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(ワイバーンは、番で子供を育てる。母親が巣作りを担当し、その間は父親が母親の分の餌を取りに行く。
馬小屋を巣にしていたという事は、番がもう死んでいなかったという事だろうな。馬小屋を巣にして、自分の餌を近場の獣を襲って調達しようとしていたんだろう)
「そっか、なるほど…… お母さんワイバーンは、馬小屋はしばらく放置されると思ったのかな。使われない馬小屋なら、卵を保護できる、と思ったのかもね……」
(ワイバーンの知能は馬より高い。卵から孵った雛もすぐに言語を理解するようになるだろう。
お前がワイバーンの飼育にあたることなったとしても、おそらく危険はないはずだ。飼育員を親のように信頼すると考えられる。感情が爆発しない限り、炎を撒き散らす事はないと思うぞ。
ワイバーンの大きさは個体差が大きい。父親の遺伝を受け継ぐから、母親が小さくても子供はだいぶ大きくなる可能性が高い。
もしかしたら、お前が乗れる程度の大きさに成長するかもしれない。うまく信頼関係を築ければ、飛竜の乗り手になれるぞ)
「えぇっ!そうなのっ? いや、でもさすがにそれは怖い。私の運動能力じゃ、あっという間に振り落とされそう…… セドリック様なら乗れそうだけど……」
(それもアリじゃないか?護衛騎士として、ともに飼育にあたれば信頼関係も生まれるだろうし。乗り手になれる割合は高いぞ)
「そっかぁ…… なんか、全然描いてなかった未来になりそうだけど、セドリック様のお側で、セドリック様の勇姿をみれるなら、それはそれで幸せな未来かも……
ワイバーンはペットじゃないけど、愛情持って育ててみてもいいかな?もし、凶暴化した時はメランが守ってくれる?」
(ああ、いいぞ。保護魔法くらいならすぐにかけれるからな。心配するな)
「ありがとう!メラン!!大好き!!」
メランは目を大きく開いて瞬いたあと、シュルシュルと小さくなって後ろを向いた。
照れたのかな?可愛いな。と微笑ましく見守った。
そして、ひとまず、明日からの遠征が無事に終わりますように……と願って眠りについた。
翌日以降は想定外の事が起こる事なく、演習最終日を迎え、帰路についた。
騎士科の二年生は、遠征後は少し早めに長期休みに入る。馬達のお世話も長期休み中は厩務員が増員されるので、基本出向く必要はない。私も今後の一般科の講義は免除されたため学院に行かず長期休みとなった。
帰路に着く前に、今後についてなど、みんなと話したい、と公爵家での集まりをセドリック様が提案してくれて、2週間後の休日に他の騎士科の方と私は、公爵家に訪問させていただく事となった。
無事に帰宅した私を、喜んで出迎えてくれたお母様とお姉様に、遠征中に起こった出来事と今後の私の処遇がどうなるかについてすぐに説明した。とても驚かせてしまったけれど、教会で保護されるではなく騎士団所属となれば準貴族となり、護衛騎士とメランが常に側で守ってくれる、との立場に不安は消えないものの仕方がないわね……と二人とも納得してくれた。
ついでに、とセドリック様から公爵家に招待を受けている事とセドリック様に恋心を抱いている事も報告した。
「アイリーンも、恋をする年齢となったのね……」
とお母様はしみじみと言い、
「同じ騎士団所属で準貴族同士なら、ちょうどいい婚約相手じゃない!応援するわっ!」
と、お姉様はキラキラと楽しげに笑って言った。
「セドリック様のお気持ちがわからないから、婚約者になれるような仲になれるかは全くわからないの。でも、これからもお側で一緒に働けたらいいな、と思ってる。
今は、いつワイバーンのお世話を命じられるかわからないけれど、自分に出来る精一杯の事をして騎士団の一員として頑張りたいな、と思ってるから、ワイバーンについてまずは勉強するね」
「そうね…… お互い爵位を継ぐ訳ではないから婚約を急いで決める必要はないし、お互いが気持ちを確かめ合ってからお話を進める方がいいわね。ワイバーンがいつ孵化するかわからないけれど、なるべく知識をつけておくに越したことはないわ。応援するしか出来ないけれど…… あなたに危険が及ばず従順に育ってくれることを期待するわ。けれど、辛い、辞めたい、と思ったらいつでもこの家に戻ってきなさいね」
「そうよ。無理する事はないわ。私が爵位を継いだ後も、遠慮なく戻ってきて。あなた一人くらい不自由なく暮らさせることは出来るわっ。ずっと頼れる姉でいるつもりだから、いつでも頼ってね」
お母様とお姉様の優しさが嬉しくて、幸せだな、と思いながら微笑んだ。
2週間が経ち、予定通りヴァルハイト公爵家に訪問した。セドリック様自らが出迎えてくれて、サロンに案内される。すでに他の3人は着席していて、遅れた事を詫びたが、女性を待たせる方がマナー違反だから気にしないように、と全員から諭された。
公爵家のサロンは、流石の一言で大きな窓から大変素敵な庭を隈なく見ることが出来、しばらくは庭を見ながら和やかにお茶を楽しんだ。
「今日は集まってくれてありがとう。遠征中にアイリーン嬢の能力を騎士団が知った事で、アイリーン嬢と俺達の今後が示唆された。その事について話し合いたい」
「俺は騎士団に入ってからの所属については、特に希望はなかったから、アイリーン嬢の護衛騎士となってもいいと思っている。命令を受けたら従うまでだ。その時は全力で任務にあたるから、安心してくれ」
ジェフリー様が、こちらをみてハッキリ言う。
「俺も辞退する気はないよ。ワイバーンを育てるなんて楽しそうだし。卒業までに魔術も学んで、防壁を張れるくらいにはしようと思ってるよ」
モーリス様が笑顔を向けてきた。
「僕も、護衛騎士に選ばれるかはわからないけど、選ばれるように努力するし、選ばれたら全力でアイリーン嬢を守る騎士になると約束するよ」
キリアン様が真剣な顔でこちらをみて告げてきた。
「俺もキリアンと同じ気持ちだ。
……という事で、アイリーン嬢、卒業後、いやもしかしたら学院の途中で騎士団に呼ばれるかもしれないが、俺達は今よりもっと力をつけて、護衛騎士に任命されたら、その任に当たるつもりだ。
安心して騎士団所属となって欲しい。今日は、それを伝えたかったんだ」
セドリック様が穏やかな口調で話される。
「皆様、ありがとうございます。獣医師の助手になりたいと思ったのは、メランが側にいることで動物達の心の声が聞こえてきてからなんです。この力が、お役に立てばいいな、と思って。なので、母親を亡くしたワイバーンの親代わりとして、この能力が生かされるのならむしろ、本望なんです。ワイバーンの心の声が聞こえる私は、誰よりも愛情深く接する事が出来るはずなので。動物は元々大好きですし、ワイバーンも魔物といえど、動物ですからっ。きっと、大好きになるんじゃないかな、と思っています。
すごく楽観的に聞こえるかもしれませんが、私には皆様やメランが側にいてくれるのでっ!不安はないです!大切に愛情持って育てて、頼もしい騎士団の一員にしてみせますわ!」
「ははっ、すごいな。一年生の時のアイリーン嬢とは別人のようだな。大人しい令嬢のイメージだったんだが、とてもパワフルだな」
「一年生の時の控えめなアイリーン嬢も素敵だったけど、こうして明るく未来を語るアイリーン嬢も素敵だね」
「ああ、俺達もアイリーン嬢に負けないようにパワフルな騎士として活躍したいところだな」
「いや、一年生の時からアイリーン嬢は変わってないと思うぞ。確かに、控えめな印象だったが、俺は一度講義中に助けてもらった事がある。気分が悪くなった俺をさりげなく教室の外に出してくれたんだ。あの時は気づかなかったけど、二年生になってアイリーン嬢と関わるうちに気づいた。とても気遣いが出来る勇気ある女性だな、と感心してる。
出来れば、ともにワイバーンを立派な騎士団の魔獣となるよう育てていきたい。護衛騎士に選ばれた際はよろしく頼む」
4人が私をみて、頷いた。
「願ってもないことです!私の方こそ、たくさんご迷惑をおかけするかもしれませんが、今後ともどうぞよろしくお願いいたしますわ!そ、そして、提案なのですがっ、みなさま、どうぞアイリーンとお呼びくださいっ!騎士科ではありませんが、私も皆様のお仲間の一員になりたいですっ!」
「ふっ、そうだな。俺達は秘密も共有する仲間だ。これからも、よろしく。アイリーン」
セドリック様が優しく微笑んで言うと、メランがぴょんと髪から飛び出てきた。
「メランも、これから先もよろしく」
「アイリーン、メラン、これからもよろしく」
「アイリーン、俺達のことも敬称は不要だ。そのまま名前で呼んでくれ」
「あ、でも他の学生の手前では呼びづらいかもね。仲間内でいる時だけでいいから、そのまま名前で呼んでねっ」
「えぇっと…… さすがに様をとってそのままお名前をお呼びするのは、令嬢としては、む、難しいです……
騎士団所属になる頃には、様なしでお呼び出来るよう、心掛けますねっ」
「「「「了解」」」」
と、4人が笑って言った。
メランは緑がたくさんある庭が嬉しいのか、窓の近くでぴょんぴょんと飛び跳ねていた。
セドリック様がいつの間にかメイドを下がらせていたので、安心してその様子を見守った。




