バケる光秀
翌日の日曜日。
中2のムスメに嫌がられつつ、俺は自宅のPC前に陣取っておった。
「講師代よこせ〜っ!!」と騒がれる。
うっせ〜よっ!そもそもお前が「大村ユ〜コ」読者なんかやから、父親がこんなメに遭っとるんやぞ!!
「え〜と…”戦国”と名のつくゲーム関連か…」
↑オゼ情報や。(多分、大村はこりの影響大やろとの推理や)…ぶつぶつと検索開始。
考えず、”光秀”でやったら100万件超えた…ぎゃ〜ッ!!(アホや)…絞り込む。
「こっちのが早いヨ」とムスメ。カラフルな雑誌を押し付けてくる。
なに。アニメ雑誌?ゲーム雑誌…??
開いたページに「女」がいた…ちゃうか?ビジュアルバンド風あんちゃんの<絵>か。
なが〜い白髪、紫の口紅、トゲ生えたロングドレスの”女”ーて、なんやこら!?
(え、ちゃう?ノースリーブにハカマ!?んなハイファッション、おっちゃんに解るかぁ〜ッ!!)
PC画面にゃ、またロン毛(こっちは黒髪)の美青年…つーか<女御>に見える細身の武将が……白い翼ヒラヒラと……
こ、これは以前、民放CMで観た覚えが…!!
その画像横、信じらンねぇ文字を見た…ムスメの言葉とシンクロだ。
「ーこれが<明智光秀>じゃないの?」
バコン、と、思わずムスメを雑誌ではたいてしもうた。
「な、ナニすんのよっ!!ヒトがせっかく教えてやってんのに〜!!」
きぃ〜!!と、ムスメの足蹴り食らいつつ、俺は必死でPC操作を…(ぜえぜえ)
いや…俺は元々、ゲーム類は一切やらへんから、ここらは俺の知識不足なんやろう…しかし、えれ〜<改竄>や…!!
明智光秀、確か信長よか年上…50代だか60代だか…なして”ロン毛美女”になる!?
別のネタもピックアップする…直視に耐えらンねぇので。
・出生候補地にモテモテや。(岐阜県土岐市/同・可児市瀬田/同・恵那郡明智町/同・山県市=旧・美山町)
・秀吉系「惟任退治記」や、後年の「太閤記」シリーズ等、書籍やらで、<光秀><信長>とも、ずいぶんひで〜モンも含む事実無根ネタが世間に根付いちょる。(パワハラ説、朝倉さん家臣説・斉藤道三関係者説ほか)
・京都・丹波は福知山市、亀岡市(旧・亀山)に、有名な坂本市…。ヤツが統治した地域じゃ、いまだ”明智光秀公”と敬われたり、プラスイメージで扱われとる。
今も大々的に”祭り”の主役をはる光秀。観光のメダマや。
特に…ちんまりしとるが、福井県東大味の”明智神社”。痛ましくも暖かい<あけっつぁま>伝説の残る地域や。
・日光ー?ああ、栃木の日光ナ。”徳川家康公”の祀られとる東照宮…あ?ここで”明智光秀ツアー”があんのか?なんでじゃ!!
それで、あのオームラがみょ〜なコト書いたん?…天海和尚ねぇ〜。俺、”光秀天海伝説”はよ〜知らんワ。
・すっげ〜”愛妻家”で有名。伝説でしかね〜やろが、正室・煕子さん以外は「側室さんいなかった」説まである。
・娘のひとり・細川ガラシャ(=明智玉/玉子/球子)。
親のムホンが子に報い〜悲劇話が海外まで波及…大変である。
ま〜だ色々ありゃするが…
こン中に”光秀が美女にバケる?”素は、特に見つからへんかった。
ムリ言やぁ、娘ガラシャが”チョ〜美人”で有名やが…?
ガラシャ肖像画と、オヤジ光秀(唯一の)肖像画がけっこ〜似とるせいか…!?(妻・ヒロコさんも美人らしいが…??)
天正10年6月17日・坂本城集団自決の後を、宣教師ルイス・フロイスが記しとるが…
光秀のふたりの息子(正室の子/光慶・安古丸)の遺体を”ヨーロッパの王子のよう”と評しとるとか。仏教徒・光秀自身は酷評しとったフロイスが、だ。
状況証拠で浮かび上がるは”美男美女一族”疑惑か?
しかも<本能寺の変の加害者>と言われるものの、その実態自体も疑惑だらけの、ナゾの悲劇的一族だ。
で…オペラに歌舞伎に小説に…
400年以上前の<明智家の人々>、まるでギリシャ神話状態っつ〜か、”キャラ”扱いである。
ひと休みして検索再開。
ムスメもブッ飛んだ画像がヒットした…宝塚だ。”ささら笹舟”てな劇だ。
…”ヅカ”でもやっとったか……
月代もなく、オスカル・アンドレ張りのフルメイクも美々しい「光秀」だ。
明智光秀・50代戦国武将…一体、近年、ヤツの身にナニが起きておるんやっ!?
海外のHPをヒットさせたんはムスメや。「光秀専門HP」らしい。漢字なら”美形”と書いておるのは判別でける。
画像は、平安時代の”女御”にしかみえん美青年の図…が「光秀」か!?これぢゃ、木原敏江氏のマンガのキャラじゃ〜っ!!
も、「森蘭丸」と間違われてね〜か光秀!?
(明智氏=土岐一族=清和源氏系、てののせ〜か??)
頭ン中が、TV番組終了後の”ザーッ”てな砂嵐音につつまれとる。
「…オヤジ、大丈夫か…?」
ムスメ、困った顔で、俺のデコにコーラのペットボトルを押し付けてきた。
娘よ、有難う…俺は…もう駄目かもしれん…なんや足下がグラつくよ〜だ。
多分…日本の男の大半は、んなイメージ持たなかろう。
<光秀>は、ン百年も”謀反人”として扱われてきた。
例えば…可愛いクチでも、関東ローカルCM「東京◯ス/ガスパッチョ」(妻夫木クンのヤツやな)の、信長光秀のイメージだ
…?…いや違う…違うケースもあった…あれは!!…一瞬、脳内が発光した…!!
江戸川乱歩ー”明智小五郎”生みの親や…!
あの御耽美ミステリー大家が、”明智光秀の名”を、その随一のヒーローに授けたのや…これは何故や??
俺ら凡人男にゃわからん”何か”を、かの小説家は、”光秀”に嗅ぎつけた、とでも?
…一体、そりはナンなんや…?
翌日ー自分のデスクに、ヒョロ男・オゼがよって来たので捕まえた。
前日の検索結果の、要領得ん報告をした後ー質問してみた。
オゼ、相変わらずダルそ〜な様子だ。面倒そうに、チノパンに手ェ突っ込んだまま答えてきた。
「ま〜、今の”歴史ブ〜ム”の中心は〜、オヤジさんらと、若い”歴女”っスか?ライカユ〜ザ〜VSロモラ〜っすヨ。話合わね〜ってオオタさん!」
そーかね…(また例えがワカランが…)
”歴女”なお嬢さん方の、歴ドラ視聴率UP貢献は有難ェが…話つくりづれ〜!!
「だがな…ナゼに光秀はミョ〜な取扱いなんや?秀吉も家康も……信長はあんのか、一応」
美少年の小姓・森乱(蘭丸)のカンケイで。
あ、やべっ!”女信長”なる小説があった…ありゃ信長(性別/女)が色々と〜ぎゃ〜ッ!!
いや後日…”モノホンの信長が女装しとった”情報が出たが…ま、驚くんは後日である。
ヒトが、顔を白く青くしとんのを、オゼ、奇妙なポケモンでも見るメで呆れとる。寝癖だらけのボサ頭かいてやがる。
う〜ん、と伸びをすオゼ。ダボダボの服が、ビール腹の俺にゃ羨ましい。
「ヘンにカッコ良さげっスよね〜?”惟任日向守”とか〜」
ま、ヒデヨシよかは…
「あ、そ〜いや”美輪明宏”さんと名前似てね〜スか?オオタさん!それでナヨッとした(←無礼)美形イメ〜ジが…ほら”あけちみつひで”って…」
ー”あけみひ”しか合ってねぇゾ!!
ーしかも”美輪さん”!?
確かに、お若い頃の御写真、美女で通るほどの御姿やが…(江戸川大先生の件を思い出し、更にドツボにはまる)
明智光秀の<肖像画>を思い浮かべちまった…!あの娘似の…!(?)
歴史の相関図ンなかで必ず浮く<絵>を!!
400年以上経って、顔料ハゲたり変色したせいか、<赤いおべべのキラキラしたお兄様>しとるゾ!!
おメメまで、星がまたたいて見える始末やし、ヒゲも生やしてねェ!!(そーいや、西教寺の木座像にも無かったな??)
肖像画は、若くしか見えんが、ありゃ光秀のムスコ(前妻さんの子?ー推定享年13歳・光慶クンらの訳ねぇ)が描かせたって説もある。
若い時のワケねーよナ?金もねーやろし…
こ、これが「若女形化」の遠因か……!?
こ、怖い…俺は”光秀”っつー男が怖ェっ!!
「オオタさん…ど〜し…真っ青っスよ?」
オゼが、俺の異変に気づいたらしい…マジで寒気が襲ってきやがった。
「オゼよ、ぜ〜ったい阻止しような…<大村ユ〜コ>原作での、明智光秀の大河ドラマ化を…!」
いや何がこええって…
どう考えても、あの変女<大村ユ〜コ>、マトモな原作小説書くたぁ思えんかった。
後日知ったが、ヤツは、そのスジじゃ有名な同人誌作家(〜とは?)やそうな。特に「森蘭丸」ファンだという。
なのにナゼ、”蘭丸死亡原因”の<光秀チャン>を扱いたがる!?…まったく解らん…!!
[「ー私も、おじい様のように強くありたいのです!このようにひ弱な私でも、戦乱の世を勝ち抜き、この日ノ本を手中に納めたほどの漢に…!」
「御血は争えぬものですわね…家光様…」
春日局は、老いの見え始めた頬を袖で隠し、「齢17で…」と、涙を流した。
「…家光様は、その新しい御名のなかに、亡き家康様の思いを継いでおられます。御存命の頃は、この福にも、理想たる平和国家へのおこころざしをお聞かせ下さいました。そのお考えの師たる…いえ」
家光は、じっと、春日局の眼を見た。
「家康様は、下野の”日光”にて永遠に、日ノ本を守護される事を望まれたのです。その思いの強さ深さが…」]
「ホレっ」
俺は、来局した大村ユ〜コに、冊子をほん投げた。
赤字いれまくりの、先日の……ジゴクの会議での<配布物>だ。
「あ〜ッッ!!」
スッゲ〜顔芸で雄叫びあげた大村。「あたしの芸術がぁ〜ッ!!」て、どこがや〜っ!?
俺も負けじと叫んでもーた。
「これが、JHKとして”最低レベル”の文章や!あんなン通せっか!おぼえとけ〜!!」
”家紋”が有名なんは、<明智光秀>だけじゃねえ。
<初代将軍・家康><黄門様>の代名詞・徳川家の”三葉葵”とて…。んだが、大抵のヒトは、この家紋で”お花のアオイ”までは思い浮かべまい。
歌舞伎でも出まくる…可憐な五弁花。土岐明智氏の象徴(諸説あるとは聞くが)。
国内で<桔梗紋=お花のキキョウ=光秀=土岐氏>の図式が通るのだ。
ルックス以前に、全国区で通用する”花が象徴になる男”
……それだけでも、フツーじゃねぇぞ、<明智光秀>……。