食堂
私はとある社長婦人。趣味はレストランやカフェめぐり、でも大体の店は私の満足いく物ではないからいつもウェイターや時にはシェフを呼びアドバイスをしてあげている。
此方としては店を良くしてあげる為わざわざ時間を割いて言ってあげているのに周りの…失礼だけと余り裕福とはいえない身形の方々はヒソヒソ話したりなんだか嫌な顔をする、でも店側の人間は「勉強になります」「至らなくて申し訳ありません」と言ってるのだから私は感謝されているにちがいない。
今日は久々に休みがとれた夫と気の向くままに散歩していると黒の壁に金銀の装飾が目を引くレトロな店が目に入った。
《ヒトビト食堂・Ee》
…店の装いとは反対になんてセンスのない店名なのかしら。これはきちんと言ってあげないと!
「ねぇ、丁度ランチになるしここ入ってみない?」
私は夫にそう言って店へと促す。
「ん?あれ?こんな店初めてみるな。外観は良いが店名が…酷いなぁ。まぁ君が言うなら入るか!いつものようにアドバイスした方がいいな。」
了承も得られたしカランと音を鳴らし扉を開ける。
中には全身黒服に身を包んだ客が沢山居た。少し異様な光景にたじろいだけれど恐らく葬儀か式典の帰りに団体で来た客だろうと思い、臆せず私は中に入る。
すると直ぐにウェイトレスが駆け寄ってきて
「御客様。大変申し訳ありません。只今お席が満席で御座いまして…お名前をご記入頂き御待ちいただいても宜しいでしょうか?」
申し訳なさそうに言ってきた。
は?全くこの私を待たせるだなんてどういう神経してるわけ?
「そこの席なら空いてるじゃないの。」
私がすかさず1人席で空いた所を指差す。
「…あのお席は一人用で…それに現在、感染対策を実施してお…」
店員が長々と説明してる間に夫が中に入りそこの席に座った。
「その奥の方にあと一つ空いてる席があるだろ!それをここに持ってきなさい!」
いつものように夫はウェイトレスに指示をした。
「…畏まりました。少々お待ち下さい。」
ウェイトレスは奥の席を此方にセットし椅子についていた《感染対策の為ご使用できません》と記載されたプレートを席から外し厨房へと戻った。
「全く!手際の悪い…新人だろうな。機転がきかない奴だな。」
旦那が飽きれ気味に言う。
「えぇ本当。御客様目線になるのは接客の基本ですのに!」
私も同意しハァと大きく溜め息をついた。
先ほどのウェイトレスがメニューを持ちお水をテーブルに置きながら
「先程は失礼いたしました。本日のランチはハンバーグとなっております。お決まりになりましたらお声掛け下さい。」
と言い席を離れた。
一口水を飲み私は早速メニューに目を通す、色とりどりの品々が並んでいてどれも美味しそうにみえた。
「あなた何を頂くの?私は本日のランチにしようかしら…ってアラ?」
メニューから顔をあげるといつの間にか夫が居ない。
さっきまでここに居たわよね?席を立ったのかしら?それにしては物音が無かったような?…呆気に取られていると…店内を歩いてたウェイターが側に寄ってきた。
「御客様どうかなさいましたか?」
「いえ…先程まで夫が居たのだけど急にいなくなって…」
するとウェイターはにこやかな笑顔で私に言った。
「時期にお会いできるかと…。」
…お手洗いにでも行ったのを見かけたのかしら?とふと思いそれ以上聞くのは控えた。私としたことがマナー違反する所だったわ。
仕方なくまたメニューに目を落とそうとするとコトッと横からお皿を置かれた。
「お待たせいたしました。本日のランチ、ハンバーグです。」
「!!私頼んでな…」
「どうぞ、ごゆっくり御召し上がりください。」
私が言い終わらない内にウェイターは下がってしまった。
…不思議に思ったものの、あぁ夫がお手洗い行った時に頼んでくれたのねと合点がいった。
冷める前に頂いた方がよさそう。そう思ったので脇にあるシルバーのカトラリーを手に取りハンバーグにナイフを入れた。
一口食べると肉汁が広がりかかったデミグラスソースとの相性も抜群でとっても美味しい!ふざけた名前で店員も気がきかないけど食事はなかなかの物ね。付け合わせのサラダも新鮮、パンも外はカリッと中はフカフカでレベルが高く、スープも美味しい…ブイヨン??ん~一体なにからダシをとったのかしら?今まで食べたことない感じ…
どんどん食べ進めまたハンバーグを口にした時カリッとなにか固いものが引っ掛かった。思わず口から吐き出すと
「…これ…夫の…」
出てきたのは夫の指輪だった。大きなルビーが嵌められ内側に名前の刻印された物なのだから間違いない!するとまた先程のウェイターが此方に近づき…
「時期にお会いできると言ったでしょう。」
言っている意味を理解した瞬間猛烈な吐き気が襲ってきた。
「…あ…あなた達一体…」
私が恐怖に顔を歪ませ席を立とうとすると
『ガシッ』
初め接客してきウェイトレスに力強く腕を捕まれた。
辺りを見渡すと先程迄食事を夢中でとっていた客達がジッと此方を見ている。
…客達の目の前にある皿は空になっていた…。
嫌な予感が私の頭を過る。
「はっ離して!もう御愛想するわッッ!離してよッッ!」
私は大きな声で叫び腕を振り払おうとするがびくともしない。
するとウェイターがまたにこやかな笑顔で言った。
「御客様、次の御注文が入りましたので。」
そのまま厨房へと導かれる、黒服の客達の中には口から涎をたらし私を見る者までいた…。
…ふと店の名前を思い出し…あぁそういう意味だったのか…と今さら気付いたがもう遅かった…。
六作目です。
以前、用があってお母さんと百貨店に行った時に同じような事をしてる夫婦をみかけ嫌だなと思い考えました。