表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

聞き慣れた声

 マイナバードはガルボの為に踊り続けた。

 店で使っていたヒールは既に折れ、使い物にならなくなったので捨てた。

 足は疲労でむくみ、靴を履ける状態ではなかったので裸足で踊った。

 毛羽だった床板のとげが刺さり鈍い痛みが足裏を襲うが、それもすぐに感じなくなった。

 全身全霊をかけて踊り続けても「何か違う」を繰り返す男に、マイナバードは焦っていた。

 思いつく限りのことを試した。

手始めに化粧を変えた。

 髪型を変えた。

 ネイルを変えた。 

 衣装を変えた。

 しかし、男は違うという。

 最後の手段でパラキートの真似をしてみると、これはガルボの機嫌をどん底に突き落とした。

「イーナ。外の空気を吸ってくるといい。僕も絵の具を買い足してくるから」

 外に追いやられ、なんとなしに空を見上げてみて、そういえば太陽を見るのは久しぶりだとぼんやりと思った。

 朝陽がまぶしいと感じながら、あてもなく歩きたどりついた先は、皮肉にも『黒縁眼鏡』だった。

「自分の家に帰りなさいよね」

 己の行動にあきれながら、マイナバードはクローズの札の掛った扉を引いた。

 鍵がかかっているはずの扉は容易に開き、難なく彼女を迎え入れた。

「……不用心ね」

 マイナバードは静まり返った店内にそっと足を踏み入れた。

 なんとなく足音を立てないようにしてしまう。

 客のいない店内は夜の姿など忘れたように静かだ。

 数段高い位置に作られた小さなステージは、足を上げればすぐに登れる。

 しかし、足が動かない。

 ぼんやりと立ち尽くすマイナバードに声がかけられた。

「マイン!」

「っ」

 驚くことはない、店にクローズの札がかかっていたとしても扉が開いていたのなら、中に店主がいることは必然だ。

 そんなことにも頭が回らない程自分は疲れていたのだろうか。

 マイナバードは焦がれていた、しかし同時に聞きたくなかった男の声にとっさに体が逃げ出した。

 けれど、痛んだ足裏は力を込めた途端に体を支える事を拒否した。

 傾いだ体が床にたたきつけられることを覚悟して、新たな痛みに目を閉じたがそれが来ることはなく、代わりに逞しい腕とよく知った香りが鼻孔をついた。

 そして、憎たらしい程に遠慮のない言葉がふってくる。

「おい、馬鹿。なにしてるんだ危ないだろう!」

 ああ、うるさい。

 うるさいが、久しぶりに感じる体温にマイナバードは自分の体が冷えていたことに気が付いた。

 温いわ。まるでぬるま湯につかっているみたい。

「おい、マイン? マイン!」

 自分の名前を必死に呼ぶカンの声を聴きながら、マイナバードは夢見心地で意識をてばなした。

やっとカンだせた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ