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君のツバサ  作者: 水無月
第七章
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第7章-2

 乱暴に開かれたドアの音に、昼休みでくつろいでいた教室中の視線が一斉にドアの方を向いた。

 そこに立っていたのは、この学校の制服に身を包んだ目つきの悪い三人の青年。

 しかし、見覚えは無い。

 それぞれ手にあるものを持っていたが、それが何か一瞬では理解できていなかった。

 全員の注目を浴び、満足したような笑みを浮かべた青年達の一人が、すっと腕を上げ、手にしていたものを天井に向けた。

 パァンッ!と、乾いた、しかし重い音が辺りに響く。

 そこでようやく何事か理解した生徒達の悲鳴が教室に鳴り響いた。

 彼らが手にしていたのは拳銃。

 いきなり訪れた非現実的な恐怖に、教室中はパニックになる。

「落ち着いてっ!」

 反射的にそう叫ぶが、混乱に陥ったみんなの耳には届かない。

 少し離れた場所にいた空と大地を見れば、近くにいた怖がる女子に抱きつかれていた。

 こちらに来ようとしているのが分かったが、その子たちを守るように目でうったえる。

 二人にそれが伝わったのか、彼らは近くにいた生徒を守るように立ちはだかった。

 三人の来訪者はそんな生徒達を楽しそうに見回し、手に持った銃を弄んでいた。

「俺ら、学校とか大っ嫌いなんだよね」

 口を歪めるように笑うと、近くにいる生徒に銃を向けては恐怖に引きつる顔をみて声を立てて笑う。

 怒りで、胸がざわつく。

 だが、ナイフ程度ならなんとかできるが、銃となると話は違う。

 無茶をして、周りに被害を与えるわけにもいかない。

 彼らの狙いも分からないし、どう対処すべきか思いつかなかった。

 ただ、ぎゅっと唇をかんで彼らを見ながら、恐怖で動きが取れなくなった紗雪たち三人を庇うように立つしかできなかった。


 この事態をなんとかできそうなのは空だが、彼らが人を傷付ける事が目的でなければ、解決は警察に任せたかった。

 さすがに、銃を持った三人を簡単に取り押さえては、いくらなんでも運動神経がいいだけではすまされない。

 マスコミだって来るだろうし、空の過去を隠すためには目立ちすぎるのはよくない。


 そんな事を考えながら侵入者の動向をしばらく見つめていると、その中の一人と目があった。

 ニヤッとその相手が笑う。

 彼は銃を私に向けたまま、こちらに近づいてきた。

「羽美っ!」

 大地が叫んで走りよろうとしたが、残りの侵入者に銃を向けられて足を止める。

 空は、静かな眼差しで彼らの動向を探っていた。

「清花、美月、紗雪。下がって」

 どうやら狙いは私らしい。

 巻き込まないように、傍にいた彼女達を遠ざける。

 濁った瞳をした青年は私の目の前まで来ると、銃を私の額に突きつけた。

「気の強い女だな」

 怯まない私を睨みつける青年。

 私はその瞳から考えを読み取ろうとするが、さっぱり分からなかった。

 ただ、妙な違和感だけ感じる。

「オイ、警察来ちゃったぜ」

 けたたましいサイレンと共に、沢山のパトカーが校内に入ってきていた。

 教室は三階。侵入者の一人はそれを窓から楽しそうに見下ろしている。

「金もってこさせよーぜ」

「それ、いいな。いくらにする?」

 まるでゲームをしているかのような、楽しげな口調。

 その会話からすると、最初からお金が目的ではないらしい。

 銃で人を傷付けたいのならば、既に何人か撃っているはずだ。

 どちらでもないならば、学校が嫌いと言っていたから、学校に対する復讐…?

「人質がいるんだ。いくらでも用意するんじゃねー?」

 銃を向けながらも、はしゃいだような声を出す彼らは隙だらけだった。

 それを、空が見逃すはずも無い。

 銃を突きつけられて動く事ができない私には制止する間もなく、私の視界の端から空が消えた。

 次の瞬間には、短い悲鳴ともならないうめき声が二つ。

 そして、どさっと人が倒れこむ音。

「なっ!?」

 私に銃を突きつけていた青年は、驚きの声と共に私をぐいっと引き寄せた。

 自分の腕の中に私を置き、側頭部に銃を突きつける。

「う、動くんじゃねぇっ!!」

 少し離れた距離に立っていた二人を一瞬で倒した空に恐れをなしてか、叫ぶ声に動揺が混じる。

 空は倒した一人から奪った銃を手に持ち、静かにこちらを見ていた。

「この女、本当に撃つぞっ!」

 さっきまでの余裕の表情とは違う、うろたえる侵入者。

 背中から伝わる彼の鼓動は、異常に早まっていた。

「聞いてねぇぞ、こんな事…」

 動揺して独り言のように呟く青年。

 誰に?何を?と、問いたくなる。

 おそらく、この青年がリーダー格。

 制服を用意し、学校に侵入するところは計画性が感じられる。

 銃を三丁も用意するのも簡単なことではない。

 しかし、どうみてもそんな事ができるような男には見えなかった。

 そして、今の呟き…。

 暴れたがっている青年たちを、誰かが利用した?

 でも…何のために?

「…離せ」

 空が静かに、しかし凍てつくような冷たい声でそう言った。

 瞳からも、いつもの優しさが消えている。

「こ、こっちには人質がいるんだぞ。お前の方こそ、銃を捨てろっ!」

 そう言って引き金に指をかける青年。

 さすがに、私もびくっと身をすくめた。

 それを見て、空は銃を持った手をすっと上げる。

「なっ…ふざけるなっ。撃てないとでも思ってんのかよ!!俺は一度人を殺してみたいと思ってたんだぜっ」

「………」

 何も言わず、底冷えするような眼差しで見つめられ、青年は震える。

 纏わりつくような、重苦しく圧迫されるような雰囲気。

 以前感じた、空の殺気だった。

「空、だめっ」

「…離せと言っている」

 私の言葉には何の反応もせずに、最終警告のように告げる空。

 空の後ろの開いた窓から警察の声が聞こえてくるが、銃を持った青年の耳には何も届いていないようだ。

 私に突きつけられた銃がかたかたと震えている。

 パニックでざわめいていた教室内も、シーンと静まり返っていた。

「う…うるせぇぇ!!」

 緊張で精神の限界に達したのか、突然叫ぶ青年。

 引き金を引く指に力が入るのが分かる。

「うみぃぃぃ!!」

 悲鳴のような大地の叫び。

 それと同時に鳴り響く銃声。

 生暖かいものが、肩の辺りに降り注ぐ。

 制服が赤く染まっていくのが分かった。

 ゆっくりと倒れこむ青年。

 血に染まる彼を見て、教室中に再び悲鳴が響き渡った。


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