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君のツバサ  作者: 水無月
第一章
4/83

第1章-3

「空くんはね、とある悪い組織に売られてたんだ」

 父様は静かに口を開いた。

 しかし、私は聞き慣れない言葉に耳を疑った。

 組織に…売られた?

「子供をね、暗殺者に育てる最低な組織だった」

 あ…暗殺者??

「子供なら油断する。そんな理由で、何も分からない子供を使い、酷い事をさせていた。堪えられない多くの子が亡くなっていき、生きるために順応するしかなかった子供達が奴らの手先となって働いていた。ようやくその組織を壊滅させた時、そこに空くんがいて…保護したんだ。それが、三年前のことだよ」

 あまりに現実感のない話に、冗談を言っているのかと思った。

 でも、父様はまじめな表情のままだ。

「ちょ、ちょっと待ってください」

 さすがに、この話は黙って聞いていられない。

「今のご時世に、そんな事…」

「悪い世界はいつの時代にも存在するんだよ」

 悲しげな父様の瞳。

「それを知らずに一生を終える人もいる。でも、そんな世界しか知らずに生きている人もいる…。それが事実だ」

 私は混乱しかけた頭を落ち着かせるために瞳を閉じ、大きく深呼吸した。

 少しだけ心が落ち着く。

「まず最初に確認したいんですけど…もちろん冗談じゃないですよね?」

「もちろん。冗談ならもっと気のきいたことを言うよ」

 落ち着いて答える父様。

 いつものおかしなテンションじゃない時点で、まじめな話だとは分かっていた。

 でも、確認しなければ簡単に真実だと認められない内容だ。

「じゃあ、空くんは四歳のときからその組織にいて…人の命を奪うための教育をうけていたということですか?」

「あぁ、残念ながらね。…信じられないかい?」

「私にとってはリアリティーのない話ですから」

 こんな話をすぐに信じられる人の方が稀ではないだろうか?

「…だよねぇ。でも、さっき羽美ちゃんは実感してたよね?」

「え?」

 一瞬何のことか分からなかった。

 が、すぐに思い出す。

 絡み付くような、嫌な気配……。

「義父さんが『羽美なら分かる!』っておっしゃるから、空くんに殺気を出してもらったんだ。羽美ちゃんが見事に反応してびっくりしたよ。さすが武道家だね!」

「……」

 おじい様の満足そうな笑みに合点がいった。

 愛弟子が、気配を敏感に察知したことが嬉しかったのだろう。

 こっちは、本当に気分が悪くなったというのに……。

「少しは、現実味が持てた?」

「…そうですね」

 気配だけで身がすくんだのは始めてだ。

 あんな嫌なオーラ、そう簡単に出せるものじゃない。

 そう…本当に人の命を奪ったことでもなければ……。

「空くんは、組織の仕事をしたこともあるはずだよ」

 私の考えを読んだかのように、父様は言った。

 組織の仕事…。人を傷つけること……。

「恐いかい?」

「…いえ、恐いとは思いません」

 たとえ恐ろしい気配を出せるとしても、彼自身の人となりをまだ知らない。

 変だとは思うけど、恐い感じはしなかった。

 話だけで、彼のイメージを作り上げてしまうのは失礼だ。

「でも…許されるのですか?」

 話が事実だとしたら、それが何よりも気になった。

 どんな事情があったとしても、罪は罪だろう。

 日本で、普通の高校生として生活することは許されることなのだろうか?

「…羽美ちゃんは、許せない?」

「いえ…私は……」

 今話を聞いただけで、本当の事情は分かっていない私には判断できない。

 だから、父様に聞いたのだ。

「法的には問題ないよ。子供達は加害者でもあるけど、被害者でもある。だから、罪を償うために少年院のような所で過ごしたり、心の傷を癒すためにカウンセリングを受けたりもしたよ。一般の生活になじめるように、教育も受けた。三年間そうやって過ごして、ようやく許可が下りたんだ。それで、僕が引き取ってこの家に連れてきたんだよ」

「……そうですか」

 他になんと言っていいのか分からなかった。

 法的には問題ない。それならいいのかもしれない。

 でも…法律だけが全てじゃない。

「…受け入れられないかい?」

 不安げに訊ねる父様。

「素直に受け入れられるとは言えませんけど…」

 色々な事情がありすぎて、冷静な判断が下せない。


 人を傷つけることは許せない。

 でも、自分の意思で行ったことじゃない。

 加害者であり、被害者でもある。



 ……………。



「はぁ…」

 私はがっくりと肩を落とし、深く息をついた。

 考えた所で簡単に答えなどでる問題じゃない。

 自分の目で見て、心で感じてみないと真実など分からない。

 私は顔を上げて、父様をまっすぐに見つめた。

「わかりました。とりあえず一緒に暮らしてみます」

 不安は山のようにある。

 でも、迷ったらとりあえずやってみるのが私の主義だ。

 それから判断しても、きっと遅くないはず。

「羽美ちゃんならそう言ってくれると思ったよ!」

 父様の顔がぱぁっと明るくなった。


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