第四話:侵食
夜。
柊はソファで、開いていた本を閉じた。
『物語が、動く気がします』
見上げてきた白雨紡の目が。
『もう、5分経ちましたよ』
『…あと、10分』
『…なぜ増やすんですか?』
図々しく、とぼけながら交渉してきた態度が。
『人とごはん食べるの、何年ぶりだろう』
ふと気づいた、というような声が。
『そういえば、柊さんとは普通に話せてますね? なんででしょう?』
不思議そうに、首を傾げる姿が。
「…プライベートの時間まで、侵食しないでいただきたいですね……」
本をテーブルに放り出し、ソファに背を預ける。
「…手が掛かる作家だ」
柊は目を閉じ、片腕で顔を覆った。
翌日。
柊はデスクで、担当作家の原稿を確認する。
文章全体の流れ。
作者の意図。
想定読者の受け取り方。
読み返しながら、確認する。
編集コメントを入力し、原稿を閉じたとき。
メッセージの通知が浮かんだ。
白雨か、と確認し。
『3月の通信料金が確定しました』
柊は無言でスマホをデスクに置いた。
ぬるくなったコーヒーを口に運ぶ。
「…原稿が、心配なだけです」
呟いて、コーヒーを置いた。
翌日の夜。
ソファで柊は、メッセージを開いた。
新着はない。
白雨とのやり取りは、あの夜が最後だ。
『同調おわりました。情報がたりないので、夜の街を見にいってきます』
『取材同行します。迎えに行くので、待機してください』
『わかりました』
「大丈夫ですか」と打ち込んで、すぐに消した。
待つと決めた期限は、明日。
期限前に催促したことは、ない。
柊は天井を仰ぎ、目を閉じた。




