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07 リン

作戦会議が始まり、ミストさんが壇上に立つ。


講堂には私を含めて約500人程が話を聞いている。


「まず、ここにいる者たちに言っておくべきことがある。首都カイから来た者たちには周知のことだが」

最初の一言で場の緊張感が高まる。


ミストさんは援軍が多数この町に向かってきていて、その中には聖女様等神職も多数含んでいると説明を始めた。


場は騒々しくなった。魔族の襲撃にはそれほどの味方が必要な規模なのかと不安になる。


「偵察から連絡が入った。この町に向かってきている魔族はおよそ100体ほど。到着は3日後の夕方頃と予測している」


私を含めて元々この町にいた人達はひとまず安堵の顔を浮かべるが、首都から来た人たちは緊張した表情を崩さない。


ミストさんは慎重な面持ちで話しを続ける。


「・・・そしてその先頭に立つ者は、四魔天の蛇竜王ヨルムだ」


場が即座に静まり返る。


先程まで勇気を振り絞っていた者たちの心を折るには充分な一言だった。


四魔天は人族にとって最大の脅威だ。


10年前の人魔大戦で、人族は世界中の最高戦力を結集して応戦した。


しかし、四魔天フェンリル1体により何万人もの犠牲がでたことは誰もが知っている。


ここに集まる500人の戦力では、ろくな抵抗もできずに粉砕されてしまうだろう。


「だが安心しろ。俺達がいる」


横に立っていた二人が壇上にあがる。


「俺はバルバトス、こいつはガイ。お前達が雑魚を抑えてくれれば、俺達が必ずヨルムを倒す」


静寂が破られ、周囲が騒ぎ出した。


「えっ!?あの闘神バルバトスと拳鬼ガイ!?・・・こりゃあすげえ!世界でもトップクラスの二人じゃねえか!!」


「おい間違ってるぜ!?トップクラスじゃないさ。俺とバルバが世界のトップだ!」

ガイは胸を張って自信満々に言った。


闘神バルバトスさんと拳鬼ガイさん。その二人の名前はイースト・カイで最も有名な名前といっても過言ではない。


世界で史上初、2名バーティ―でのS級ダンジョン制覇者。


彼らの実力は世界中で認められており、10年前の大戦でこの二人がいたならば戦況は大きく変わっていたとされている。


その二人の圧倒的な自信を見せられて、皆の絶望は消え去っていった。


自分達は500人で100人の魔族を抑えるだけ。それは充分実行可能な作戦だった。


「よっ、よーし!やってやるぜ!!」

「ああ、俺達で町を守るんだ!」


みんなの気力が戻った。

バルバトスとガイの勇名は、場に大きな効果をもたらした。


「そうだ!我らが共に戦えば、必ず魔族を撃退できる!では引き続き、各作戦行動を伝える」


――――――――――――――――――――――――――


作戦会議が終わり、私は工房へ向かった。


配置場所が後方だとは把握できたが、会議中どうしても話に集中することができなかった。


戦争が始まると聞いても、あまり現実味がない。


私のお父さんとお母さんは、10年前の大戦で死んでしまった。


その時私は5歳で、両親二人の顔をあまり覚えていない。


私のことはベンターおじいちゃんが育ててくれた。

厳しい人だけど、私のことをしっかり見てくれている。


おじいちゃんのおかげで、私は自分を不幸だと思ったことが一度も無い。

私は幸せに暮らしてこれたから、魔族に憎しみを抱くことは一切無かった。


だけど、これから魔族と戦争をしなくてはいけない。

もうすぐ人と魔族の多数の死が訪れてくる。


でも私は闘わなくてはいけない。おじいちゃんと、町のみんなを守るために。


工房の前に、フェン君が立って待っていた。


「遅かったな。リン」


緊張が一気に解けた。


「・・・ぐすっ。フェンく~~~ん!」


私は思いっきりフェン君に抱き着いた。


何故だか涙が止まらない。


鼻水もドバドバ出ていた。


顔を何度も擦り付ける。ぐりぐり押し付ける。


フェン君は嫌な顔をしていたけど、何も言わずされるがままになってくれていた。


フェン君は、とっても暖かかった。


――――――――――――――――――――――――――


工房ではおじいちゃんが剣を打っていて、グレン先生がそれを眺めていた。


二人に3日後夕方には魔族が襲撃してくることを伝えると、おじいちゃんはそれまでに剣を完成させると意気込んで工房に籠ってしまった。


みんなには、四魔天のことは伝えていない。


ミストさんからは、バルバトスさんとガイさんのことを込みで話をすれば四魔天のことも話していいと言われている。


でも私は話をする気になれなかった。グレン先生さんもフェン君もずっとエンドの森にいたと聞いているから、二人の勇名は知らないはずだ。


きっと不安になるだけだから、話はしないことにした。


「グレン先生!私に稽古をつけてください」


もっと強くならないと。


私は襲撃までの残りの日々を、グレン先生と稽古で費やした。





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