05 予言
セントラル・シナノの占い師ティナは新しい予言を得るため、占術の儀式にとりかかっていた。
だが頭の中では、先日の予言について考えを巡らせる。
今まで40年以上数多の予言を行ってきたが、予言の内容が実行されなかったことなど一度もなかった。
そのため世界中が予言を重視し、頼りにしてきたのだ。
だが先日の占いの結果、その前に占った予言"モンスターパレードの発生"の撤回が占われてしまった。
予言とは、必ず起る運命。
それが撤回されるということは、運命をも変える事象が起こったということだ。
その事象とは一体何が考えられるのか。
自然現象、人族、魔族の行動・・・。ティナは様々な憶測を立てたが、首を振った。
その程度で運命が変わるのであれば、過去の予言が必ず実行されてきたことの説明がつかない。
10年前には人魔大戦が起った。だが因果関係が複雑で未来予測困難な大戦争の間ですら、予言が覆されることはなかった。
ならば運命すら変える超常的な存在が、大戦後に新たに出現したということだろうか。
その超常的な存在が現れたのだとして、それは果たして人の味方なのか。
儀式が終わり、ティナの持つ予言書へ自動的に新たな予言がもたらされる。
ティナは予言を読むと驚愕した表情で一瞬固まったが、慌ててすぐに封をする。
書簡を使者へ渡そうとした手が震えていた。
「急ぎで皇帝へ届けてください!」
ティナの様子に気圧され、使者は屋敷を飛び出した。
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使者を前にセントラル・シナノの12代目皇帝シナノは思いにふけっていた。
手元には先ほど届いた書簡があった。
人魔大戦。
10年前起こったこの戦争は、人族と魔族の争いで最も大規模な戦争だったといえる。
きっかけは魔王ロキの妻アングを人族が謀殺したことであった。
当時魔界にいた魔族の多くを、魔王ロキが率いて攻めてきた。
人族は私シナノを中心に、ノース・エチゴ、イースト・カイ、ウエスト・ミノ、サウス・ミカワ、全ての国の連合軍で対決した。
大規模な戦闘がノース・エチゴの地でおこなわれ、人族は数えきれない死傷者をだしてしまったが、多数の魔族を打倒し魔王ロキを討伐した。
だが・・・・。魔王ロキを討ったものの、魔族の脅威は去っていない。奴らには四魔天が残っている。
新たに魔王となった死霊王ヘル、そして蛇竜王ヨルム、富岳王レック、魔狼王フェンリル。
幸いなことに、魔族は人族と違い団結することが無い。
先の大戦には、四魔天に関しては魔狼王フェンリルのみが戦闘に加わっていた。
しかしその四魔天1体の撃退に、神職、S級問わず莫大な犠牲を伴った。
もし四魔天全員が戦争に参加していたのならば、確実に人族は滅ぼされていただろう。
「シナノ様?」
妃に声をかけられ、シナノは予言の書簡から顔をあげた。
「すまない。考え事をしていた。・・・各国へ伝達せねば」
声が震えていた。シナノはこの予言によりどれだけの人の命が失われるのか、考えたくもなかった。
”サガミの地に四魔天襲撃”