第五話:友達?
そのドラゴニュートの少女の顔に、石が当たる。
「……痛い……」
その当たったところから、血は出ない。人間よりもはるかに丈夫な、ドラゴニュートの少女の身体。
だが、ドラゴニュートの少女に、確かなる痛みが生じていた。
心のあたりが、痛いのだ。
だからこそそのドラゴニュートの少女は、とぼとぼと人間の集落から去った。
それからドラゴニュートの少女は、様々な場所に行った。しかしそのどこもで迫害され、追い出された。
ドラゴニュート及びドラゴンというのはとても珍しい種で、仲間もいない。だからこそその少女は人間と友達になりたくて、人間の暮らす場所に向かう。しかしその歩みが功を制すことはなかった。
そんなこんなで苦しむドラゴニュートの少女は、とある男に声をかけられた。
明らかに悪人面である、太った男性。意地悪そうな顔の男だ。人間として社会経験があれば、深い関わりを持たないほうが良いであろうことがすぐ分かる男。その男の服は豪華である。威厳を振りかざす貴族のように、たくさんの勲章がついているその服。
「君、人間のお友達が欲しいんだってぇ? 君を追い出した街の人から聞いたよぉ。でも街の人達は君を迫害したんだってねぇ。ひどいねぇ」
そうほざく、その男。ドラゴニュートの少女は、その男性の怪しさに気づかず、コミュニケーションをとってしまった。
「……うん……、私は友達が欲しいだけなのに……」
その言葉を聞いた太った男性が、とてもいやらしい顔をした。
「わははははははは、なら僕が、友達になってあげよう。おいでぇ」
その太った男の周りには、兵士達もいる。その兵士達と共に、太った男の乗る馬車に乗ってしまった、ドラゴニュートの少女である。
そしてドラゴニュートの少女はもちろん友達などではなく、戦いの道具としていいように利用された。訳も分からず戦場に連れていかれ、その力でたくさんの人を傷つけさせられた。
ドラゴニュートの少女は、そんなことしたくなかった。しかしその太った男が、告げるのだ。
「僕達は、友達だろう? 友達なら、困っている僕を助けるのが、当たり前だよねぇ?」
ドラゴニュートの少女にも、それが友達の関係でないことくらい、分かっていた。しかし、その男の元を離れると、また一人になってしまう。その恐怖と自らの力で人を傷つけたくないという思いの板挟みで苦しむ、ドラゴニュートの少女であった。
とある戦場で、ドラゴニュートの少女が兵士の身体を氷漬けにした。
あと一押しで、太った男と敵対する王国所属のその兵士を殺せる、ドラゴニュートの少女。
だがドラゴニュートの少女は、殺さなかった。ドラゴニュートの少女はどうしても、人を殺すのは嫌だった。
身体のみが凍っているその兵士は、顔に着けている鎧が外れており、二十歳くらいの凛々しい青年の顔が現れていた。
「殺さないのかい? 俺を」
ドラゴニュートの少女は頷く。
「……うん、殺したくないから……。でも、私の友達の邪魔をしないように……、少しの間だけ凍ってて……」
「優しいねぇ」
その兵士は、そう告げる。
「なら、温情をもらったお礼に、いいことを教えてやるよ。お前が友達だって言ってる男は、決してお前のことを友達だなんて思ってない。戦いの道具としてしか、見ていない。だから、逃げろ。心優しい君には絶対いつか、真の友達ができる」
ドラゴニュートの少女は、葛藤する。
分かっている。分かっていた。自らが利用されているだけの存在であることくらい。
不意に、銃声が響いた。太った男が銃で、その男を撃ったのだ。そして息絶えた、その男。
「駄目じゃないかぁ。友達の僕に仇なす存在だよ? ちゃんと殺してくれなきゃ」
そう笑う、その太った男。ドラゴニュートの少女は、顔をしかめる。
「……私達は……友達……?」
「うんうん、もちろんだよぉ」
「…………嘘だよ!!!!」
ドラゴニュートの少女は、叫んだ。
「……私達が友達なら、他人を殺してなんてお願い、されるはずがないもの……」
ドラゴニュートの少女は全てを諦め、自らの翼で飛び立った。
(……やっぱり私には、友達なんてできないんだ……)
ドラゴニュートの少女はそう思いながら、再び一人になるために飛ぶ。
そしてしばらく飛んだ後、とある場所に降り立った。
月が綺麗に見える、荒野である。その荒野の岩に腰かけた、その少女。
「……人間なんて、嫌い……」
ドラゴニュートの少女は、そう告げた。その耳に、笑い声が届いた。
「くふふふふふふふふ」
そんな奇妙な笑い声と共に、ドラゴニュートの少女の前に、とある存在が現れた。