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密着三日目

 この日、鈴原(すずはら)さんから待ち合わせ場所として指定されたのは、東京駅の新幹線乗り場でした。


 乗車券売り場前に現れた鈴原さん。その(ひたい)は包帯で覆われ、鼻には大きなガーゼ、両脇に松葉杖を挟んで歩いてきます。一ヶ月前、ヤクザとケンカしたときに負った傷が治っていないのは、遠目に見ても明らかです。


鈴原「まだ完治してないから、ケンカはしばらくお休みです。けど一応動けるようにはなったんで、ヤンキーを続けないと。三日サボると、取り戻すのに一週間かかりますからね。これ以上、ブランクを作るわけにはいきません」


 ヤンキーになって楽しい人生を送るという信念が、ボロボロになった鈴原さんを突き動かします。満身創痍(まんしんそうい)の状態で、今日は何をするつもりなのでしょうか。


鈴原「心霊スポットに行きます。●●県にある●●●っていう場所で、森なんすよね。ネットだと通称『ペロンチュラの森』って呼ばれてて、ペロンチュラ様とかいう神を(まつ)ってる(ほこら)がそこにあるらしいんすよ。祈りを捧げずに近づくと、それだけで体調に異変が出るようなヤバい祠らしくて。危険度はSSSランクっていうクチコミも見ました。それを俺がぶっ壊します」


 なんと、神様を祀る祠を壊しに行くと豪語(ごうご)する鈴原さん。とても罰当たりな行為に思えます。


鈴原「ケンカは無理っすけど、動かない祠が相手なら、今の俺でも一方的に破壊できますからね」


 そんなことをして、大丈夫なのでしょうか。

 

鈴原「(祠を壊すことを)やっちゃダメだってのは百も承知っすよ。でも、心霊スポットで罰当たりなことするのがヤンキーでしょ? ネット怪談とかでも、心霊スポットで何か壊したり、そこにある大切な物を持って帰ったりするのって、ヤンキーの役割じゃないっすか。そういうタブーを恐れない精神こそ、真のヤンキーには必要なんすよ」


 鈴原さんは今日のために金属バッドまで購入したそう。祠を壊すという発言は、冗談ではないようです。「ケンカをする」と言ってヤクザに殴りかかる鈴原さんですから、「祠を壊す」と言うのであれば、本当に実行することでしょう。


 早速、新幹線で●●県へ。「祠破壊の旅」の幕開けです。乗車してすぐ鈴原さんは、東京駅で買い込んだ缶ビールを次々と飲み干します。その数、十二本。神様を祀る祠を壊すための旅路。さすがの鈴原さんといえど、ベロベロに酔っ払ってテンションを高めなければやっていられないのかもしれません。


 もちろん、新幹線の中でもヤンキーらしい行動は欠かしません。大声で卑猥(ひわい)な言葉を発したり、後ろの席に座っているお客さんに許可を取らずリクライニングシートを倒したりなど、やりたい放題です。


 ●●県に到着後、在来線とタクシーを乗り継いで、『ペロンチュラの森』へ向かいます。森に着いたとき、時刻はすでに夜十一時を回っていました。森の中は真っ暗。周辺に(あか)りはひとつもありません。


鈴原「俺、松葉杖がないと歩けないんで、これで足元を照らしてくれますか」


 そう言って、鈴原さんが懐中電灯を渡してきました。ただでさえ暗く足元の悪い森の中を、松葉杖を突いて歩くのは非常に危険です。それでも鈴原さんは諦めません。祠を目指して草木を押し()けながら暗闇の中を進みます。


 およそ一時間後、お目当ての物を発見しました。木々が開けた場所の中心、積み上げた岩の上に置かれた木製の小さな祠が見えます。まだ十メートルほど距離がありますが、鈴原さんは背負っていたバッドケースから、銀色の金属バッドを取り出しました。


鈴原「ここから先は俺一人で行きます。あの祠に近づくだけでも体調を崩しちゃうそうなんで、ここで待っててください。ひとしきりぶっ壊したら戻ってきます」


 言われたとおり、少し離れて鈴原さんを見守ります。祠に近寄った鈴原さんは、祈りを捧げることなくバッドを振り下ろしました。バッドの先端が祠の左側面に突き刺さり、木片が飛び散ります。鈴原さんの手が止まることはありません。高笑いしながら、十五回もバッドで祠を殴りつけました。祠は半壊。中に入っていた石像らしきものが露出しています。最後に鈴原さんは、その石像らしきものに(つば)を吐きかけると、こちらへ戻ってきました。


鈴原「ちゃんと見てました? 俺、完全にヤンキーでしたよね? 怪談に出てくるヤンキーみたいでしたよね? 祠、ぶっ壊しました! 危険度SSSランクの祠、ぶっ壊してやりました! 怪談に出てくる、心霊スポットでふざけるヤンキーみたいに! 面白かったですよね? 面白かったですよね、俺? 祠を壊してる俺、人生楽しんでそうに見えましたよね?」


 息を切らしながら、そう口にする鈴原さん。両目は血走り、眼球が飛び出しそうなほど(まぶた)を大きく開いています。かなり興奮しているようです。今の鈴原さんは、自身で言うように人生を楽しめているのでしょうか。第三者の視点では、いまいちわかりません。


鈴原「とりあえず、これで満足です。ヤンキーとしてのレベルが確実に上がりましたから。誰か来る前にトンズラしましょう。早く」


 こうして「ペロンチュラの森」を後にし、鈴原さんの「祠破壊の旅」は終わりました。

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