04 赤幻石
道中、スライムやゴブリン、野生のモンスターが襲い掛かかる。
「そりゃあ!居合切り!」
リンはそのたびに剣士スキルをくりだす。
モンスターは一撃で倒されていった。
「おいリン。お前そんなスキルばっか使ってて大丈夫か?」
フェンがあきれていった。
「だって。もし倒せなかったら反撃されちゃうでしょ?そう考えちゃうと、ついつい・・・だめですか?先生」
先生とは、俺のことらしい。俺みたいなおっさんでなければ、このスキル"上目遣い"に耐えれる男はいないだろう。
「だめだよ。リンならスライム、ゴブリン程度ならスキルを使わなくても倒せるはずだ」
いざという時のために、スキルはできるだけ温存しておくべきだ。
リンは運動神経がとても優れている。さらに職業の剣士は上級職だ。
ステータス補正も高いし、すぐに俺よりも強くなることだろう。
先生面できるのも、今だけかもしれない。
そしてリンは、日が暮れるころにはモンスターに慣れたようだ。スキルを使用せずとも討伐していった。
完全に辺りが暗くなり、火を起こしてキャンプを設置する。
疲れてしまったのか、リンは横になるとすぐに寝息をたて始めた。ベンターはリンに毛布をかける。
必要であれば研いでおこうと思い、俺はリンの刀を取り出し損傷をチェックしはじめた。
今日だけでも数のモンスターを斬った。明日のためにも、入念に調べていく。
だが刃こぼれ一つ見当たらない。ベンターの腕は確かなようだ。
「すごいな、ベンター。俺が使う剣はすぐに破損してしまうのに」
ベンターはそれを聞いて誇らしげな顔をみせた。
「がっはっは!なんたって俺が丹精こめて打った刀だからな。あんたの使っている剣はゴブリンのドロップ品だったか?この依頼が終わったら工房にくるといい。出血大サービスであんた用の剣を打ってやるぜ?」
思いがけない台詞に耳を疑った。Eランク冒険者の俺に、専用の剣を打ってくれることなど普通ではあり得ないことだった。
「本当か!?必ず行くよ!」
刀を改めて見る。刀身には美しい波紋が波打っていた。刀を鞘に戻し、木に慎重に立てかける。
「そういえば聞いたか?あんたがいたエンドの森で、S級ダンジョンが新たに多数発見されたらしいぞ。あんたは気づいていたのか?」
初耳だった。俺が行ったダンジョンは全てE級ダンジョンだった。
「いや、まったく気づいていなかった。間違えて入ってしまったら大変なことになっていたな」
「そりゃあ危ないところだったな。それに対してサガミの町付近は、最高でもC級だ。D、E級も多いし、あんたには丁度いいだろう」
依頼が終わって剣を打ってもらったら、ダンジョンで試し切りしてみようか。
今後の楽しみができた。フェンは別の町へ行きたがっていたが、もう少しサガミに滞在していこう。
「さあ俺達も寝るか。明日の朝出発すれば、昼頃には鉱山へ到着できる。あんたもゆっくり休んでくれ」
火を消すと辺りは静寂に包まれた。
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翌朝出発してからも、特に野良モンスターに変化はなく、無事に鉱山へ到着した。
山には巨大な洞窟の穴があいている。
「入るぞ。目的の鉄鉱石は洞窟を進めばすぐ手に入るはずだ。護衛頼むぜ」
ランプに火をつけ、洞窟を進む。幸いなことに、モンスターは出現していない。
だが鉄鉱石はなかなかみつからなかった。所々、壁に抉ったような歪な穴があいている。
「この穴の跡・・・・野郎・・・」
フェンが呟いた。
「なにか気づいたのか?フェン」
フェンは少し押し黙り、考え事をしていた。
「・・・いや、なんでもねえ。ベンター、もっと奥へいこうぜ」
「そうだな・・・。普段なら行かないが、今日は護衛のあんた達もいる。奥まで行ってみよう」
しかしいくら進んでも鉄鉱石はみつからない。抉れた跡もなくなり、ただ岩場が続いていた。
かなり気温が低い。フェンはリンに抱き着かれていて、かなり歩きにくそうだ。
「これ以上は来たことがないんだが・・・。もう少しだけ、少しだけだ。付き合ってくれ」
ただひたすら進む。すると、奥に光がみえた。
「あっ!光が見えるよ!」
リンが走り出し、俺達もおいかける。
俺達が着いたその場所はとても広大な空間だった。
周囲の石が様々な色に発行し、幻想的に照らし出していた。
「わあ~。キレ~~」
リンはうっとりとした表情を浮かべ、目を輝かせていた。
「すごいな・・・石っていろんな種類のものがあるんだな」
エンドの森にいたままでは、こんな綺麗な景色を見ることはできなかった。
森を出て本当によかったと思う。
「確かに綺麗だけどな。だがどれも俺の欲しい石とは目的がちょっと違うな。装飾としては使えそうだが・・・ん?」
ベンターは、部屋の奥に固まる赤い石に目をむけると、息を詰まらせた。
「おい、どうし・・・」
フェンが声をかけようとすると、地面が揺れだした。
奥の赤い石が地面から隆起する。
現れたその巨大な赤石は、亀の形をしていた。
「オオオオオオオオーーー」
低音の咆哮が周囲に響いた。
「あの赤い石の塊、モンスターだったのか。あれも装飾に使えるのか?」
「なかなか鉄鋼石みつからねえな。この洞窟はもう奥がねえぜ?どうする?ベンター」
「っっは!?あんた達、何この状況で落ち着いてるんだ!?こんな巨大なモンスター、危険だ!早く逃げるぞ!!」
「ひぃっ!やばいやばいっ!こっちくるよ!先生早く!逃げよう!!」
リンが俺の手を強く引っ張った。
赤亀が突進してくる。
「二人とも待ってくれ、大丈夫だ。見た感じそんな強くなさそうだぞ」
「あんた何いってるんだ!見た感じどう考えても危険だろ!!」
俺は盾を前に出し、スキル"ガード"を使った。
突進してきた赤亀を受け止める。
「せっかくだからこいつも訓練に使おう。俺が攻撃を防ぎ続けるから、リン。こいつに攻撃を加えてくれ」
「はあ!?今のを防いだだと!?ゴブリンの盾で!?」
「ええっ!?今なんて言いました!?私が!?これに!?」
ベンター、リン、二人ともパニックになっていた。
赤亀はとても巨大だ。無理もないか。
フェンを見ると、寝そべっていた。何も手伝う気はなさそうだ。
「・・・いや、やめておこうか。これは俺が倒そう」
「いや無茶だ!このモンスターのことは知らんが、おそらくあの身体の石は赤幻石、最高硬度の鉱石だ!ゴブリンの剣では絶対に斬れん!」
赤亀は頭も尾も含めて、全身がその赤幻石で構成されていた。
確かにこれは普通に斬ることはできなさそうだ。
「そうなのか、わかった。ならスキルを使うさ」
俺は盾を捨てて跳躍し、赤亀の頭上で両手で剣を振りかぶる。
「スキル!?あんた、戦士だろ!?スキルっていっても・・・」
赤亀は、宙にとんだ俺を噛みつこうと首を伸ばした。
「遅い!――――強撃!!」
剣を頭上から振り下ろす。
スキル発動により強化された剣筋は光を帯びていた。
振り下ろされた一筋の光は、赤亀を正中線から真っ二つに両断した。
赤亀の倒れた衝撃により、地面が振動する。
俺が着地した瞬間、持っていたゴブリンの剣は亀裂を生じて砕け散った
「・・・確かに硬かったな。剣が壊れてしまった」
後ろへ振り返ると、二人が口を開けて固まっていた。