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君のツバサ  作者: 水無月
第七章
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第7章-4

 事件の影響で、午後は当然休校となった。

 表向きは犯人の青年達の仲間が撃ったという事になり、事情聴取が終わった私たちも帰宅する事となった。

 多くの生徒が駆けつけた親と青ざめた顔で帰る中、私たちは家の近くの大通りまで大和さんに送ってもらう。

 中心核の青年が怪我をしていて事情が聞けないので、私や空を狙ったという確証が得られなかった為、護衛はとりあえずなかった。

「ほんとにここまでで大丈夫?」

「空がついてるもん。大丈夫。それより、大和さんまだ仕事でしょ?早く戻らなきゃ」

 不安そうな大和さんにそういうと、大和さんは名残惜しげな表情のまま戻っていった。

 大地は大和さんの車が見えなくなると、何か意を決したような眼差しで私を見つめる。

「俺、一回家戻って着替えとってくるな」

「着替えてくる、じゃなくて?」

「そ、着替えを取ってくる。しばらく、泊まらせてもらう」

 そう言った大地の瞳は、有無を言わせないものがあった。

 不穏な動きを感じ、傍にいてくれるつもりなのだろう。

「わかった。待ってるね」

 笑顔でそう言うと、大地は走って家に帰っていった。

 私と空は、夕飯の買い物を簡単に済ませてから家に戻る。

 と、家の前に誰かが立っていた。

 すらっと背が高く、やたら足が長い。

 後ろを向いているので顔は見えないが、モデルのように小さな頭だ。

 日に当たって輝かんばかりの金髪が無造作に一つにまとめられていた。

 その人物が、こちらを向いた。

 秋晴れの青空のような、鮮やかなブルーの瞳が私を捉えた。

「誰?」

 先に私が口を開いた。

 先ほどの事件の後に見知らぬ外人が家の前にいたら、さすがに警戒する。

 だが、きめ細やかな白い肌に高い鼻、少したれ気味だが美しいブルーの瞳、僅かに笑みを浮かべたピンクの唇は、芸術的配置といったほど整っており、間違いなくかなりの美形で、私は思わず少し目を奪われた。

 年は、私たちより少し上だろうか?

「よぉ、久しぶりやな、ソラ」

 私を思いっきり無視して、空に話しかける青年。

 空は黙って彼を見つめている。

「空…知り合い?」

 私がそう尋ねると、空はしばらく考えてからふるふると首を振った。

「ちょう待て。なんで否定すんねん?」

 少し迷って首をかしげる空。

「なんや、それっ」

 再び首をかしげる空に、大げさにこけてみせる青年。

 へたくそな関西弁と共に、なにやら楽しげにそうやっている彼にどう反応していいのかわからず、私は立ち尽くしていた。

「ま、そないな所が、好きなんやけどな」

 にこやかにそう述べる青年を、空は少し困惑した表情で見つめている。

 知り合いではないと言ってはいるが、実際知り合いのようだし、おそらく組織で一緒だった人間だろう。

「空。本当はどういう関係なの?」

「……月也が…忘れろ、と」

 迷った末に、空が呟くようにそう言った。

 新たな生活を始める際に、そう約束したのだろう。

 律儀な空に、少し笑みがこぼれる。

「目の前にいる人を、知らない振りするわけにもいかないでしょう?向こうは空のこと知ってるって言ってるわけだし、話してもいいと思うよ」

「…そうなのか?」

「うん」

 私が頷くと、空は視線を金髪の青年に向けた。

「…レイ。組織での仲間だった」

 やはり、という思いと共に、空とのこの差はなんなんだろうとも思う。

 寡黙でどこか悲しみを背負った空とは違い、彼はなんだか底抜けに明るいような気がする。

「過去形はないで。今もや」

 にやりと笑いを浮かべる、レイ。

「お前を迎えに来たんや、ソラ」

 その言葉に、空が少し驚きの表情を浮かべる。

 レイは、楽しげに空を見つめた。

「今日わかったやろ?ここはお前の居場所と違う」

「今日の事件、あなたが仕掛けたの?」

「お前は助けるために行動にたにもかかわらず、あの面や。これでお前の過去知ったらどないなる?汚らわしいもん見るような目つきになんねんぞ。そないなとこにいて楽しいか?」

 再び私を無視して、空にだけ話しかけるレイ。

 しかし、事件の内容を知っているという事は、仕掛けたのは彼に間違いないだろう。

「俺と来い。また一緒に仕事せえへんか」

 まっすぐに自分を見つめる青い瞳を見つめ返していた空は、しばらくして静かに首を振った。

「……俺は…いけない」

「なんでや?」

 空は僅かに目を伏せ、それからちらりと私を見た。

 揺れる瞳。

「行かせるわけないでしょっ。空はもう、うちの家族なんだから!」

 空を迷わせないように、私はレイに言い放った。

 そのとたんに、レイからゾクっとするような冷たいオーラが放たれる。

「黙れ。まな板胸」

「はっ!?」

「俺はたいした事ない顔の上に胸もない女と会話する気はねーんだよ」

「なっ…」

 関西弁も忘れ怒りを露にしているレイだが、そこまで言われてこちらも頭にこないわけは無い。

「そっちはなくても、こっちはあんのよっ!!空の過去?そんなの、みんなに知らせる必要なんてないでしょ。知られたくない過去なんて誰だってある。今の空を見てもらえばそれでいいの。それに、知ってたって私は空を汚らわしいなんて思わない!」

 怒鳴るようにそう言うと、レイは嘲笑うかのような笑みを浮かべた。

「でも、お前はソラが撃ったと思ったやろ?信じておらへん証拠やで」

「っ…」

 冷たい視線のレイに、すぐに言い返すことはできなかった。

 残忍とも思える眼差しで私に近づいてきたレイから守るように、空が私の前に立つ。

 空気が、張り詰めていた。

「あの状況で、他の人間が遠くから狙撃したなんて発想できる奴は普通はいない。ましてや、自分が銃を突きつけられていたんだ。羽美に非はない。それに、羽美は自分を守るためにしかたなくやったと思ったんだ。信じてなかったわけじゃない」

 静寂を破るように発せられた声に、全員が視線を向ける。

 大きな荷物を持った大地が、レイを睨みつけながら立っていた。

「だい…」

「美しいお嬢さん、これをどうぞ」

 私が名前を呼ぶより先に、どんな速さで移動したのか、レイは大地の前に紳士のように跪き、どこかから取り出した真っ赤な赤いバラを一輪差し出していた。

 穏やかな笑みを浮かべ、キラキラと輝く瞳で大地を見つめている。

「ちょっと待て!私より胸ないでしょっ!!」

「…気にしてた?」

 思わず叫んだ私に、空が首をかしげながらよけいなツッコミを入れる。

 レイはちらりと私に蔑むような眼差しをむけ、口を開く。

「お前の微々たる胸と、この人の美しさ一緒にするとはおろかやな」

「微々たるって…」

「話がそれてる気がするけど?羽美」

 大地が小さくため息をついて、私とレイを見る。

 それから、空に視線を移した。

「昔の仲間か?」

 頷く空を見て、大地は無言で携帯を取り出した。

 そして、どこかに電話をかける。

「大地?どこに…」

「今日の事件の首謀者なんだろ?」

 その言葉を聞いた瞬間、レイがすばやく大地の携帯を奪って電源を切った。

「美しい上に、賢く冷静。ええなぁ」

 愛しそうに見つめるレイに、大地は冷たい視線を向ける。

「お嬢さんじゃないけどな」

「愛は性別を越えるんや」

「越えなくていい」

 大地の冷たい返答に、ますます嬉しそうな顔をするレイ。

 なんなんだ、この人…。

「朝宮を連れ戻しに来たのか?目的は?」

 大地はあまり雑談する気もないらしく、疑問をストレートにぶつける。

 レイは、にやりと笑った。

「朝宮…ソラのことやな。連れ戻しにきた。一緒に仕事をするためや」

「仕事…前と同じ仕事ということか?」

「他にできる仕事があるか?」

 大地にはぽんぽんと答えるレイ。

 無言で大地が空に視線を移すと、空は静かに首を振った。

 大地は、再びレイに向き直る。

「本人は行く気がないらしい。帰れ。もう二度と関わらないと言うなら、今回は見逃してやる」

「強気やな」

 くすくすと、楽しそうに笑うレイ。

 しかし、大地は冷たい表情を崩さない。

「朝宮の意志を尊重するだけだ」

「まぁ、ソラもけっこう律儀やからな。すぐには頷くとは思てないんやけどな」

 そう言うと、レイはすたすたと私と空の前に戻ってきた。

 じっと見つめる空ににやっと笑うと、レイは空の隣にいる私を見た。

「こないな女のどこがええんかわからんな」

 そう言って、少し身をかがめたと思った瞬間だった。

 よける間も無く、レイの唇が私の唇に触れた。

「!?」

 思わず身を引いて固まる私に、レイは冷たい微笑を向けた。

 絡み付くような、冷たい嫌な空気。

「てめっ!!」

 大地が怒りの声をあげると、レイはにっこり笑って大地のほうに振り返る。

「愛のないキスやで。かんにんしてや、ハニー」

「……レイ」

 にこやかに答えていたレイは、にやりと笑いながら空を見た。

 珍しく、空の瞳に怒りともとれる光が見える。

「そういうこっちゃ、ソラ」

 意味ありげに笑うレイ。

「…誰が…」

「そりゃ、もちろんあの方やで」

 レイの答えに、空はきゅっと唇をかんだ。

 それを、レイは楽しそうに見つめている。

「ま、そういう事やさかい、よう考えんねんな。わかってると思うが、他の人間には言わんといてや」

 そう言うと、レイは片手をひらひらさせながら去っていく。

「ちょ…待ちなさいよっ!!」

 止めようとした私を、空が手で制した。

 その瞳に、動揺の色が広がっている。

「朝宮…話を聞こうか?」

 静かに怒っている大地の言葉に頷くと、空は先に立って家の中に入っていった。


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