08 開戦前
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俺はイースト・カイの田舎町で産まれた。
父は騎士で、槍術の道場を開いていた。
俺は小さい頃から父に兵法を学び、毎日稽古を続けた。
友達と遊ぶことは禁止されていた。
12才になった時には、父以外に町で俺に勝てる者はいなくなっていた。
俺は天狗になっていたが、無理もないだろう。
同年代はもちろんのこと、道場に来る大人も俺に歯が立たない。
俺は、そんな自分が特別な存在だと思ってしまっていた。
ある日、別の町から家族が引っ越してきた。
家族の息子は俺と同い年で、名前はガイといった。
へらへらしたお調子者で、俺は嫌悪感を抱いていた。
「なあバルバトス!お前、毎日道場で稽古してるそうだな。俺も混ぜてくんねえか!?」
なんだこいつ、特別な俺様に馴れ馴れしくすんじゃねえと思った。
稽古中組手でボコボコにして、俺様の凄さをわからしてやろうと思った。
組手は俺が木槍、ガイは拳サポートをつけた素手。
しばらく打ち合い、勝敗が決する。
「強えな~お前!俺達で稽古していけばもっと強くなれるぜ!」
結果は、俺が負けた。負けた事実を理解できず、呆然となった。
「俺は世界一を目指してるんだ!お前も一緒に目指そうぜ!」
ガイは俺に手を差し出した。
ガイの"世界一"という言葉が、俺の心に響いた。
たかだか町の一番で調子に乗っていた俺が、恥ずかしくなった
自分のくだらないプライドが崩れ去った。
「ちっ・・・。ガイ、俺はお前より絶対強くなってみせる。世界一までの道のり、付き合ってやる」
俺はガイの手を取った。
「お前が俺より強くなるなら、俺はまたお前より強くなる。それを続けていけば、俺達どんどん強くなれるぜ。よろしくな、バルバ!」
ガイの明るく前向きな性格は、俺の殻を突き破った。
その年、人魔大戦が勃発した。
俺とガイの父親は共に戦争に参加し、命を落とした。
だが悲しくはなかった。
人族を守り、俺達に武術を残してくれた父を誇りに思った。
父に恥じない生き方をすると、俺達は誓った。
15才になると、俺とガイは神職をもらった。
世界一への道は着々と進んでいた。
20才になった記念に、二人でS級ダンジョンに挑戦してみた。
挑戦してみると、俺達ならば可能だと確信した。
何度も挑戦を繰り返し、翌年には無事制覇することができた。
世界初の二人パティ―S級ダンジョン制覇だった。
夢の世界一は達成したかのようだったが、ある時気が付いてしまった。
それはあくまで"人族"に限られていることに。
四魔天を含めたら、世界一にはほど遠い。
それからも俺達はひたすら研鑽を積んだ。
いつか本当の世界一に達するために。
今、俺達は町の外へでて陣を敷いている。先頭の中央が俺達二人。
「楽しみだな、ガイ。もうすぐ俺達が、本当の世界一になるんだ」
「ああ、バルバ。あの真ん中で余裕こいてる奴に、俺達が最強だってことを教えてやろうぜ!」
ガイの視線の先では、蛇を首に巻いた者が馬上で笑みを浮かべていた。
蛇竜王ヨルム率いる魔族はついに、目視できる距離までたどり着いた。
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10年前、フェンリルが人族の殲滅へ向かう途中に出くわした。
「フェンリル、行くのですか?」
「ああ。俺はあいつらが許せねえ。アングを殺した奴らも、それを守る奴らも全員皆殺しだ」
いつも以上にフェンリルの全身の毛は赤く鋭くとがり、周囲は空気が歪み熱を放っていた。
「ヘルは・・・、彼女は置いていくんですか?」
ヘルは、ロキとアングの娘だ。アングと同様、彼女もフェンリルと親しかった。
「関係ねえ。俺はアングの仇をとって人間に撃退される。それで戦争は終わりだ。あの屑にも引っ込んでおけと伝えとけ」
屑とはロキのことだ。フェンリルは、アングをよく泣かせるロキのことを嫌っていた。
「じゃあな、ヨルム」
その後の結果は歴史のとおり、フェンリルの希望とは異なった。
ロキがフェンリルの後を追い、軍を率いてノース・エチゴへ攻め込んだからだ。
フェンリルの撃退だけでは戦争は終わらず、ロキが死亡するまで戦争は続いた。
何故ロキ本人が戦争に参加したのか。
魔族は群れるのが嫌いだ。大多数で群れることがない。その例外を作ったのが魔王ロキだった。
ロキは強くはなかったが、圧倒的なカリスマ性で魔族の大多数をまとめ上げた。
だがそのロキも魔族。根の部分では周囲を一切信頼していないと思われていた。
だからまさか、アング殺害の恨みで玉砕覚悟の戦争をしかけるとは誰もが思わなかった。
魔族は群れない、愛を知らない。そのはずだった。
ロキもフェンリルも、なにかが違っていた。
「ヨルム様?」
スキャットが声をかけてきた。今はサガミの町へ進攻している途中だった。
「大丈夫です。少し考え事をしていました」
元々は、本格的な戦争をしかけるつもりはなかった。
スキャットからモンスターパレードの予兆を聞き、それに合わせて私一人で町を殲滅しようと思っただけだ。
裏ではスキャットが人族嫌いの魔族を集めて戦争にしようとしていたが、町一つなら私一人で1時間もかからない。
戦争にすらならない、単なる暇つぶしだった。
だが町にフェンリルがいることを聞いた。人間を相棒と言っているらしい。
状況が変わった。単なる暇つぶしではなくなった。
軍を率いた魔族の戦争に発展させれば、魔王であるヘルも今後巻き込まれざるを得ない。
フェンリルはアングを殺され人族に牙を向いた。ならば、人族の相棒を殺したら私達魔族に牙を向くのだろうか。
私は鉱山で鉄鋼石を集め武器を揃えて、スキャットの集めた魔族へと配った。
魔王でもない私とスキャットでは、群れ嫌いの魔族をまとめるのは100体が限界だった。
少数ではあるが軍ができあがり、ここまで軍として進攻してきた。
「着きましたね。さあ、攻め込みましょう」
これからの展開が楽しみで、つい笑みがこぼれる。
向かいに人間の群れが見えていた。
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俺は町中で、後方支援の他の兵士と共に陣取っていた。
俺達の役目は、前線をかいくぐって町に侵入した魔族を討伐することと、町民の護衛だった。
いくら前線が守っていても、何体かは町に入ってくる可能性があった。
魔族の兵士は大体C級にランク付けされるようだ。
俺達一人ずつでは討伐は難しいかもしれないが、多人数で戦えばなんとかなるはずだ。
ベンターは今もまだ剣を打っていて、すぐに完成させて俺に届けると言っていた。
危険があるので、フェンが護衛している。
周囲の兵士の話を聞いていても、知らない単語が多く理解はできない。
ただ、戦力は大分防衛側が有利らしい。
リンは前線の後方に配置されたそうだから、危険は少ないはずだ。
町の外から鬨の声が上がった。
いよいよ戦争が始まる。