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セドリック様の質問に答えあぐねていると、
(馬と対話しているように感じた……聞いたことがない能力だ。魔術ではないだろうし……稀に存在するというギフトの持ち主なのか?……)
と、心の声が聞こえてきた。
とにかくお返事しなきゃ!と思い、
「えぇっと!私にもよくわからないんです。この間領地でケリー、あっ、愛馬と接した時に、何となく考えがわかるようになりましてっ!愛馬と会話のようなものが出来るようになったんですっ!」
とやや早口で告げると、いつの間にかセドリック様の側に他の3人もいて、口々に質問してくる。
「何かきっかけはないのか?聞いた事がない能力だが」
「聖女様の能力にそういうものはないの?」
「聖女の力は魔力の中でも特別な聖力だが、馬と対話できるというのは聞いた事がないな」
「ああ、おそらく聖力ではそういった事は出来ない。もしかしたら、ギフトかもしれないな」
(ああ……ど、どうしようっ? こんな大事になるなんて〜っ! ギフトなんて事になったら、偉人扱いになっちゃう〜っ!な、なんとか切り抜けないとっ)
「お、おそらくっ!精霊の力なんだと思いますっ!精霊に会ってから、ケリーの考えが何となくわかるようになったのでっ!」
「えっ?!精霊に会ったのか?」
「どこで?いつ?!」
「お、お休みの間に領地の森へケリーと散策していたら、森の精霊さんがケリーを気に入ったようで、姿をお見せになりまして…… そ、その時からなので!きっと、精霊さんのお力なんだと思いますっ!」
頸のあたりでメランがモゾモゾし出していて、くすぐったかったが、気にせず言い切った。
「それはすごいな!森の精霊は人間に頑なに姿を見せないから、その容姿は誰も知らないはずだ!遭遇したのはアイリーン嬢が初めてなんじゃないか?」
(え?? そうなの?! この国の文献にないだけじゃなかったの?? 他の国でも誰も見てないの?!)
「え、じゃあ、アイリーン嬢は精霊の愛し子になるの?」
「森の精霊に会ったのは、その時だけ?その時に力を授けられたのか?」
「精霊の力に、そんなものがあるのも初めて聞いたが…… 精霊の愛し子自体が稀な存在だから、そういった事もあるのかもな」
(ど、どどどどどうしようっっ! ど、どんどんまずい方向に行ってる気がするっ!)
メランがずっとモゾモゾしていて、考えに集中も出来ない。愛し子ではないのに、それを否定する言葉が出てこないっ!
「え、えぇ〜っと、愛し子では決して!ないと思いますっ!精霊さんが気に入ったのは、私の愛馬でっ!私ではないのでっ!」
「だけど、力を授けられたんだよね?」
「ギフトではなく、精霊の力なら、愛し子にあたるんじゃないのか?」
「愛し子となれば、聖女とともに教会で保護される存在になるんじゃないか?」
「いえいえいえっ! 私は、決して、そのような大それたお方に並べる力は持ち合わせてませんっ!ただ、感じるというだけで、確実ではないのでっ!」
「まあ、そうだが…… 教会で力を検証してもらった方がいいんじゃないか?」
「そうだな…… この力が本物となれば、最悪アイリーン嬢の身に危険が迫る可能性もあるしな。教会で判定してもらうべきだろう」
「うん。力は本物っぽいし、教会で保護された方がいいと思う」
「そ、そんなっ!? わ、私は至って普通ですっ!保護されるような重要な人物では決してないですっ!」
必死に言い募っていると、ポロンと私の頭から黒い塊が床に落ちた。
もちろんメランだ。全員が注目していると、メランはスーパーボールサイズから通常サイズに膨らんだ。
え?なんで?? どうして出てきたっ?
(お前が焦ってるから、助けてやる事にした。力を俺のせいにした時は、は?って思ったが、もう森には戻らないし。お前の番がどうなるかも気になるから。俺の愛し子って事にしてやるよ。俺の正体バラしていいから、俺を使ってこの場を切り抜けろ)
じっとメランを見つめていると、そう告げてきた。
い、いいのかな…… まあ、でもメランの姿バレちゃったし、ここはメランの言う通り、何とか切り抜けよう…… と決意する。
まだ4人がメランを見て固まっている間に、考えをまとめた。
よしっ!っと、意を決してメランを拾い両掌に乗せた。
「こ、こちらが、森の精霊です…… ケリーを気に入って出てきてくれたのですが、森の外の世界を視察したいと、しばらく私と行動を共にしていたのです……な、なので、きっと精霊さんが近くにいてくれていたおかげで、馬達の考えを知る事が出来ていたんだと思います……」
「え?あ?こ、これ、いや、こ、この方が森の精霊なのか?」
「そ、想像と随分違ったが…… 精霊と共にいたのなら、その不思議な力も納得は出来るな……」
「あ、ああ。そうだな…… 森の精霊は過去誰も接した事がないから、俺達が知らない力があるのは当然だ…… だが、常にアイリーン嬢とともにいたってことは、アイリーン嬢は愛し子で間違いないんじゃないか?」
「だよねぇ…… アイリーン嬢は精霊とも対話が出来るの?」
「は、はい。近くにいれば精霊さんの考えも何となくわかります。精霊さんは、今後も私と行動を共にしたいとお考えのようです。ですが、森の精霊は基本人から隠れて暮らし、その姿は見せないのが当然のようで…… なので、自分の存在を秘匿して欲しいとおっしゃっています…… 幸い、私の髪は黒髪なので、小さくなった精霊を隠すことが出来ますし。どうか、皆様、メランの事はここだけの事にしていただけないでしょうか?!」
「ん?メラン?」
「精霊の名前?」
「は、はい。森の精霊の名前はメランですっ」
「すごいね。ちゃんと対話出来るんだ〜。やっぱり、アイリーン嬢は精霊の愛し子じゃない?」
「あ、いえ、その…… メランに気に入っていただけているのかもしれませんが、私のためにメランにその力を使ってもらおうとは思っておりませんし、メランも頼んでもきっとしないと思います。なので、私は精霊の愛し子ではないです。なので、教会に赴くつもりもありません」
「そうか…… まあ、アイリーン嬢がそれでいいというなら強制はしないが…… 俺は、メラン殿が秘匿して欲しいと言うなら、それに従おうと思うが、みんなはどうだ?」
「セドリックがそういうなら…… 俺も別に言いふらさないよ」
「メラン殿とアイリーン嬢のおかけでパートナーを選べたから、二人の意に反することはしたいと思わない。俺も言うつもりはないよ」
「うん。僕も。ここだけの秘密にするなら、秘密を守ると約束するよ」
「皆様っ!ありがとうございますっ!メランの存在が他の方に知られるまではどうか、ここだけのお話しにしておいてくださると大変嬉しいですっ。どうかよろしくお願いします!」
と、頭を下げた。メランは自ら肩に移動する。
「では、私はこれで失礼しますっ!皆様、今後の演習、お身体に気をつけて頑張ってくださいね」
と微笑むと、
「ありがとう、アイリーン嬢。……メラン殿の存在を知るのは俺達だけだから、今後何か困った事があればいつでも相談してくれ」
「ああ。時々厩舎に来てくれて構わないよ。馬達の思いも知りたいし」
「そうだなっ!厩務員と俺達だけじゃ、気づけない不調とかあるかもしれないしな」
「うん。馬が好きなんでしょ?いつでも会いにきて」
4人が笑顔で声をかけてくれる。
「よろしいんですか?とっても嬉しいですっ!では、お邪魔にならない程度で、時々伺わせていただきますねっ!では、失礼しますっ」
再度頭を下げて、出口に向かった。セドリック様が同行してくれる。
「制服は汚れていないようだが、図書館はいいのか?」
「はい。急ぎの用ではないので、今日はこのまま帰ります。セドリック様、秘密にしてくださって本当にありがとうございます」
出口でセドリック様に向き直る。メランはいつの間にか小さくなって髪の毛の中に納まったようだ。
「いや…… アイリーン嬢は目立つ事が嫌いなようだし。メラン殿の意思は尊重したいから。だが、本当に、何か相談があればいつでも声をかけてくれ。俺達は放課後大抵はここにいるから。遠慮せずな。
じゃ、気をつけて」
微笑みながら言ってくれる。ものすごくキュンとしたが、じっと見つめないよう、慌てて再度頭を下げた。
「はい!では、また!ごきげんようっ」
少し歩いて振り返り、軽く頭を下げてから早足で校舎へ向かった。
そのまま、待機していた馬車に乗り込む。
馬車に乗るとメランが飛び出てきた。御者に聞こえないよう小声で話す。
「メラン。ごめんね。助かったー!ありがとうっ!」
(お前は嘘が下手だからな。俺が姿を見せないとどんどん墓穴を掘りそうだったし、あいつらは秘密を守りそうだったからな。別に気にするな)
「本当にありがとうっ。でも、森の精霊は今まで姿を見せてこなかったみたいなのに、大丈夫なの?他の精霊達に怒られない?」
(森の精霊は臆病なんだよ。この姿だし、畏れられたり敬われたりしないだろ?だから、人間に捕獲されてしまうんじゃないかって怖がって、誰も姿をみせたり愛し子を作ったりしないだけで、別に姿を見せたら罰が下るとかそういった事はない。現に、ウンディーネやサラマンダーやシルフは姿をみせてるし、実際は問題ない。だが、俺きっかけだと、森に戻った時に面倒だから秘密にしろと言っただけだ。まあ、もう森には戻らないつもりだから、バレても問題ないんだが)
「そうなの?それなら、良かったけど……
森には戻らないの?」
(ああ、お前といると面白いからな。これからも、お前とともに行動するつもりだ。髪型変えるなよ)
私の髪は黒髪で少し癖があるのでいつも巻いている。巻き髪の中に入ればメランは完全に隠れる。
「わかったわ…… でも、今日のおかげでセドリック様との距離がだいぶ縮まったわよねっ!嬉しいっ。これからも会いに行けるし、ほんと勇気出して厩舎に行ってよかったー」
(考えなしの行動のせいで、咄嗟に俺のせいにしたくせによく言うよ……
まあ、せいぜい番になれるよう頑張れ)
と言うと、メランは小さくなって髪の中に戻る。もうすぐ到着するから隠れたようだ。
「本当にありがとう、メラン。
セドリック様の番かぁ…… なれたらいいなぁ」
と呟いた。




