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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

勇者と魔王シリーズ

とある勇者の悲劇。~そして勇者は~

作者: EternalSnow

練習作


 世界には、魔王と呼ばれる存在があった。

 魔王はすべての人々の命を食らうもの。

 人に死を告げ、人々を殺し続ける絶対的な悪。


 そう俺は教わった。

 始源の勇者も、2代目の勇者も、今までの数多の勇者が魔王を倒し世界を救った。

 魔王は絶対的悪で、世界を滅ぼし、人々への絶望の象徴だ。


 そのはずなんだ。


「ひっく、ひっく」


 なんだ、コレは?

 俺には勇者として選ばれ、魔王を斬る存在である以上、魔王が誰かわかる。

 コレが魔王であることはわかる。

 ならば、斬るしかないのだ。

 コレを魔王として、即座に斬り捨てなくてはならない使命を持っている。


 だが動けない。

 コレを殺すことができない。

 理性が本能を拒絶している。


「やめて、やめてくれ」


 守るために、俺は。俺はこの世界を救うと決めた。


 刺し違えてでも、俺は魔王を討つと決めたのに。

 勇者として、魔王を斬れと叫んでいるのに。

 俺には、この子を斬れない。


 大切なモノを守るため。

 世界なんて正直どうだっていい。

 ただ、大切なあの子を守りたいがために、戦い続けてきた。

 そのはずだったのに。

 そのためなら、何をおいても切り捨てるつもりでいた。


 この少女がまだ魔王として覚醒しきっていないだけで、

 いつコレが魔王となり人々を傷つけるのか分からない。

 それは知識として理解していたはずなのに。


 体が動かない。

 動かしたくない。

 両手を広げて、俺からこの少女を守ろうとしている少年が、昔の俺とダブって見えた。

 唇をかみしめて、鉄の味がした。


 目の前で泣いて怯える少女を傷つけるために勇者になったわけではない。

 ただ、大切な人を守りたいと願っただけだ。

 なら、俺はここで斬り捨てる理由なんて、ない。


「魔王、アンタは誓えるか?」

「ひっ!?」

「お前っ!?」


 俺はただ、大切なあの子を守るためだけに戦い続けただけだ。

 正直、世界なんてどうなったってかまわない。

 あの子を守るために最善を考えた結果に過ぎない。


 それを考えて、この少年を斬ってこの少女を斬るなんて……俺にはできなかった。


「アンタも人間なんだろ、もう人を殺すな。

 それを誓えるなら、俺はお前を見逃そう」

「……見逃してくれるの? アナタも勇者なんでしょ……?」


 見開いた目から水が落ちているのを見てしまった俺には、もうこの少女を斬ることはできなかった。

 衝動のままに斬り捨てようとしても、体が動かない。


 少年が警戒を強めてはいるが、それも当たり前だと思える。

 魔王を殺す存在でもある勇者が、魔王を見逃そうとしているのだから。

 俺の後ろにあるおびただしいほどの魔物の死骸や巨人や悪魔は俺が築き上げたモノだし、

 この少女を守るために少年が俺を警戒するのは、今でも当たり前だと思うからな。


「アンタが人を殺さないと誓えるのならな」

「誓います。私は決して人を殺すつもりはありません。

 だけど、魔物たちを抑えることができないかもしれないの……それでもいいの?」

「……可能なら、抑えてはほしいが構わない。

 どんな優れた王であっても、民衆を抑えることはできないらしいからな。

 魔王が……絶対的強者であるアンタが戦場に出ない、それだけで十分だ」


 魔王を殺すことができるのは、勇者のみだ。

 勇者以外の存在は、魔王と相対しその場に立っていること自体が奇跡に等しい。

 億の軍勢で相手にしたとしても、魔王の前ではちり同然だ。

 正しく、本気の一振りで何万という人間が殺される。


 明確に勇者だけが魔王と相対できる存在にして、魔王を殺すことができる存在だ。

 それだけの権能を、神々より勇者には与えられている。

 だから、俺という平民が勇者として貴族待遇でもてはやされている。


 正直、どうでもいい。

 人類の救世主ともてはやされる理由もない。

 魔族との戦争なんて、勝手に特権階級のお貴族様がやればいい。

 魔王を倒せば、お姫様との結婚ができるとかほざかれたが、

 あんな高飛車な女など俺には必要ない。


 魔王が死んでも、勇者として与えられた権能がなくなったとしても、

 俺が積み上げてきた身体能力は消えることはない。


 俺は、魔王を見逃した。

 それが、俺の最大の過ちであったと、その時に気づくことはできなかった。

 今なら、それを理解できてしまった。







 これは神々の罰だったのかと思う惨劇だった。

「あ、ああ!」


 俺の故郷は、燃えていた。

 村であったため、帝都と違った木造の家のすべてからパチパチと音を立てて崩れていっていた。

 血の匂いと焦げた肉の匂いが立ち上り、モクモクと煙がたっていた。


 城での謁見を済ませて、魔王との相対が適わなかったと報告し、一旦故郷に戻った矢先の話だった。

 俺は一心不乱に村に走っていた。


「おい! 誰か!? 誰かいないのか!!」

 助けるために声を上げていた。

 心なしか声が震えていたのだと思う。

 人が燃え上がって出る鉄の匂いを嗅いで不安が加速していく。


 リアはどこだ? どこにいる!?


 そんな思考でいっぱいだった。


 あの子の笑顔が浮かんだ。

 俺の味方になってくれた唯一の幼なじみ。

 両親にすら捨てられた俺を、助けてくれたたった一人の好きな人。


 燃え上がった死体しかない村の中で、俺の数倍は大きい巨人族の魔物が現れた。

 ズシンズシンと一足ごとに重たく地面を揺らしながら、歩いているのが見えた。


「ぎゃは、ぎゃ」

「邪魔だ」


 笑いながら、歩き回るそいつを一太刀で斬り捨てて、探した。


 斬り捨ててなお、人ならざる言葉。

 笑い声のような言葉が響き続けた。

 両腕に抱え込まれるようにある大量の首のない人形・・を見て、俺は目を見開いていた。


 それは俺が知っているモノだった。

 この村の特産であるカヤの草で作った服を着せられた人形・・を見て、

 俺はただ衝動的に飛び出して、一刀の元に巨人の魔物を切り捨てていた。


 ビチャビチャと音が立つ。

 その巨人が向かっていた方向へ走った。

 すごく嫌な予感がした。


 俺は駆けだしていた。

 その光景を見ていることができなかった。

 腰元の剣を引き抜いて、魔物たちを切り捨て続けていた。

 何万いるのか分からない魔物たちを、血に塗れ、頭から血を噴出しながら。



 残ったのは青く魔物の血に染まった大地と、燃え落ちた家屋。

 そして、広場に並べられた何も語らぬ……並べられた丸いナニカだった。

 その中には、俺の大切なモノもあった。



「あ、ああ……あああああああああああああああああああああ!」



 地面を強く殴りつけていた。

 勇者の力が混ざっていたのか、地面に大きく罅ひびが入ったように割けていった。



 理解、していたつもりだった。



 魔王がどんなに抑えても、魔物は所詮魔物だ。

 あの少女がどれだけ頑張っても、魔物は理性なんてない。

 あの暴挙を止めるためには、魔王を殺すしかない。


 魔王が望もうと望まないと、

 魔王が居る限り、魔物は人を殺すという衝動を抑えることはない。


 俺は土の魔法で地面に穴をあけた。

 一つずつ丸いナニカを穴へと入れていく。

 一つの丸いナニカで俺の動きが止まったが、これをしなければ……もう眠れないだろうから。


 土をかけていく。

 湿っぽくなっていく土を感じながら、俺は丸いナニカを埋めて、天に祈っていた。





「勇者殿! これは……!」


 それからどれだけの時間が経ったのか分からないが、帝国の兵士たちがやってきた。

 どれだけ考えてきたのか分からない。

 たぶん村長さんが救援を要請していたのだろう。

 でなければ、1日はさすがに経っていないのに、これほど早く来れるはずがない。


「今更、何しに来た」

 こいつらに言ったところで何も変わりはしない。

 理解しているのに口から言葉が紡がれていく。


「勇者殿……?」

「いや、それは俺だな。今更だわ。ホント」


 地面にまた一つ拳を降ろした。

 その一撃で、地面にひびがはいって地面が揺れる。



「……勇者様。これで分かったでしょう?

 魔王を殺してください。

 私たちでは……

 いえ、勇者でないモノではこの悲劇を止める手立てはないのです」


 この惨状に似合わないドレスを着込んだ姫様が居た。

 顔がこの惨状を見て、真剣な表情で言っていて、いつもの高飛車な態度はなかった。

 優しく語り掛ける声が聞こえるが、どうでもいい。


 ただ、その言葉が染み込んで、何度も聞こえた。


 魔王を、あの少女をあの時斬っていればこの惨状は起こらなかったのではないか?

 勇者たる俺が、勇者の役目を果たさなかったから?


 だから、リアは?

 俺が、甘ちゃんだったからか?


 この悲劇は俺が目をそらしていた現実だ。

 もう、俺は俺が許せない。


「知らん。帝国がどうなろうが知ったことじゃない。

 もう人が死んでいようが知ったことではない。

 だが、俺は魔王を討つ。俺がリアの仇を討つ」


 勇者の証であり、俺が5年間と手にすることはなかった装備。

 崩れ落ちた俺の家から、一振りの剣と赤いマントを羽織った。


 聖剣と勇者の証である赤きマント。

 勇者のみが持つことを許された最強の剣と勇者が勇者たる印とされるマント。

 可能なら、リアにもあの魔王にも笑って生きていてほしかったんだ。

 だけど、それが間違いだった。


 俺は甘かった。

 それがこの惨状で、世界に起こり続けていると知っていたはずなのに。

 自分の身に降りかかるまで、ただ目をつむって見えないようにしていただけだ。


「勇者様……あの」


 そう殺せばいい。


「ああ、殺してやるさ。

 たとえ、外道と呼ばれようと、人でなしと呼ばれようと、なんと呼ばれようと知ったことか。

 彼女を殺した奴ら全て……根絶やしにしてやる!」


 強く握りしめた右手から、ぽたぽたと何かが零れ落ちた。





いかがでしたでしょうか。

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