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グラン・パ・ミステリー

 ”大村ユ〜コ”といふ、女子高生がおる。

最近人気の「ケータイ歴史小説家」とかー。

情報源は、中学2年の、うちのひとり娘だ。

「歴女」てな言葉も定着した昨今の日本。我がJHKの大河ドラマでも、主役をジャ◯ーズ他若手美形俳優を起用し、視聴率UPしちょるが…

ど〜も代わり映えしませんねぇ、と、うちの上司がこぼしとった。

 俺は、このギョーカイに30年近くおるが、”大河”でなく、単発の、局つき歴ドラプロデューサーだ。で、

「ちょっと面白い娘が話題でして〜!」と、局のおえらいさんに余計なネタ振りしてもーた。


 俺が”大村ユ〜コ”の小説を見たんは、ものの3分だ。

<真田幸村><長宗我部元親><チェーザレ・ボルジア><田中角栄>…

”女子高生・大村”のケータイサイトにゃ、人名のみ並んどった。

よく聞く歴女好みの”戦国武将”とかぎらんかったが…

 今、資料集めとる<長宗我部〜>を開いた。

(今度、上役にドラマ企画を出すんじゃ〜っ!!)

[ー俺の一郎まで連れていきやがって…そう死の床まで彼は悔しがった。彼にとって一郎は亡き息子か?否……]

…ん?こりゃ<角栄>さん…??(誰や一郎って!?)

…慌てて老眼鏡かけ、再度探した…う〜む女学生にしちゃシブい文やが妥当か?


 大して考えず、俺はニガテなケータイで一時間かけ、”大村ユ〜コ”にメールを打った。

まず一度…コンセプトワークとしての原案協力を…

JHKの<権威>そのもの。”大河”ドラマ作成への協力要請である。


 8月上旬ー東京都渋谷区の、広々とした敷地に建つ、我がJHKビルの上層階ー

そこの一室で、会議はひらかれた。

 若い女が………テーブル上座に陣取る……

周囲は5名程、JHKのディレクター他、歴ドラの中堅関係者……

先に2度程、”彼女”と対峙した俺は…血の気が引いとった………。

「すげ〜っスねぇ…オオタさん……』

背中丸め耳元で唸るは、後輩のオゼ。35歳、身長179cmのヒョロ男だ。

「ーだろ?」俺も未だに慣れん…。自称”女子高生だった<大村ユ〜コ>にだ…!!


 身長150cm位か。小柄で、小さい頭部は日本人形風真黒のオカッパ。

大きめの眼にキッチリメイクで、年の頃も判別でけん。深紅の口紅に…

悪くねぇルックスやが、そりは現在、”平成の御代”てな事を考えねばや…っ!!

 以前…原宿とかで見たぜ…大正期の女学生!?

蛍光ピンクの夏着物は、巨大白ユリ柄、エメラルドグリーンの帯にゃ蛍/夏草が散る。

帯締・帯揚げは白やが、半襟がコバルト色、足袋もコバルトの柄足袋や……

これに白木のゲタで、局内をカラコロ来たんか……。

 俺は、”会議ン時だけはフツーの服で来いっ!!”と怒ったが…逆効果やったか…

大村、マスカラつけ過ぎの眼で俺をニラんでくる…くそ〜っ!!


 怒りと貧血に震える手で、俺は”大村原案”小冊子を皆に配る…更にぐらつく。

「読んでくれ…」

俺は、隣のオゼに丸投げした。自分じゃ読みとうなかった…

オゼ、茶のポロシャツ姿でヒョロンと立ち、頭かき、力無く読みあげ始めたー


[…数えて17歳の、遅い元服をすませた竹千代ー祖父と同じ幼名だったー徳川家光は、筆を進めていた。

側に、彼の乳母・春日局が添う。

家光は、くねと首を傾け、信頼を寄せる春日に語り始めた。

「わたくしはー戦乱の代、誰よりも強くあられたおじい様ー家康様が、理想の御方です。家康公のようになりたい、と思う以上に…おじい様のような素晴らしい殿方と、共に世を歩んで参りたいのです…」

「…それは隔世遺伝でございましょう…家光様…」

 春日は、老いの見え始めた両眼もはらはら、「まだ齢17で…」と、たもとで顔を覆ってしまった。

「家光様はーその新しい”御名”になかに、亡き家康様の想いを継いでおられます。御存命の頃は、その御方を存じているこの福にも、思い出話をお聞かせ下さいました。多く女性を愛されましたが、その御心は…」

 春日は…言葉を切った。若い家光が、じっと春日を見る。

「家康様はー源氏の守護であった下野の”日光”にて、永遠に待たれる事を望まれたのです。その御方がため、恒久の平和を守る為、御自身が<神>となり、この国を護り続ける事を誓われました。その想いの強さ深さがどれ程のものか…家光様も大人になられましたら、お解りになりましょう…」]

               (by大村 家光&春日局 1620年/江戸城)


 窓の外は夏の陽光キラキラ…都心一望可能な絶景の会議室の空気が…どろ〜んとしとる…

「隔世遺伝…」

ディレクター某がつぶやいた後、とがめるような咳払いが続いた。

読んでたオゼも、死人みてーなツラだ。

たまらず俺は、大村ユ〜コに(敬語で)クレームつけた。

「大村さん…私は確か<大河ドラマ・徳川家光>の原案を、とお願いしましたよねっ!?」

大村、返事ナシ。

やむなくオゼが、冊子内容をダイジェストで説明し始めた…

「この後〜、”日ノ本”なる、異次元の宇宙(?)で話は進みます〜。天草四郎率いる、別空間の”天使軍団”との宇宙戦争も勃発します…え〜、で、将軍・家光は〜、パワード…ロボットか?を出撃させようとします。これが…」

オゼ、一度、深呼吸しとる。

「死者の魂を移植した…?なんつ〜の?え〜、<神君・家康>がリプロダクトしたロボットで…名を”惟任日向守Ⅱ”……」


 誰かがカップを倒し…コーヒーの暗雲がテーブルに広がってゆく…ガタン、と椅子が鳴った。

「ヘンですか〜っ?」

大村ユ〜コ、しれっと、どピンクの中振袖ゆらして前髪梳いてやがる。

 も…モノホンの”惟任”のムスメは、超有名クリスチャンや…!!

本人(?)が出撃するもんか〜イっ!!…いやその前に……

「ロボット…”武者鎧”ですネ。この”惟任日向守Ⅱ”は、総長15m、白と水色で彩色し、白ヌキで土岐桔梗紋がはいります。彼の肖像画みたいに、少し赤も使ってください。」

…全く、大村発言が頭に入らんっ!

「武器は、レーザーソードと火縄銃型ビームライフル(??)。あ、メカの右肩に漢字で”惟任〜”と入れるよう、メカデザインさんにお願いして下さい」

「…安原一式かよ…」とオゼ。(俺、イミわからん…)

 大村よ…メカデザインが、かつて”大河”に存在したか…?

そりは<実写版・鉄人28号>か?<米国版トランスフォーマー>?

それとも大村…おめーのオカッパ頭ン中じゃ、アニメーションにでもバケとんのか…??

 いや…そらまだええ。一番の問題は…こりゃ主役は”家光”ぢゃねぇ。おそらく…

「…あの…大村さん……この原案の主人公は……」

同業者のカワズミ氏が上品に…おびえつつ聞いた。会議出席者の視線が一斉に、大村ユ〜コを凝視した。

大村、キョトンとしとる。俺の推測じゃ20代の顔で全員みまわし、え、そりゃ…と続ける。

「ー明智光秀チャンですよぉ」

 やっぱし…会議室の全員、テーブルに突っ伏した。

ナゼに主役をカッテに変える。しかも「光秀」〜っ!?


 会議じゃこの話、まだ「冗談」やった。

JHKでも、ホンマに新機軸は欲しいのだ。(せっかく”歴史ブーム”なんやし…)

俺の誤算は、某元総理のアニメ好きが、思わぬ形でこの日ノ本に残っておる事に気づかんかった事や…


 俺は自宅で、本来の仕事”単発歴ドラ企画”を練っておった。

戦国時代の、四国統一の英雄<長宗我部元親>だ。

急に、昼間の、大村ユ〜コとの攻防戦を思い出し…ゲンナリした。

[家光でなく、光秀チャンでやらせろ〜!!]と怒鳴っておった…(ナゼに”チャン”付けや??)

書けないなら電話ででも断りゃええやろに!”家光じゃワタシ書けません〜!!”で済むぞフツー…


<明智光秀>かーはぁ…JHKじゃ、むつかし〜戦国武将や…。

 戦国時代の三大巨頭(=オヤジ〜サンのアイドル)といや…

<織田信長><豊臣秀吉><徳川家康>の3名だ。

<安土><桃山><江戸>それぞれの時代の象徴だ。その名をサカナに酒飲む御仁もおられよう。

なかでも、ダークヒーロー部分と悲劇性を併せ持つ<信長>は、現代ではダントツ人気の戦国武将だ。

その主君・信長を切腹させた家臣<光秀>は、長い歴史上、マイナスイメージの強い男やった。

しかも、天下を取った3日後(正確にゃ11〜13日)、次の天下人<秀吉>に滅ぼされた”敗者”でもある。

(ー)の実例=謀反人・逆賊・三日天下・クーデター主犯…なかなかすげ〜ゾ。

 ただ…<光秀>に同情的な見方も昔からあった。

真偽不明の”いぢめっこ信長”説だ。

そりを抜いても、「横暴な上司(=信長)」にプッツンし、「腹黒な同僚(=秀吉)」に蹴落とされた<光秀>は、世で戦う男、サラリーマンの心の友と言えなくもねぇ。

実際、近年、光秀を”有能だ”と評価するムキもあるらしい。

 だがJHKで<光秀>主役は……民放で”光秀主役ドラマ”があった際、局内でも話題になった程や。

第一、”本能寺の変”の動機が、400年以上たってもま〜だホットに揉めとんのに、公共放送が勝手は…ん??

 ナゼまた、あの変女<大村ユ〜コ>は、<光秀チャン>を主役にゴリ押ししてくんのやぁ?

……イヤ〜な予感がした…。



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