5 お腹すいた。初めての人間
何となく天界人であることをロッチ(ウサギ)に隠すゆい達。
天界で、家から出してもらえなかったゆいは、今回初めて下界の人間と会話をする。
前回のあらすじ
実は地上に生えている七草が、食べると天界人の体質を変え、地上のご飯を食べても良い体に変化させる薬草だということを知る。
そこで、直ぐに天界に帰りたくないゆい達は、うさぎのロッチと黄龍の力を借り、7草を探すことにする。
=採取済み七草=
春の七草
○ほとけのざ(コオニタビラコ)
○なずな
○はこべら(ハコベ)
○ごぎょう(ハハコグサ)
○せり
=未採取=
◯すずしろ(大根)
◯すずな(かぶ)
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「ゆいや〜。お昼ご飯できたぞ〜。」
いつもの昼時は、神様の出された課題を解いていると、いつの間にか神様が、ご飯を装った後に呼びに来てくれる。
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ゆいの朝は早い、朝5時に起床し、布団を畳み、歯を磨く。
そのまま力仕事は疲れるので、軽く握り飯を食べてから畑仕事をして、精霊と談話。その後、ゆい専用の滝に打たれながらシャワーは終わる。その後、漢字の書き取りや、天界人の歴史についてとか、うんにゃらかんにゃら学ぶ。
本来ならそんな毎日の日課を過ごしている時間。
ゆいは疲れて熟睡しているウサギのロッチを抱き抱えながら、ゆっくりとした足取りで人里を目指していた。
勿論、透明化で龍の姿は見えない。
「少しお腹すいたなぁ。」
「ん!すずしろ(大根)はここにあるはず。」
ゆいは、気合を入れ直す。
龍の知識を元に、新たなる大地に降り立った
ゆい達一行。実際、人に話しかけるのはゆいだ。
ゆいは、緊張していた。
(最初、なんて声掛けようか。)
暫く行くと、人が遠くで洗濯を干してるのが見えた。
「よし!」
気合を入れウサギは龍に預け、どうにかこうにか一人で話しかける。
洗濯してる人の情報によると、大根は三軒先の家が育てているらしい。
ゆいは、それらしい家を見つけるとノックをする。
「あのっごごめんくだささぁい。」
初っぱなから噛んだ。
「はーい。」
出てきたのはまだ若い女の人、赤ん坊を背中におんぶしていた。
出てきた女の人は、まだ20代かそこら。長く日に焼けた赤茶のボサボサの髪をぶっきら棒に紐で結わえ、
素はそんなに黒くないであろう肌色の素肌が袖口から少し見える。
絶世の美女とは言えないが、それなりに見える顔、十中八九訪ねた人に安心感を与える、見るからに善人そうな顔をしていた。
ゆいは、内心少しホッとしながら、集めた5種類の草と交換に、大根を少し分けてもらえないか聞く。
元々雑草なので、交渉できるか心配だが、集めた5種類の草以外交換できるものがない。
ダメ元で聞いてみると、
「ごめんなさい、今はまだ大根の間引きの時期なので、交換出来るのは無いわ。」と言われた。
ガッカリしたが、間引いて捨てるもので良いからと食い下がる。
ならばいいわと、畑の場所を教えてもらった。
直接畑を管理している夫と義理の
父に聞いて、交渉をして欲しいと言われた。
畑は、家から少し離れた所にあった。教えてもらった風貌で、この人達と当たりをつける。
もう少しで採取できるかもと分かれば少し急ぎ足で、大根畑に向かう。
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(神様の所にも七草は生えている。)
ゆいも天界で全く同じ七草を時々食べている。畑に、種類ごとに名札をつけて、愛情を注ぎ、その畑の手入れは、ゆいが行っている。なので、ここでも直ぐに見つけられたが。(ちなみに最初に見つけたのは龍、後は殆どロッチ。)
天界では、七草全種類が1箇所の畑にあるが、地上の大根はこの辺りにしか生えていないらしい。一箇所に生えていたはずの七草はあちこちに点在して生えている。何とも難儀な事だった。
この地以外の他の地方では、漬物になったりと手が加えられた物しか出回っていない。
なので、わざわざ龍に乗りしかし、わずか10分でここに着いた。
ウサギは、龍が速度をあげた途端気絶した。しかし、ゆいは自分を基準に置いているため、ロッチは熟睡と診断。
今度は、どもらないよう小声で何度も予行演習を行ったあと。
「スミマセン、私ゆいと言います、これと大根ほんの少しで良いんです、交換していただけないでしょうか。」
一気に捲し立てた。
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大根農家さんとの交換条件は、雑草との交換ではなく、大根の間引きをするのを手伝うのと、葉についた害虫駆除の手伝いだ。
虫を捕まえては、酒が入っている壷の中にどんどん入れる。
天界には虫がいない。虫の代わりに、勾配の為に蜂の様な精霊を召喚する。勾配して働いてもらった後、蜜を作り終えたら、その巣をかじってはどこかに消える。それで蜜だけは手元に残る。精霊曰く、蜜は甘すぎるらしく残していく。
だから虫を地上で初めて見た時、ゆいは驚いた。
「精霊じゃ無いけど、精霊みたい!あっなんかひらひら飛んでる。わぁ〜!!白〜。黄色〜。赤い━━。なんか赤〜い。わぁ!素早い。あれ?葉っぱの間地面に何かいた。」
『ピヨヨーン。』
「わぁ!」
尻もちをついた。
「あはは!あはは!何これ。何これ!あはははははははー!」
最初はこんな感じだった。だからか、ため息をつき仕方ないと殆どロッチが七草を見つけたのも納得できるだろう。
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セリを見つけたのは龍だった。
ゆいはその間何をしていたのかと言うと、木をじっと眺め
『ギュ。』
木を抱きしめた。
それを何本も。
ウサギが呆れ顔をしながら、龍は微笑ましくその様子を遠巻きに見ていた。
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青虫を初めて見たゆいは、掌に乗せてみた。
『ウニョウニョ。』
「かわいい〜。」
「‥虫は怖くないみたいだな。━━━ちんたら遊んでないで早く壺に入れろ、逃げちまうだろう?」
若いおじさんは、ゆいの作業が止まっているように見え、少し面白くなさそうに言った。
「‥‥‥。」
「‥‥そんな顔するなよ。なんなら大根の間引きの方にするか?」
「‥‥‥‥‥うん。」
青虫を若い方のおじさんに手渡す。
ゆいは、可愛いと思った青虫を壺の中に入れて殺す事ができなかった。
それから、若い方のおじさから一通り間引きのやり方を教えて貰った。
その後、ゆいは大根の間引き作業に入る、土の精霊と話しをしながら植物の状態を神眼で見る。
大根の植えてある面積は、およそ1反(300坪)程。
若い方のおじさんが、少し離れたところで大根の間引きを、それより少し年配の男性が、青虫を黙々と駆除している。
ゆいは、少し息を吐き出したあと目を見開くと、その間青い魔法陣がゆいを中心に円状に地面に現れる。
そして、おじさん達が見ていないすきに、土と風の精霊魔法で一気に発育の悪そうな大根を取り終え、土の状態を土魔法、大根の発育状態をより良くするべく植物魔法を付与。
若い方のおじさんが、かがんだ腰を伸ばすと同時に間引き作業は終わっていた。
「ふぅー。何本か取れたのか?‥‥‥え?‥は?‥‥‥‥‥。」
「適当に採ったんじゃ無いよな‥‥‥。」
若い方のおじさんは周りを見回し、大根を拾い、発育の為のスペースが空いているかを見る。
「あんな短時間で?いや‥‥‥‥‥。よく頑張ったな。」
信じられない様な顔をしながらもお礼を言う。
(ふふっ。)
ゆいは、照れくさそうにはにかんで笑う。
「じゃあ、後は虫取りだけだな。」
(〜!ガーーーーン。)
顔面蒼白なゆいの顔をみて、
「あっはっはっ。冗談だ、冗談。少し休憩を取れ。」
と少し歩き、雑に置いた荷物の横にあった水筒を拾うと。
「ほら。」
ゆいに水筒を手渡す。
(‥‥‥‥やばい。これ呑んで良いんだろうか?)
下界の物を食べたら天界に帰れないという言い伝えを思い出した。(飲み物大丈夫かな?)
直後に固まったゆいを見て、
「まいったなー。やはりおじさんのは嫌か。」
(!!!)
そうじゃないと言いたいが何と答えたら良いかわからない。
「少し歩くと沢がある、綺麗な水だから飲んで来い。」
「!。」頷くとなんとなく急いで沢に行く。
少し走ったところで突如風が吹いた。
《ピューーーーーーーーーーー!!》
風で顔に髪がかかり目をつぶる。
「龍ー!。」
ゆいは、まだ別れてからそれ程時間は経っていなかったが心細さとひもじさで‥。少し潤んだ目で、
「これ、呑んでも大丈夫?」
友との再会直後、開口一番に聞いた。
「ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴク。プファー。ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴク。ふぅ〜〜。生き返った〜!じゃあまた、頑張ってくるね。」
『ゆい頑張れ〜。』
『うむ。』
「よし、あともう少し。頑張らなきゃ。」
水で腹が満たされ、てくてく歩いていく。
「おぅ!戻ったか。‥。‥‥‥‥。。。!」
若いおじさん、なんて言っているんだろう。
「‥‥‥少し顔が‥‥‥うっかり‥ぉぃ‥‥。。。」
年取ったおじさんこんな声だったんだ。あれ?真っ直ぐに 歩けない‥‥‥‥?れれっ?
〈ドサッ。〉
「‥‥‥‥‥‥‥!‥‥‥‥!!。」
声が小さくて声がよく聴こえないー。なんて‥‥言ってる‥?。
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「パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ。」
「全く、こんな小さい女の子に大根を全部間引きさせたって?」
「いや、あの、その。」
「だいたいお義父さんがいながら何ですか!青虫取るのに夢中になって、女の子が具合悪くしてるのも気が付かないなんて。」
「それは‥まぁ。‥暫く寝かせたら大丈夫だろ?」
「!!、!!、こら!ジョナンも手を休めないでちゃんと仰いで、」
優しそうな女性の夫ジョナンは自分も団扇で仰ぎながら
「はい、はい。(全く頑張り過ぎだろ。とばっちり。はぁ〜。)」
面倒くさそうに返事をした。
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〈ポチャ、ポチャ、フキフキ〉誰かが手足を拭いてくれてる。
「‥‥。」ゆっくりと目を開けるゆい。
「あっ気がついた?ダメダメ急に起き上がっちゃ。頭を揺らしちゃダメ。」
ゆいの目の前に、あの優しそうな眼差しの女性が、桶の水を絞ったタオルを頭に置いてくれながら話しかけた。
「あれ。わたし‥‥‥‥?。」
「熱中症で倒れたみたい。」
「熱中症‥‥?(頭がぼ~っとする何だろこれ??)」
ーーーーー△ゆいの回想
「ゆいや〜、熱中症になったらいかんから、日中太陽が出ている時畑仕事はしちゃいかんよ。まぁ、ゆいがどうしてもと言うなら、日影魔法をかけるがのぅ。畑仕事は、直射日光が出ていない時にするのが良いんじゃよ。」
「爺ちゃん‥、いや神様がそう仰っていたっけ。天界の畑じゃ無いから、うっかりしてたけど。日影魔法かぁ〜。」
ぼ~っとした頭でぼんやりと考えてると。
「《コンコン》。さぁ、口をあ~んてあけて〜。何か食べなきゃ駄目よ〜。」
(「やばい、何か食べさせられる。」)
ゆい絶対絶命のピンチ。
書いてて思うの。
十二支程遠い(泣)。