第一話:いかつい頭三人衆
そんなこんなで俺は、サイコロになった。二つの虹色のサイコロだ。
「ふふふふふふふふふ」
荒野にて俺は笑い、そして思う。
(なんもできねぇ)
まぁ、サイコロなのだ。振られることしかできない。これもそれも俺の中の悪魔が暴れたせいだ。俺の中の悪魔が悪い。俺は悪くない。
だが実は、ちょっとだけできることはある。
ニョン。
俺の身体が、姿を現した。真っ黒なスーツは、死ぬ前のままのものだ。サラリーマンの必需品のそれを、パシッと身にまとう俺である。
そして、真っ黒なツンツンの髪。180cmくらいの長身。目つきの悪い目。ギザギザの歯。
まぁ、人相が悪いと言われればそうである俺のその顔。
そんな俺の身体は実は霊体であり、実体を持たないのだ。
月の綺麗な夜。俺は付近の岩に腰かける。
ただただ虹色のサイコロになっただけだと思ったが、霊体としてならこの身体を世に現わすことができるらしい。
俺は、思う。
(それが、どうした?)
霊体の俺に、できることはない。霊体では、何かに触れることもできない。さらに霊体の姿で移動できるのは、本体らしいサイコロから半径10mくらいである。
だからこそ俺は、何もできない。誰かがサイコロを持って移動させてくれないと俺は、この場所から離れることすらできないのだ。くそったれめ。
俺は、ニョンッっとサイコロの中に入った。そして、ニョンッっとサイコロの外に出た。それを、ひたすらに繰り返す俺。ああ、退屈だなぁ。なんか、出たり入ったりして、ミミズになった気分。
俺は我ながら異様に感じるそんな行動を、しばらく続けた。
「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
退屈過ぎて、おかしくなりそうな俺。俺は、ひょうきんな30歳男性だ。そのひょうきんな俺が、退屈という強敵に対峙する今現在であった。
それからしばらくした頃のことだった。とある声が、聞こえた。
「え? サイコロ? それも虹色の?」
満天の星空の下、とある存在が現れて、そう告げたのだ。
おとなしそうな女性だ。
その女性は、ボロボロの布切れを体に巻き付けることで服としていた。その布切れには穴が開いており、いたるところから肌色の皮膚が見える。
襟元くらいまで伸びる黒色ショートカットかつ、同じく真っ黒で輝いている瞳。年齢は15歳くらいであろう。色白でなんとも幸薄そうなその女性は靴もはいておらず、裸足でペタペタとこの場所に現れたのだ。
そして、俺こと虹色のサイコロを見て、愕然とした表情を見せている。
(何を驚いてるんだ?)
俺は、不思議に感じる。霊体として、世界に姿を現した俺。
「頼む、そのサイコロを持って行ってくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ。ここは、退屈なんだよぉぉぉぉ。この荒野で一人は、嫌だぁぁぁぁぁぁ」
だが、霊体である俺の姿は幸薄そうな女性には見えていないようで、その女性は俺の言葉を無視する。
「おい、薄幸の美少女よぉぉぉぉ、そのサイコロを手に取ってくれぇぇぇぇ」
霊体の俺は、そう叫ぶ。
そしてその女性は、二つのサイコロを手に取ってくれた。
「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
それを手に取ってくれたという事実が嬉しくて俺は、歓声を上げた。
「え?」
その女性が、俺の方を見た。
「むむ?」
俺はいきなり目があったという事実に対して、驚く。
「あ、あのぉぉぉぉぉぉ、ゆ、幽霊さんですかぁぁぁぁぁぁぁ?」
その幸薄そうな女性は、驚いた顔をしている。
「わ、分かんないぃぃぃぃぃ」
俺は焦りながら、そう告げる。今の俺は、幽霊なのだろうか? それともサイコロの精的なやつなのだろうか? 俺って何なんだろう? 哲学? 人間は、考える足である。意味はよく分かんない。
俺は、困る。だが、困っているという俺の都合など関係ないかのように、そこにとある者達が現れる。
「へっへっへっへっへ」
奇妙な笑い声の、チンピラ。きっと漫画なら一瞬でやられる役回りの、上半身裸でだぼだぼのズボンをはいた、男性三人組。モヒカン、アフロ、スキンヘッドの、"いかつい頭三人衆"。
そのいかつい頭三人衆は、幸薄そうな女性を見る。
「とうとう見つけたぜ? シズクゥ」
シズクゥと呼ばれた、幸薄そうな女性。きっとシズクゥの"ゥ"の部分は訛りであり、本名はシズクなのだろう。
そのシズクは、いかつい頭三人衆を睨む。
「へっへっへ、悪いことはしねぇよ。おとなしく俺達とともにこい」
「嫌です!! 貴方達とは一緒に行きません」
俺は、言葉を発する。
「これはなかなかに、修羅場りそうな感じですなぁ」