっかりと頷いた。

「…レイは…少々頭が弱いから……」

 シリアスな眼差しのまま、若干失礼な事を言う空。

「…命だけを狙うなら、その技術はずば抜けている。しかし…」

「過程を楽しむとなると、ぬけてるところがあるって事か?」

 頷く空に、大地は深々とため息をついた。

 それは、自分の意見を諦めざるをえない事を示しているようだった。

 本気を出した空に日本の警察が適うとは思えない。

 それと同じか、仕事を楽しんでいるようなレイはそれ以上かもしれない実力ならば、付け入る隙がある方を選ぶのが確かに得策だ。

「それじゃ、しょうがねーな」

 大地の同意を得た空は、私を揺れる瞳で見つめた。

 私は、その瞳を真っ直ぐに見つめる。

「私は、空を信じるよ」

 空が護ると言ってくれた。

 ならば、大丈夫なはずだ。

 命を軽々しく考えている人間に、空が負けるとは思えなかった。

 そして、信じる事が空の力になると思うから…。

 揺れる瞳が温かな眼差しに変わるのを見て、その考えが間違いじゃないと、私は嬉しくなった。


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