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君のツバサ  作者: 水無月
第五章
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第5章-1

 人付き合いの答えなんて、そう簡単に見つかるものじゃない。

 しみじみとそう思った。

 紗雪は相変わらず目を合わせてくれないし、美月や清花は挨拶すらしてくれなくなっていた。

 かといって、学校だけでも大地と話さないようにするのは、大地が納得いかないだろう。

 大地が悪い事をしたわけではない。

 他の人とも触れ合えるようになったいい傾向の結果なわけだし、ここで私がそんな事をしたら再び他の人と関わるのをやめようとするかもしれない。

 どうしたらいいのかはっきりしないまま、何も出来ないまま、数日が経っていた。



「そんなに気にすることないだろ。羽美、他にいくらでも女友達いるじゃん」

 昼休み、小さくため息をついた私を見て、大地はそう言った。

 空も何か言いたげな瞳をしているが、黙ってパックのイチゴ牛乳を飲んでいる。

「人数の問題じゃないでしょ。人はそれぞれ大切で、代わりなんていないよ」

「それはそうだけど…、勝手な八つ当たりで無視するような奴は、もはや友達とはいわないんじゃないか?」

「そんなことないよ…」

 ぶうっとふくれてコーヒー牛乳のストローをくわえる私の頭を、空が無表情で優しく撫で、それを見た大地がきっと空を睨む。

 と、明らかにふてくされた表情の大地をしばらく見ていた空は、私の頭の上にあった手をすっと移動させ、大地の頭をなでなでした。

「いや、違うから」

 教室にいる手前怒鳴りはしないが、明らかに怒りを増した大地を見て首をかしげる空に、私は思わず笑いながら突っ込んだ。

 同じ事をしたのに私とは対照的な反応を示したので、空は不思議らしい。

 もしかしたら、空は頭を撫でられるのが好きなのかな、と思う。

 自分が心が落ち着くからこそ、人にもそうするのかもしれない。

 もし、空が落ち込んでいたら頭を撫でてあげよう。

 そう思った時だった。

「うーーみーー!!」

 扉を勢いよく開け、大声で私の名を呼んで誰かが教室に入ってきた。

 振り向いて確認すると、中学からの友人が怒りの形相でこちらに歩み寄ってきていた。

「せ、せっちゃん、私何かした?」

 心当たりはないが、その迫力に思わず尋ねてしまう。

「何なのっ、あの女達っ!!」

 ばんっと机を叩いて怒る彼女に、空は少々驚いている。

「話が見えないんだけど、浜岡さん」

「麻生くんも羽美の親友なら怒ってよ!!」 

「だから、せっちゃん何事?」

 どうやら私に怒っているのではないらしいが、他クラスの彼女が何故私の事で怒っているのかさっぱりわからない。

「あのバカ女どもが、羽美のこと…もがっ」

 何かを言いかけた彼女の口を、いつのまにかそばに来ていた森田がふさいでいた。

「浜岡、人のクラスで騒ぎすぎ」

「友達にクラス関係あるかっ!」

 ふさいだ手をがばっと引き離し、森田を睨むせっちゃん。

 森田は小さくため息をついている。

「いいから、帰った帰った」

 クラス委員仲間の二人は仲がいいらしく、軽口を叩き合うのは珍しくない。

 しかし、この様子だと森田は事情を知って隠している感じがする。

「あんたは関係ないでしょ!」

「頭を冷やしてから出直してこいって」

「だって、あいつらってば!」

 意味がよくわからないまま、目の前で口論が繰り広げられている。

 私と大地が目を合わせて不思議そうにしていると、空が飲み終わったイチゴ牛乳をおいて私のほうを見た。

「…神崎羽美は、男好き」

「は?」

 空の呟きに、耳を疑う私と大地。

「そうっ!それよっ!!!」

 わが意を得たと言わんばかりに、せっちゃんは空をびしっと指差す。

 と、同時に森田は深々とため息をついた。

「朝宮…そういうの、本人に言っちゃダメだろ」

 そうなのか?というように首をかしげる空。

 耳ざとい空は、どこかでそんな話を耳にしたのだろう。

 大地は瞳の奥が冷たくなっている。

「浜岡さん、誰がそんな事言ってるの?」

 表面上穏やかに、大地が尋ねる。

「お前らが男好きだろって子達よ。なんだっけな、このクラスの…」

「あー、もういいから。黙ってろって」

 怒れるせっちゃんを止めようとする森田だが、たぶんもう一人のほうがおさまらない様子だった。

「橘美月と渡瀬清花?」

 冷笑を浮かべて名を述べる大地。

「そう!そいつら!!」

 力強く頷くせっちゃんに対し、森田は額を押さえてがっくりしている。

 きっと、私を気遣って耳に入らないようにしてくれていたのだろう。

「ありがと、森田」

「いや、俺は別に…」

「羽美っ!そこは爽やかに礼を言う場所ではなくて、言ってる奴らを怒る所だから!」

「そう?」

 首を傾げた私に、空以外の三人ががっくりと肩を落とす。

「男好きって意味、分ってる?男友達が多いとかいう好意的な意味じゃないわよ?」

「それくらいは分るから」

 真顔で聞かれて、思わず苦笑いする。

 悪口として言われているのはちゃんと分っていた。

「最近まで結構仲良かったじゃない?何があったか知らないけど、急にあんなこと言われはじめて腹立たないの?私は、おもいっきりむかついたんだけどっ!!」

「私のために怒ってくれてありがと、せっちゃん。でも、私は大丈夫だから」

「なんでっ!」

「なんでって…」

 言葉を考える私を、四人が注目する。

 無視をされるのも、悪口を言われるのも哀しいけれど、事情が事情だ。

 傷ついた紗雪を守るために、二人は二人なりに考えているのだろう。

「確かに男と一緒にいるほうが多いわけだし、それをどうとるかは人次第でしょ。せっちゃんみたいにちゃんと分ってくれる友達もいるし、誤解されて嫌なら自分で誤解をとく努力するから大丈夫。言われる自分にも原因があると思うし」

「そんな羽美が好きなんだけどさ…」

 せっちゃんは納得できない表情だ。

「だって、私だって受けられない人がいるし、自分だって受け入れてもらえない人がいるのはしょうがないじゃない?それでも、そういう人と歩み寄れたらなーと思う」

 紗雪に関する事が言えないから、これ以上の事は説明できなかった。

 しかし、とりあえずせっちゃんの怒りは霧散したようだ。

「羽美がいいならいいんだけどさ…」

 悔しそうな表情は浮かべているが、とりあえず納得してくれたらしい。

 最近あまり話してはいなかったのに、それでもここまで親身に思ってくれてる友達がいるのは幸せなことだった。

「ま、だいたいの奴がそんな噂を耳にしても信じないと思うけどな」

 森田が、不服そうなせっちゃんと大地にそう言って笑顔を向けた。

 そして、せっちゃんを連れて教室を出て行った。



「女の友情って儚いねー」

 にっこりと笑って言う大地。

「違うわよ。友情があるからこそ、そんな噂になったんでしょ」

「そんな友情はどうかと思うけど?」

 もとから美月と清花があまり好きではない大地は、さらに嫌いになったらしい。

 なんだか事態がややこしくなる中、空はのんきに私のコーヒー牛乳を飲んでいた。

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