7 かぶを探そう。龍との出合い1
今回かぶを探す話は僅かになります。一旦龍との出会いの話を間に入れます。その後またかぶを探す話に戻ります。
ーかぶ(すずしろ)採取編ー
ー前回のあらすじ。
七草を食べないうちに、地上の食べ物を食べると天界に帰れなくなる。
地上に咲く七草が、天界人が地上のご飯を食べても良い体質に変える薬草と知り、直ぐに天界に帰りたくないゆいは、ロッチ(ウサギ)と龍の力を借り、7草を探すことにする。
そして、ついにゆいは大根を親切な農家さんに分けてもらった。
ゆいは、空腹をがまんし次の目的地に向う。
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現在、採取した七草
○ほとけのざ(コオニタビラコ)
○なずな
○はこべら(ハコベ)
○ごぎょう(ハハコグサ)
○せり
○すずしろ(大根)
✕すずな(かぶ)
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右の脇腹が空腹で痛かった。
今龍に頼めば直ぐに家まで帰ることはできるだろう。だが今家に帰ったら次はいつ下界(外の世界)に行けるか分からない。
「お爺ちゃんになんて言おう。お爺ちゃん黙って出掛けてごめんなさい。でも、どうしても出かけたかったの‥龍と。龍が話してくれる人間の世界をこの目で見たかったの。お爺ちゃん‥‥初めて人間と話してみたけどちっとも怖くなかったよ。最初は緊張したけど普通に話もしたし。大根も沢山貰えたよ。あとちょっとあと1個だから集めたい。頑張りたい。もう少しだから、頑張りたい。帰ったら沢山怒られるから。もう、二度と下界に行けないかも知れないから、わがままになっちゃうけどゴメンね。それと、モフモフのウサギのロッチとも友達になったよ、七草が集まったらもしかするとお別れなんだろうけど。とってもモフモフでおかしな事言って、怖がりで食いしん坊で、もっとロッチと遊びたいよ。もっと色々見て回りたいよ。前みたいに沢山家に動物達が来てくれたら良いのに。前に家に来たウサギとは違うウサギだけど。ロッチとは違う毛色のウサギ、最近あんまり来てくれないし、お爺ちゃんが出かけたあと家に来てくれる龍の話が楽しくて、本当に来て良かったぁー。」
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ーー龍との出合いーー
神様は過保護だ。
ゆいは、いつのことだったか物心ついた頃から神様と2人きりだった。
一度、ゆいがまだ物もわからない3歳頃、うっかり神様が目を離した空きに、屋敷の門を出た所で、ゆいが歩いていた所を知り合いが運良く見つけ家に連れてきてくれた。
昔ゆいの家には、毎日のように様々な種類の動物達が神様に会いに来た。
神様の庭にいると、動物の親の子供達が毎日沢山話しかけてきて楽しかった。
鬼ごっこ、隠れんぼ、たまには悩み相談も請け負った。
しかし、ある日突然動物達は来なくなった。
神様が出掛ける事が多くなり
動物の親達も相談ができなり、しまいに足が遠のいていった。
神様はその時下界に行っていたのが、ゆいは知るよしもない。
ゆいは誰もいない家が退屈で退屈で、一人で段々と、徐々にしだいに遠くに出かけるようになった。
神様の家から少し分け入った所に、誰も入っていないような森があり、そこには、厳かな金の台座が置いてあり、その上に龍はいた。
金の台座に鎮座している龍の頭は、2mの高さにあった。巨大な体躯は黄金に輝いていて石像のように動かなかった。
「綺麗。」
そう思わず声に出した。が、何故かゆいには少し龍が悲しげに見えた。
「悲しいの?」
そう。動かない龍に話しかけた後、ゆいは不意に横を飛び回るいくつかの精霊に気を取られた。
精霊は蛍より小さく、その輝きだけでその存在をアピールしていた。
精霊を手に乗せようと片手の掌を向けた時、鎮座していたはずの龍が、その輝きを少し消し、黄金色の巨大な体躯を音も出さずに動かし口を大きく開けた。
《くぅ〜。》
腹がなった。
「やばい、爺ちゃんが帰ってくる。」
体内時計が鳴り焦りながら横目でチラリと龍を見やったゆいは、龍を気にしながらも急いで家に帰る事にした。
龍は、ゆいが見るよりも素早く口を閉じ何事もなかったかのように、しかし、何か言いたげな視線を固めた。そして、ゆいがいなくなった後、久々に動かす巨大な体躯を足が痺れた人のようにほぐし、人知れず姿勢を元に戻した後、黄金色に再び輝きを放ち何事もなかったように固まった。
それから、ゆいは時々神様の留守を見計らい森に入るようになった。
ーその森の名を゛開かずの森゛と呼ぶ。ー
「‥‥‥‥。」
ゆいの森での日課は、まず精霊に話しかける事である。
「うーん何かお爺ちゃんのとこの精霊と輝きが少し違う?気がする。」少し輝きが濃い?
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「うーんそれでね‥‥。」
精霊とひときしり話しを終えて満足した後、龍の台座のすぐ近くに座り、今度は龍に話しかける。
しまいには、小さな折り畳み椅子を持って来る様になった。
気のせいかな?昨日と違う気がする。
そう思って何日か経過してから、ゆいはスケッチブックも持って来て龍を描くようになった。
‥‥‥やっぱり昨日と違う!
いくら5歳の絵でも、描いた龍の姿勢が違っていたのは一目瞭然だった。
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写生1日目
「う〜ん難しい。」
龍の顔は複雑、目の上の睫毛なんかはまるで生きているみたい。
描いては消し、描いては消し、片目を8つ位描いたあとゆいはソレを消した。
そして、輪郭だけを描き後は遊ぶ事にした。
写生2日目
今日は尻尾から描いてみる。
見るとカッコいいポーズだが、
自分が描くと渦巻きにしか見えない。
影や模様をつけて見る。とぐろを巻いた形だが渦巻きよりはマシになった。
それから、暫く輪郭を取るのに夢中になる。
写生5日目
今日は支点を変え台座から描いてみる。
横の波模様が思った様に描けない
しまいに波が沢山になる。
上手く描けないので、頭をとり敢えず乗せてみる。(端から見ると波に浮かぶボールみたいにみえるだろう。)
その日はそれで断念する。
写生10日目
(「手が沢山あるから難しくなるんだ」)
と思ったので少し本数を減らす。
全体のバランスを考えて胴体を短くした。
そして、頭を上に乗せてみる。
実際より酷くアンバランスだが、今までよりは大分ましになった。
ドヤ顔になり満足して帰ることにする。
写生20日目
(ヤモリ程度には描けるようになってきた。)
神様の家にはヤモリがいる。その時外出から帰ってきた神様が、たまたま机の上に広げたままのゆいのスケッチブックを見た。
「絵の才能もあるの〜。ふむふむ。」
顎の髭を触りながらゆいのヤモリの絵に感激し、神様を密かに喜ばせた。
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龍も、ゆいにバレないように細心の注意を払っていた。しかし、出会ってから1年も鎮座しており、流石に姿勢を元に戻していたとしても1年前と後では大分ポーズも違ってしまっていた。
そして、しまいにはゆいの絵が気になり出し、隙を見ては時々スケッチブックのページを覗き見て、
『何だコレは、ミミズか?』(写生1日目参照)
『女の子が大便を描くなど。』とか。(写生2日目参照)
『頭が大きさ過ぎる何を描いてるのか?サンショウウオか?』とか(写生10日目参照)
『うむ、良くかけてる、この線などイモリの形を良く捉えてる。』
等と時には褒めてみたりもした。(写生20日目参照)
ゆいは、森に着いたらまず最初に龍の絵を描くようになりその後に精霊達と森の中で遊ぶ様になった。
樹木の精霊と話したり
時には、土の中の精霊を枯れ枝で掘り起こし見つけた。
ゆいは何かにつけ夢中になった。
龍はゆいが居なくなると、ソワソワしてスケッチブックをみる様になった。
龍は、段々と徐々に、ゆいが来る時間が分かる様になり、ポーズを取る様もビシッと極めるようになる。
ゆいと出会ってから2年半、ゆいの絵は大分龍っぽくなってきた。
※今はトカゲの様な龍が上手に描ける。
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龍は、ゆいが真剣な表情でスケッチブックを手にコチラを見ていたので、おおよそ自分を描いているのを予想していた。
‥が、自分とは似ても似つかないミミズやとぐろを巻いたウン○、時には頭がいっぱいある何か、ヤモリ等。
『よもや、わたしではないな。』
それから、ゆいは時々歌を歌いながら来るようになった。
森の精霊が歌を教えているのだろう、抑揚をつけたり高音になったり、小鳥のさえずりの様な森と一体感ある歌声に見る間に変わっていった。歌が上手くなっていた。
龍は、夢心地で歌声を聞いて、ゆいが近づいて来るのを心無しに体を揺らしながら待ち、森の精霊もゆいが来るのを光を点滅させながら楽しそうにしていた。
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しまいに、ゆいが立ち上がり、森の奥に入るのと龍がスケッチブックを手にするのが殆ど同時になっていた。
ゆいは、森の奥に入ってからそっと龍が動いているのをじっと見ていた。
前々から龍との出会いエピソードを書きたいと思っていました。怖い龍ではなく優しい感じの龍を書きたいと思いこのようなしめになりました。
何故台座にいたかとか書くと長くなるので、近くに住んでいるお爺ちゃんが龍に気がついてないわけないんで、それも書きたいのですが長くなるんです。
次になかなか進まないと七草探しが完結しないんで。
題名十二支ですが短い絵本をみて、長くなるとどうなるの?と想像して書いています。よろしく。