第二話:路地
白雨は、路地の途中で立ち止まっていた。
視線の先、路地の向こうの出口。
壁に寄りかかり、スマホを見るひとりの女性。
時々通りを一瞥し、またスマホを眺める女性を、白雨はただ見ている。
呼吸でわずかに上下する肩以外、微動だにせず。
そのうち、女性に一人の男が近づいた。
女性は男に向かって頷き、スマホを鞄に入れた。
歩き出した男の少し後を追って、女性は路地からいなくなった。
一見、ただの待ち合わせにも見えるが。
誰もいない路地を見つめたまま、白雨は動かない。
「……白雨さん」
柊の声に、白雨が振り返った。
どこか遠くを見ているような、表情で。
「...なかった、です」
「なかった、ですか?」
「会話と、気持ちと…ほかにも、何かが」
白雨が、もう一度路地を見た。
しばらくの後、柊と白雨は路地から通りへと戻った。
通りを、白雨は黙って歩く。
行き交う人や、街をぼんやりと眺めながら。
周囲より遅い歩みに、柊は合わせる。
目を離さないように注意しながら。
ふと、白雨が視線を巡らせた。
視線が止まった先を、柊も見る。
「たい焼きでも買いますか?」
「…うん」
目の届く範囲に白雨を待たせ、柊はたい焼きを二つ買った。
「どうぞ」
温かいたい焼きを握らせたところで、白雨が柊を見上げた。
「食べなさい。冷める前に」
「…ありがとうございます」
たい焼きを食べ始めた白雨を横目で見ながら、小さくため息をつく。
なぜ、夕食も食べず、こんなところでたい焼きを手にしているのか。
柊も雑踏を見ながら、たい焼きを口に運んだ。
半分ほど食べたところで、白雨が動きを止めた。
口を開けて、まじまじと柊を見る。
「すみません! 考え事してて…!」
「……ようやく戻ってきましたか」
柊は肩の力を抜いた。
「得るものが、ありましたか?」
「はい、たぶん!」
「有意義な時間になったなら、良かったです。…そろそろ帰りますか?」
「はい!」
ふわ、とあくびを始めた白雨を、柊はマンションへと送り届けた。




