01 外出
展開早い小説頑張ります
「エリア・・ヒール・・」
杖を支えになんとか立ち上がり、魔法を唱えた。
だがMPが足りていない。魔法は発動しなかった。
エンドの森にあるダンジョン、竜の祠。
パーティメンバーは十分な戦力を揃えたはずだった。
剣聖レイン、守護神カムド、賢者マーヤ、そして私、聖女シスタ。
最奥まで到達したが、パーティーは壊滅してしまった。全員息はあるようだが、私以外立ち上がることすらできないようだ。
最奥まではこれたが、ダンジョンボスの赤竜を前に歯がたたなかった。
今回、国家から受けた仕事は調査がメインであり、討伐は可能な範囲でとのことだった。
判断ミスと言わざるをえない。ダンジョンボスと闘う必要はなかった。
全員たおされてしまった。
魔力の尽きた私では無力だ。なにもできない。
赤竜が腕を振り上げた。私は目を閉じた。
ガキン!
・・・甲高い音がした。痛みはない。
目を開けると、黒髪の男が盾で赤竜の腕を受け止めていた。
「・・・え!?」
男は反対の手で剣を振り下ろし、赤竜を一刀両断にした。
赤竜の倒れた衝撃で地面が揺れる。
「えっ!?・・・えっ!?」
ここはエンドの森、東の果てのダンジョン。人がいるはずのない竜のダンジョン。
なぜここに人が!?今の一撃で赤竜が!?
頭がパニックになった。
「あ・・・あの・・」
なんとか声を発するも、黒髪の男はこちらを振り向きもせずに去っていった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――-
「フウリ陛下、エンドの森のダンジョンは、軒並みS級相当になっていると思われます」
ダンジョンボスが討伐されると、モンスターは消え去り数日間発生しない。あのあと私達は無事帰国することができた。
すぐさまイースト・カイの国王、フウリ陛下へと面会を申し出ていた。
「まさかあの地がそんな状態になっているとはな。不気味ではあるが、あの地でモンスターパレードが発生しようと、国民に被害はあるまい。調査ごくろうであった」
エンドの森は人里からかなり離れており、約20年前の調査ではE級ダンジョンしか見つかっていなかった。
さらにエンドの森のダンジョンモンスターはアイテムをドロップすらせず、誰からも注目されなかったエリアである。
占いにより、近いうちに国の東でモンスターパレードが発生するとの予言があった。
モンスターパレードとは、ダンジョンからモンスターが溢れだし周囲に危害をおよぼすことである。
東の町サガミ付近のダンジョンを調査・攻略していたが、モンスターパレードが発生する予兆はなかった。
そのため、ついでにエンドの森を20年振りに調査することとなった。
そもそもエンドの森は東の町からかなり離れており、モンスターパレードが発生しようと町に危険はなかったのだが。調査メンバーの実力からいって、簡単に調査は終わるはずだった。
「黒髪の男の件だが、お主達ですら倒せない敵を一刀両断するならば、名が知られていないはずは無い。捜しだし、礼をしなければなるまい」
「すぐに各教会に調査を依頼しました。あれほどの実力があるので、間違いなく神職を授かっているはずです。神職の人数は少ないので、すぐに見つかる
と思われます」
この世界では、全ての人が15歳になると教会で天職をさずかる。天職は基本的に一般職、戦闘職に分かれており、戦闘職の中でも下職、上職があり、そして数年に一人、神職に選ばれる者がいる。
私達が組んだパーティーの聖女・剣聖・守護神・賢者は全員神職だ。
当然職業によって使用できるスキルは異なる。神職でなければ、ドラゴンを一刀両断するスキルなど存在しないだろう。
だが世界中の神職を調べても、該当する男はいなかった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――-
「ふうっ・・・」
家に帰った俺は、武器を置いた。
今日も日課のE級ダンジョン巡りを終えてきた。
珍しいことがあった。
20年振りに人と出会った。
あまりにも人と会話をしてこなかったので、なにも話をできず、逃げてしまったが・・・。
だがダンジョンボスは倒したので、無事帰れているはずだ。
俺は15歳の時、天職に戦士を授かった。戦士の職は、戦闘職の下級職だ。
基本的に戦士の職を得たものは、そのまま国の兵隊となる。
しかし人嫌いだった俺は、エンドの森で一人暮らしをすることにした。
ここには誰もおらず、自然が豊かで食料に困らない。
戦闘に必要な武器・防具については、野生のゴブリン等モンスターからドロップできる。
ダンジョンが多数あるので復活したボスを倒し廻り、十分な運動もできている。
また、人間ではないが、話相手の相棒もいる。
「おっ!?帰ったか、グレン」
「ただいまフェン。飯すぐ用意するからな」
フェンは10年前に森で出会った犬だ。傷だらけのフェンを介抱したら、仲良くなった。
俺にとって大事な相棒で、唯一の話相手だ。
食事の際、今日あったことを話した。
「グレン・・・。お前、最低な奴だな。普通アフターフォローぐらいするだろ・・・」
「くっ・・・、しょうがないだろ!人と会ったのは20年振りなんだから!」
「いい年こいてなにやってんだ。まあお前らしいよ」
パーティーが損壊していたのは、俺のなじみのE級ダンジョン。まだみんな初心者だったのかもしれない。
きっとヒーラーの子も不安だっただろう。悪いことをした・・。
しかし”パーティー”。いい響きだ。
気になったので、食事のあと再度ダンジョンへ行った。
やはりボスを倒したことで、ダンジョンモンスターはすべて消えていた。
ボスの部屋へ行ったが、誰とも会えなかった。無事帰れたのだろう。
「・・・ん?」
部屋のすみに、ペンダントが落ちていた。
拾ってみると写真が付いていた。銀髪の母親と、娘が写っている。
娘は、あのヒーラーの子だろう。これは大事なペンダントではないのだろうか。
彼女はおそらくこの森にはもう来ない。
この森に俺がいる限り、このペンダントを渡すことはできない。
・・・実は最近ずっと考えていたことがある。今の生活は、自給自足はできていてフェンもいる。何も問題はない。だけど・・・。
翌朝、ペンダントを拾ったことをフェンに話した。
「・・・それで。どうすんだ?グレン」
「俺、最近ずっと考えてた。このままでいいのかって。お前と一緒にいられて楽しいけど、毎日が何も変わらない。お前以外誰とも会わず、話をせず、世界でなにが起きているかもなにも知らない。俺にとっての世界とはこの森だけで、すごく小さい」
フェンは何も言わず、じっと俺を見ている。
「・・・グレン。外の世界ってのはそんないいものじゃないぜ?人間ってのは綺麗なもんじゃない」
「わかってる。でも、俺はもう外にでたいんだ。この森をでて、ペンダントを渡しにいくよ。そして、森にはもう戻らない。人の町で暮らしていく」
「・・・まあ、なんか考えてんだなと思ってたけどよ。そうか・・・」
「フェン、最初に会ったときに、お前が人間を嫌ってたこともわかってる。だけど一緒にきてくれ。お前と一緒に行きたい。」
「はあ!?・・・お、おう。当たり前だろうが、相棒」
そして、俺の森での引きこもりは終わりを迎える。
まだ俺は世界になにが起きているのか、何に巻き込まれていくのか。なにもわかっていなかった。