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22/24

19 城へ

大変遅くなりました!今後は1週間ごとの投稿を目標に頑張ります!

私の剣を片手で受ける実力、蛇使い。


「・・・四魔天、ヨルム・・・」


掴まれた腕を起点に身体を捻り、ヨルムを蹴飛ばす。

拘束を逃れ宙で回転し間合いをとり、再度短刀を構えた。

全力で蹴ったにも関わらず、ヨルムは微動だにしていない。


「ええ。私を知っているのなら話が早く済みそうですね。目的地まで案内しますので、付いてきてください」


スキル"サーチ"には反応がなかった。つまり・・・


「お前も魔王ヘルのアンデッドなのか・・・?」


「そうです。恥ずかしながら、殺されてしまったので」


「・・・なんなんだお前らは!ふざけるな!」


会談の場でシスタを奪ったのは能力から考えてほぼ間違いなくスキャット。そして予想通りヨルムも復活していた。

結果、失ったはずの魔族の総力は何も変わっていなかった。

あまりに理不尽。

人族にとって・・・、私にとって最悪の状況だ。


「ふざけてませんよ。私も死にたくはなかったのですから。ただ、先に言っておきますが、私はヘルに味方するつもりはありません」


「・・・はあ?何を言っている!」


ヘルのアンデッドだ。ヘルに逆らえる筈はない。

短刀を強く握りしめ、ヨルムを睨む。


「ではヘルの能力、反魂の説明をしましょう。反魂には2種類あります。一つは死者の魂から魔素を使って身体を精製すること。私に使われた能力です」


おおよそマーヤの予想通りだった。

アンデッド化に必要なものは魂。

身体は必要なかったのか。


「彼女はアンデッド化した者の反魂後の記憶を読むことができ、どれだけ離れていようとアンデッドが感じた五感を同時に得ることができます」


つまり、今ヨルムが見聞きしていることは全てヘルに筒抜けということ。

自分が追って魔界へきたことは、ヘルに気付かれてしまった。


「そしてヘルがアンデッドにできることは、魂の損傷と反魂の解除です。自分の意に沿わない行動をした者に、いつでも痛みか死を与えることができます」


「・・・なら、私に魔王の能力をバラしているお前は、魂を傷つけられているのか?」


私の問いに、ヨルムは微かに笑った。


「嬉しいことに、私の魂は頑丈のようです。彼女は私に永遠の死を与えることはできますが、傷つけることはできません」


「つまりヘルはお前を操ることはできない。今お前が私の前にいるのは、自分の意思だと言いたいのか?」


「ええそうです。これから起こる大戦のためにまだ私を失いたくないのでしょうね」


「・・・ちっ、なめてんな・・・」


ベラベラとヘルの能力が喋られているのにも関わらず、ヨルムを放置している。

私など気にする必要は無いということか。


「わかった。案内しな」


たとえヨルムの言っていることが嘘でも、私のすることは変わらない。戦えば確実な死。逃げることは不可能ではないはずだが、肝心のシスタの場所は不明。逃げるのはシスタの場所がわかってからだ。


「では行きましょうか。魔界へようこそ」


------------------


夜が明けスキャットの家を出発し、城の方へと歩き続ける。


遭遇するモンスターは徐々に強くなっている気がするが、エンドの森のダンジョンのモンスター程ではない。


特に苦戦もせずに先へと進む。


「しかし、グレン。ほんとお主は規格外の強さじゃな。ここに出るモンスターを一撃で粉砕していくとは」


「買い被りすぎだよ。人族にも俺より強い奴なんてたくさんいるし」


俺の言葉に、ニールは目を見開いた。


「なに⁉︎人族にはこんな化け物みたいな奴がたくさんいるのか⁉︎」


「化け物・・・」


「んなわけねえだろ。グレンのバカさはもうわかってんだろ?間に受けてんじゃねえよ」


道中二人にいじめられながらひたすら進んで行くと、俺達の前に2体の巨大な銅像が現れた。


2体は向き合い睨み合っている。


「すごいなこれは。なんの銅像なんだ?」


「この2体は魔神ハデス、女神アテナじゃな。魔族に伝わる神話の神様じゃ」


「魔界にもくだらねえ神話があるんだ。2体の軍勢が戦った影響で、この地は魔素が発生するようになったんだと」


夕刻にもなると、昨夜のフェンの怒りは一旦収まっていた。


「魔神ハデスの子孫が魔族、女神アテナの子孫が人族と言われておる。我も女神の子孫がよかったんじゃが」


「魔神もカッコいいじゃんか。人族にはそんな神話は伝わってないよ」


銅像を起点として、先の道は街灯が灯されている。


「すごいな。これもしかして全部魔道具か?」


「ああ。魔界では人界みてえに火を使わねえからな」


「ほお、人界では火で灯りをつけるのか。見てみたいものじゃな」


街灯に沿って家が点々と建っている。

魔族も暗い場所より明るい場所に住みたいようだ。


「おい、なんで人間がペット連れてこんなところにいんだ?」


声のする方へ振り向くと、銅像の陰に魔族が寝転がっていた。

魔族は小人で、無精髭を生やしている。


「ペットじゃなく、俺の親友と仲間だ」


俺の台詞が終わらぬうちに、小人はフェンと視線を合わせると起き上がった。


「お前・・・まさかフェンリルか?」


「ああ。久しぶりだな、ゴン爺」


「てめえ!どこ行ってやがった!元気だったか⁉︎」


ゴン爺と呼ばれた小人は、フェンの頭を雑になでた。

フェンはうざそうに、頭を動かして振り解く。


「まだくたばってなかったんだな、ゴン爺」


「てめえこそ、どっかで野垂れ死んでると思っていたぜ。苦労してたのか?真っ白になっちまって」


「むしろ楽させてもらっていたぜ。まさかこの像はゴン爺が作ったのか?」


「ああ。いいできだろ?最近仕事がなくて暇だったからな」


フェンにゴン爺を紹介してもらう。

ゴン爺は凄腕の鍛治士で、魔界で魔道具の灯りを初めて作ったのはゴン爺らしい。


「最近城の仕事は請けてねえのか?」


「・・・請けてねえよ。あまり近寄りたくねえ」


顔を曇らせたゴン爺は静かに呟いた。


「ゴン爺・・・、城の奴らが全員アンデッドになってるって本当なのか?」


「っ!・・・もう耳にしてんのか」


「どうなってんだ?ヘルは何をしようとしてんだ」


「・・・知らねえよ。気味が悪い」


ゴン爺は城の設計、建築に携わっていた。

竣工後も改装に関わってきたらしい。

だが数年前から違和感を感じ、城からの仕事は請けなくなったそうだ。


「断定はできねえ。だが、全員アンデッドになっているってのはおそらく本当だと思うぜ」


「・・・ちっ、やっぱりな。とっとと行くぜ、グレン」


フェンは俺達を急かし、先へ行こうとする。


「ちょっと待て!一回俺の工場へ寄ってけ。フェンリルに渡したいものがある」


慌ててゴン爺はフェンリルを引き留めた。


「なんだ?別になにもいらねえぞ?」


「いいから来い。本当は10年前に渡したかったものがあるんだ。ったく、待たせやがって」


「・・・10年前?」


俺達はゴン爺について行った。


着いた場所は巨大な工場だった。

ゴン爺と瓜二つの小人がラインを多数稼働させている。


「仕事が無いって言っても、充分稼働させてんじゃねぇか」


「そりゃあ全く無いわけじゃねえからな。こっちだ、来い」


工場の奥に事務所があり、みんなで中に入る。

ゴン爺は金庫を開けて中の物を取り出し、フェンに投げ渡す。


「ほらよ。確かに渡したからな」


それは真っ白な輪っかだった。


「はあ?なんだこれ。首輪か?」


「そうだ。お前にピッタリなサイズに作ってある」


急に周囲の温度が上がる。

フェンの毛先が少し赤くなった。


「てめえ・・・、俺は犬じゃねえぞ?喧嘩売ってんのか?」


「っ!勘違いすんな‼︎俺は頼まれたものを作っただけだ!恨むなら依頼した奴を恨め‼︎」


「はぁ?一体誰が・・・」


首輪を眺めていたフェンは、何かに気付いて動きを止めた。


「・・・アングか?」


「ああそうだ。言われた通り、あいつの肌の色に合わせて作ってある。今となっちゃあ形見みてえなもんだからな。お前に渡すまでとっておいた」


フェンの毛先は白に戻った。


「その首輪は魔力を溜め込むことができる。10年分の魔力が溜め込んであるから、どれだけ無茶しても魔力は尽きねえはずた」


フェンは首輪を見つめ、少し悩む。


そして、俺に首輪を手渡した。


「グレン。この首輪、俺に付けてくれよ」


「・・・ああ。わかったよ」


俺はフェンに首輪をつける。

プライドの高いフェンが、首輪を付ける。


フェンにとって、アングはそれだけ特別なんだ。


「似合っておるぞ、フェン様。ますます格好良くなった」


「うるせえ」


少し顔が赤い。

だけど、怒ったから赤くなっているわけではなさそうだ。


「もう夜だから、今日はここで泊まってけ。この10年何をしていたのか教えてくれよ。お前らの馴れ初めも聞きたいしな」


言葉に甘えて、俺達は工場に泊まらせてもらった。

ゴン爺は人界に興味津々で、ベンターに作ってもらった剣を見せたら大興奮だった。

とても話が弾み、用事が終われば人界へ連れて行くと約束した。


明日の朝出発すれば、夜には城へ着くそうだ。

いよいよヘルに会える。


------------------


「どうかしら、シスタ。人界から取り寄せた材料で作らせたのだけど」


魔界の食材には少なからず魔素が混入しており、これまで魔界で食べた料理は私の体調を悪化させてきた。


私の生死が戦争の起因になる可能性は高い。

方法は模索中だが人界へ生きて帰るために、どんな食事であろうと摂って体力をつける必要があった。


だが今食べている夕食はとてもおいしく、私の身体に合っている。


「大丈夫です。ありがとうございます」


「そう。よかった。・・・そういえば、あなたの知り合いが今魔界に来ているみたいね」


「・・・っえ⁉︎」


知り合い?誰のことを言っているの?まさか・・・グレン様?


「あの会議の時に同席していたショートカットの女性よ。どうやらあなたを取り戻しに来たみたいね」


「クレア‼︎・・・彼女をどうするつもり⁉︎」


「今ヨルムと一緒にいるわ。私としては、せっかく魔界にいるのだし、すぐに殺して反魂してあげたいのだけど・・・」


「ダメよ‼︎彼女に手を出したら許さない‼︎」


私は立ち上がってヘルを睨みつけた。


「ふふっ。許さない?あなたに何ができるの?」


強く握りしめた手に、爪が食い込み血が滲み出る。

何もできない自分は彼女を睨みつけることしかできない。


「・・・とりあえずは安心していいわ。まだ殺さないから。というより殺せないのだけれど」


「・・・え?」


「私も腹が立つけど、ヨルムは私の言うことを聞かないの。能力を解除していつでも殺すことはできるのだけれど、彼の価値を考えたらまだそれはできない」


ヘルから能力の説明は聞いた。彼女の反魂で復活させることは一回しかできないらしい。


「でも、彼はその人族とこの城に向かってきているわ。残念だけど、この城に着いたら例えヨルムを失うことになっても彼女は殺す」


「っ!・・・そんな・・・」


「彼が何を考えてるのかはわからないけど、その結末は変わらないわ。でも安心して。反魂で復活させた後は、この城であなたと暮らしていけるから」


そんなことは絶対にさせない。もし城に来たのであれば私のエリアヒールの範囲内だ。

彼女は死なせない。

そのためにも体力をつけなければ。


私は椅子に座り、再び食事を続ける。


「話は変わるけど、シスタはサガミの戦いのことは知ってる?」


「ええ。私も途中から参加していたから」


ヘルの表情は笑顔に変わっていた。


「あの戦いの後にヨルムは大きな傷を負って魔界へ戻ってきたの。そのおかげでようやく彼をアンデッドにできたのよ。あなたも知ってるのかしら。その傷を負わせたのが・・・」


グレン様だ。ヘルも彼の存在に気づいている?

あの戦いの後、魔界へ来ているはず。

まだ無事であって欲しい。


「フェンリルよ!ヨルムから聞いたわ‼︎彼は生きていたの‼︎ヨルムにあそこまで傷を負わせるなんて、さすがでしょ‼︎」


・・・違う!ヨルムに傷を負わせたのはグレン様。フェンリルは町の外で人族、魔族を撤退させていただけ。ヨルムは彼の存在を話していないの?嘘をヘルに教えた。何故・・・


「ああ私のフェンリル。早く魔界へ来てくれないかしら。すぐに反魂してやるんだから。もう絶対私の側から離れさせない」


ヘルは両手を頬に当て、恍惚な表情を浮かべた。

彼女にとってフェンリルは特別な存在のようだ。


食事が終わり、去り際にヘルは振り向いて言った。

「今日はゆっくり寝た方がいいわ。ヨルム達は全速力でこっちに向かってるから、明日の夕刻には城へ着くはず。楽しみね」


・・・たとえ私がどうなろうと必ずクレアは死なせない。

私は覚悟を決めた。

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