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密着五日目

 前回の取材から十日。その間も、鈴原(すずはら)さんと連絡が取れませんでした。改めて、鈴原さんの自宅に向かいます。


 朝八時、鈴原さんが住むマンションに到着したのとほぼ同じタイミングで、集合玄関から彼が姿を現しました。大きなキャリーケースを転がし、どこかへ向かおうとしている様子。しかし、その出立(いでた)ちはいつもと違います。だらしなく着ていた学ランではなく、整った喪服(もふく)。アシンメトリーだった髪型は、丸坊主になっています。


 鈴原さんに何があったのでしょうか。


鈴原「情けない話なんですけど……やっぱり、呪いに耐えられなくなってしまいました……。本当に限界で……。このまま死ぬんだろうなって思ったら怖くなって。薬でも抑えられなくなったので、聖浄院天蓮せいじょういんてんれん先生に、呪いを根本から止める方法はないかと相談しました」


 そう語る鈴原さんは、「意気消沈(いきしょうちん)」という言葉が擬人化したかのよう。ヤンキーらしさは完全に消えています。


鈴原「先生が言うには、心の底から反省して(ほこら)を修復すれば、それが(みそぎ)となって神様が許してくれて、呪いも止まるかもしれないだろうと」


 鈴原さんは壊した祠を自分の手で直すために、再び「ペロンチュラの森」へ向かおうとしていたのでした。キャリーケースの中には、修復に使う工具や木材などが入っているそう。


鈴原「どうなるかわからないですけど、何もしないよりはマシだと思ったので、これから行ってきます。今も……ほらそこ、電柱の陰から、足が何本も生えた裸の女の人がこっちを見てます。たぶん、いつまでも終わらないんだと思います。俺が禊を済ませない限りは」


 ただ祠を修復するだけでなく、(まつ)られていたペロンチュラという神様に反省の意を示すためにも、「ヤンキーをやめる」と付け加えた鈴原さん。これからは元の自分に戻り、真面目に生きていくつもりだと語ります。


鈴原「左腕のタトゥーは除去手術で皮膚ごと切除しました。タバコも吸ってません。ヤンキーはもうやめます。……人には身の丈に合った生き方があるんだなって、痛いほどわかりました。それを無視すると、楽しいどころかより一層苦しい人生を送るってことも……。ここまで長い間、密着していただいたのに、中途半端な形でヤンキーをやめることになってすみません」


 鈴原さんの表情からは、深い後悔と反省の色が(うかが)えます。その言葉は、彼の本心から出たものであることは疑いようがありません。


 エリート銀行員の道を捨て、一度はヤンキーになることを選んだ鈴原さん。そのことがきっかけで怪我をしたり、幻覚に見舞われたりと大きな損をしたように思えます。その一方で彼は、とても大切な教訓を手に入れることができたようです。


 鈴原さんが憧れたヤンキーとの決別とも言うべき、祠の修復。その様子も密着させてもらおうと思いましたが、断られてしまいました。


鈴原「見せ物にしたくないんです。そうじゃないと、反省したことをペロンチュラ様に認めてもらえない気がするんで。だからすみません、今日だけは、密着は勘弁してください。……すみません」


 そう言い残し、鈴原さんは「ペロンチュラの森」へと向かいました。


 祠を直すことで、鈴原さんを苦しめている呪い(幻覚)は本当に消えるのでしょうか。鈴原さんが相談していたという、聖浄院天蓮さんにも取材をしました。聖浄院天蓮さんは東京都内にある●●●●神社の神主をしている六十代の男性です。神主をやる(かたわ)ら、除霊師としても活動しているのだそう。


聖浄院「聞いたことはあるんですよ、『ペロンチュラの森』にある祠に近寄って原因不明の体調不良になった人がいるという話は。でも、私はその人たちの除霊をしたことはありません。ただでさえよく知らないことなのに、鈴原さんは祠そのものを壊したと言うじゃないですか。そんな罰当たりなことをした人を除霊するなんて、正直どうやったらいいのかわかりませんでしたね」


 聖浄院さんには、『ペロンチュラの森』の祠にまつわる呪いを解消するノウハウはなかったようです。それでも、鈴原さんを救おうと手を尽くしてくれました。


聖浄院「私の立場的に、こういうことを言うべきではないと思うんですが、呪いだの霊障(れいしょう)だのっていうのは大体が本人の思い込みなんですよ。鈴原さんの場合は、いわくのある祠を壊してしまったことに対する恐怖心や罪悪感から、自分が呪われたと思い込んでいる可能性が高かった。こういう人には、呪いを消すための儀式を行ったと思わせることが効果的なんです。なので、祈祷(きとう)をして薬を渡しました。それでも『呪いが収まらない』と先日連絡をもらいましたから、祠を直しに行くよう伝えました。鈴原さんが恐怖心と罪悪感を覚える原因となった祠、それを壊したことの(つぐな)いを済ませたと思ってもらうことで、解消できるのではないかなと」


 聖浄院さんも、鈴原さんが言う呪いの正体は、「祠を壊したことによる恐怖心と罪悪感」だと分析していました。鈴原さんのために行った祈祷も、渡した薬も、あくまで「呪いを解くために必要なことをしたと鈴原さんに思い込ませ、自分自身を追い詰めている状態を解消させること」が目的だったようです。


聖浄院「祈祷はわかりやすいパフォーマンスですね。薬はただのビタミン剤です。プラシーボ効果を狙いました。ここまでやった上で祠を直せば、鈴原さんは自分を許すことができて、負の感情から解放されると思います。それでもダメなら……本当に力のある除霊師さんを紹介しないとですかね。まあ私は呪いなんてものも、それを打ち消す力なんてものも、実在しているとは思ってませんが」


 聖浄院さんは、超自然的な力で悪霊を(はら)う除霊師というわけではなく、相談者の悩みに寄り添い、その悩みを取り去ることを生業(なりわい)としている心理カウンセラーのような方でした。


 祠を修復することで鈴原さんは、ヤンキーになるために悪行(あくぎょう)を働いた自分を許せるのでしょうか。帰宅を待ちます。

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