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君のツバサ  作者: 水無月
第三章
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第3章-1

「だから、私のほうが先に目をつけたって言ってるじゃん!美月は今日、髪切った朝宮くんを見てからでしょっ!」

「たった一日の差じゃない。それに、恋は早い者勝ちじゃないわ」

「何が恋よ。一昨日までC組の川辺くんがいいって言ってたくせに!」

「あら、清花だってF組の天草くんが好きなんじゃなかったの?」


 今日は大地が空の相手を買って出てくれたので、女同士でのんびりお昼を食べる予定だったのに、いつのまにか目の前で言い争いが始まっていた。

 口論の原因は、空。

 髪を切った空を見て、女子からの注目がさらに集まり、今日はどこにいても空の話題を耳にする。

 美月と清花もすっかり空を気に入ったようだ。

『羽美はどっちの味方するのっ!?』

「えっ、いや…」

 突然二人に詰め寄られ、私はちょっとたじろいだ。

「二人とも、そんな事言っても羽美ちゃん困るよ」

 隣にいた紗雪が優しく庇ってくれたが、テンションの上がっている二人は聞く耳を持たない。

 今度は紗雪に火の粉が飛んだ。

「紗雪は黙ってて!朝宮くんと仲良くなるには羽美に協力してもらうのが一番なんだからっ!」

「そうよっ!先輩たちまで朝宮くん狙い始めてライバル多いのよ。あんないい男、他の人にわたしたらくやしいじゃないっ!」

「あのね…」

 私は苦笑いを浮かべ、二人を白熱させている原因をちらりと横目で見る。

 空と大地が教室の片隅で、綺麗どころの先輩達に囲まれていた。

 大地は笑顔でそつなく相手をしているが、肝心の空は興味のなさそうな表情でぼうっと立っており、時折大地につつかれて相槌を打つ程度だ。

 うちの道場の子供達と一緒にいるときのほうが、よっぽどいい顔をしていた。

 今のところ、空が異性に関心があるようには見えない。

「私は誰の味方するつもりないよ」

「えー、羽美のけちっ」

 清花が拗ねた顔で私を睨む。

「それに、二人とも可愛いくて魅力的だから、私の出る幕でもないでしょ」

「…まぁ、そうなんだけどね」

 美月は不服そうだが、褒められてまんざらでもない顔だ。

 実際、女の私から見ても二人は可愛いし、普通の男子だったら口説かれて悪い気はしないだろう。

 ただ、空に関してはその魅力が通じるのか疑問だ。

 下手に協力して、二人が傷つくのを見たくはない。

「でも、一緒に帰るついでにちょっと遊んでくとかは有りでしょ?」

 清花はまだ私の協力を諦められないらしい。

 空には友達を作ることも、一緒に遊ぶことも必要だとは思う。

 でも、もう少し世間に慣れてからじゃないと…。

「そうだねぇ」

 考えるそぶりの私を見て、清花はぷうっと頬を膨らませた。

「もー、羽美は恋したことないからこの気持ちがわからないのよっ!」

「いや、私だって恋の一つや二つしたことあるって…」

 断定的な清花の言葉に思わず言い返すと、3人の瞳がきらりと光る。


 あ、あれ?


「あら、いつも恋愛の話に乗ってこないから興味がないのかと思ってたけど、そんなことないのね」

 意味ありげな微笑を浮かべる美月。

「羽美のことだから、初恋もまだかと思ってた」

 清花は興味津々といった眼差しで見ている。

 しまった、余計なことを口走ったかもしれない…。

「…羽美ちゃんの好きな人って、麻生くんじゃないの?」

 紗雪が控えめな声で尋ねると、美月と清花はとたんにつまらなそうな顔になった。

「なんだ、それじゃ面白くもなんともない」

 否定する前に、勝手に納得する清花。

「いや、だから大地は親友なんだってば。愛情じゃなくて、友情」

「本当に?」

 いつもは恋愛話にあまり乗ってこない紗雪まで、疑わしげに私を見る。

「本当だって。だいたい、大地は私の好きな人知ってるよ」

 つい言ってしまった私の言葉に、一瞬の静寂が訪れる。

 そして、次の瞬間にはクラス中に『えぇぇぇ!?』と、驚きの声が響き渡った。

「そんなに意外?」

 あまりの驚愕ぶりにこっちが驚く。

 親友なんだから、好きな人の事を知っていても不思議はないだろう。

 それに、その人のことは大地も昔からよく知っている。

「え、だって、えっ?」

 紗雪は本気で動揺している。目をぱちぱちと瞬いて私を見つめた。

「ねぇ、大地くーん!」

 美月が、今の騒ぎでこちらを見ていた大地を呼ぶ。

 大地は先輩方に笑顔で何かを告げると、空と共にこちらに来た。

「どうしたの?何かあった?」

 穏やかに尋ねる大地。

「ねーねー、羽美の好きな人ってどんな人?」

 清花の突然の質問にも、大地は優雅に余裕の笑みを浮かべる。

「そんな話してたんだ。大和(やまと)さんは優しい素敵な人だよ」

「大和さんっていうんだ」

 美月が楽しそうに私を見た。

 お目当ての空が来ているというのに、美月も清花も私の好きな人のほうが気になるらしい。

「大和さんってことは、年上?」

「うん。今年で…二十五歳かな」

「へぇ、羽美もなかなかやるじゃない」

 からかうような視線を受け、私は思わず赤面する。

 大地も、べらべらと余計なことを…。

「羽美が乙女の顔してるのはじめて見た!」

 清花が赤くなった私を楽しそうに見つめる。

 あぁ、もう。言わなきゃよかった…。

「羽美ちゃん、その人のこと本当に好きなんだね」

 紗雪までしみじみとそう呟いた。

 ちらりと空を見上げれば、不思議なものを見るような目つきで私を見ている。

 赤くなっている私が理解できないのかもしれない。

「で、どうなの?その人と羽美はうまくいきそうなの??」

 わくわくと瞳をきらめかせている清花の質問を受けて、大地はちらっと私を見た。

 言いたいことはすぐにわかった。

 それを話すなら、私の口からということだろう。

 ここまで話したら、隠す必要もない。

「無理よ。大和さん、婚約者いるもん」

 昔は胸が締め付けられた事実も、今は簡単に口にできた。

 笑顔だって浮かべられる。


 と、誰かが私の頭をそっと撫でた。

 驚いて見上げると、空だった。

「空…?」

 空は何も言わずに、手を離す。

 慰めてくれたのだろうか?

 大地も、空の意外な行動に驚いた表情を隠しきれないようだ。

「朝宮くん、優しいんだね」

 清花がうっとりと呟く。

「羽美も切ない恋してたのね」

 美月は慰めるような表情を浮かべながら、目はしっかりと空を見つめている。

 二人とも、空への興味を思い出したらしい。

 ただ紗雪だけは言葉もなく、哀しげな表情で私を見ていた。

「もう、全然平気なんだけどね」

 焦って添えた言葉も、あまり効果がない。

 ほんとにもう平気なんだけどなぁ…。

「次の授業、音楽室だったよね。そろそろ移動しない?」

 しんみりとした空気に困った私に、大地が助舟を出してくれた。

 と、同時に予鈴がなる。


 三人の気が逸れて、私はほっとため息をついた。


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