仲良しグループラインに友人と誤爆連投したら、翌日から女友達の態度がおかしいのだが……どうしよう
※画面サイズによって見にくい部分があります。
「ほ、ほら、孔明。いつもパンばっかりだと力でないだろ? べ、弁当作りすぎたからこれやるよ」
「あ、あぁ、ありがとな」
休み時間に廊下で突然渡された、可愛らしいランチクロスで包まれた弁当。
受け取った俺を見て、満面の笑みで去っていくのは女友達の智香だ。
……これで今日3個目の弁当なんだが、俺に相撲レスラーを目指せというのだろうか?
ポケットから伝わる振動にスマホを取り出すと、光司からのラインだ。
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| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
| ご愁傷様!! |
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∧ ∧ ||
( ゜д゜)||
/ づΦ
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コミカルな猫が「ご愁傷様」と書かれた看板を持つスタンプが添えつけられている。
彼女達の態度がおかしい原因は……おそらく昨日の事件のせいだろう。
俺のラインには「1-C」というグループがある。
県立港山高校に入学した時、クラスで作ったライングループだ。
あまりの投稿の多さにあれよあれよと人数は減り、それにつられてまた1人、また1人と退出していった。GW明けで残っていたのは6人。
グループ発足以来、無言を貫いていた連中である。
野球部のエースでイケメン、性格良しの文武両道の男こと隆之。
軽音部で我が校の人気No.1。4人の彼女を持つと噂話される光司。
地味ながらも清楚系文学女子で学年上位の才女。密かに男子から人気のある葵。
男勝りだが面倒見が良く、スポーツ万能なのに吹奏楽部の智香。
絵に書いたような大和撫子。ファンクラブさえある弓道部のアイドル、瑠衣。
そして凡人以外の何者でもない俺。
俺1人が浮いてる……いや、沈んでるメンバー構成だが、羨望の眼差しでみている奴らは多い。
まぁ、それは俺以外の連中が有名人だからなのだが。
普通なら交わる事もなかった6人。
キッカケは5月半ばの授業中に、何気に送った俺の一言だった。
『現国の山田先生ってさ、ヅラだよね?』
その時の授業はもちろん現国。
無言を貫く連中だし、独りごちるつもりで打ち込んだ。
不意に誰かが吹き出す。
それに釣られてまた誰かが吹き出す。
しまいには俺も笑い出し、短気な山田先生は「廊下に立ってなしゃい」と追い出した。
まぁ、廊下に立たされたのがその6人だったわけだ。
光司や智香はともかく、真面目な隆之や葵、瑠衣が授業中にスマホを見ていたのは意外だった。
ってか、あんなに早く気づくのがおかしい。
後に葵が「運命は必然によって作られているのだよ」と眼鏡をクイと持ち上げて言っていたが、俺には意味が分からなかった。
それをキッカケに少しずつ喋るようになったのだが、性格の違う6人。どこでどう馬が合ったのか、気がつけばいつも一緒に休み時間を過ごすようになっていた。
放課後は野球やバンド、吹奏楽に弓道、読書に帰宅とバラバラだが、夜になるとラインで盛り上がる。
2年になってクラスが別々になっても、そんな生活は変わらなかった。
で、昨日の事だ。
仲がいいとはいっても男と女。
男性陣には『1ーC(男)』が、女性陣には『1ーC(女)』のグループラインが存在し、それは6人全員が知っている。
『1ーC』で来月に控える文化祭の話をしていると、『1ーC(男)』に通知が届く。
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光『そういえば孔明の好きなタイプって
どんな女だ?』
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ちょうどテレビでは芸能人の恋愛模様を暴く番組。俳優や芸人が自分のタイプを語っているところだ。
光司はよくテレビから話題を持ってくるので、同じものを見ているのだろう。
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隆『俺も気になる』
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隆之まで乗ってきた。
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孔『誰も女が好きとは言っていない!』
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と、はぐらかすラインを打ったのだが、2人からはドン引きを表すスタンプがすぐさま送られてくる。
我が校のモテ男四天王に名を連ねる2人に、俺のような凡人が好みを語る意味はあるのだろうか?
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光『はよ言えw』
隆『孔明、言うは一瞬の恥、
言わぬは一生の恥だぞ』
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まるで修学旅行の夜のような怒涛の攻めに、ついに俺も折れた。
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孔『やっぱり家庭的な子かな?』
光『アバウト過ぎ。てか親父かお前は』
隆『詳細求む』
孔『手料理が上手だと安心するだろ?
手作り弁当とか憧れるだろ?』
光『愛情に飢えた子供か!?』
隆『まぁ分からんでもないが。まさか好きな
タイプは料理上手な女性で終わるつもり
じゃなかろうな?』
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くっ、こいつら引く気はないらしい。
その後も気遣いが出来る女の子がいいとか、笑顔が可愛い女の子とか、急にデレられたいとか色々言わされた。
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隆『で、顔の好みはどうなんだ?』
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質問に好きな女優の名前を書こうとしていると、割り込みが入る。
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光『智香、葵、瑠衣。三択から答えよ』
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全くコイツは。
確かに3人ともタイプが違うから分かりやすい3択かもしれないが、そんな風に意識したことはないぞ。
しかもコイツらの事だ、下手に名前を上げれば妙な気を起こすのは目に見えている。
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孔『それ聞く?』
光『聞く』
隆『男には聞かねばならない時がある』
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じゃあお前らが先言えよと言いたいが、コイツら彼女持ちだし。
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孔『智香は無邪気で可愛い。
葵は清楚で綺麗。
瑠衣は凛として美人』
光『答えになってねーし』
隆『そなたそれでも武士か?』
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くそっ、どうあっても1人を選ばせたいらしい。
――その時。
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光『あのさ、今更だけどけどグループ
間違ってね?』
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届いたのは『1ーC(男)』ライン。って、今ままでは『1ーC』で話していたのか?
どこからだ!?
慌ててスクロールしていくと光司の『はよ言えw』からだ。
俺は血の気が引いていくのを感じた。
なんで気付かなかったんだ。
既読の数は5。
つまり全員が見ていたって事だ。
せめて女性陣の誰かが一言でも、いやスタンプでも入れてくれていれば。
今更間違えましたとも書き込めない。
違う話題を振るか。いや、無理だろこれ?
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光『えー、今日はお疲れ様でした』
隆『さっ、明日は朝練だ。
早めに寝るか』
孔『バカヤロー!
せめてフォローしろー!』
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だが俺の一言を最後に『1ーC(男)』にも『1ーC』にも新たな通知が来る事はなかった。
翌朝、どれだけ学校を休もうと考えただろう。
いや、大丈夫。きっと智香なら「なに昨日のアレ? ふざけ過ぎ」と笑い話にしてくれるだろうし、葵なら「一応見なかったことにしておくよ」と流してくれるだろう。瑠衣は……冷たい目で見るかもしれないが、智香と葵がフォローしてくれるはず!
そんな一縷の望みを持って登校すると、校門で瑠衣を発見する。
出来れば先に智香か葵に会いたかった。
絶望を感じていると、顔を赤くした瑠衣が怒りの形相で俺に向かってきた。
「お、おはよう」
だが挨拶は無視され、手を掴まれて校門の陰へと連行される。
これは冷たい視線の上位版、説教だ。
公開説教じゃないだけマシかな。
足を止めた瑠衣は振り返り、突き刺すように睨んでくる。
「あっ、いや、昨日のは――」
頭を下げて謝ろうとすると目の前に大きな袋が現れる。
和風で豪華な巾着袋だ。
「こ、これ、孔明はいつも購買でパンを買うでしょ? た、たまにはちゃんとした弁当を食べるべきだと思う」
俺の頭に?マークが飛び交うが、説教ではないらしい。
「あ、ありがと」
「べ、別に作り過ぎただけで勿体なかったから」
そう言ってぎこちない笑顔を見せた瑠衣は走り去ってしまう。
せっかく貰った弁当をスクールバッグに入れ、教室に向かおうとすると、今度は葵が見えた。
最大の難関を超えた俺は、様子を見ながら近づいてみる。
俺が恐る恐る「おはよっ」と声をかけると、葵は誰かに助けを求めるように落ち着きなく周りを見渡す。
あれっ? もしかして最大の難関は葵でしたか?
葵は目をつぶり右手を胸にあて、深呼吸をするように息を大きく吐き出すと、小さめの手提げバックを突き出してきた。
「こ、これっ、毒は入ってないぞ」
押しつけられたバックを受け取ると、走り去る葵。
一体なんなのだ。
しかも毒って。
しかし1日に2個も弁当が貰えるとは。
そうか、あれか? 今日は弁当の日か?
なわけない。
多分、光司か隆之が上手いことフォローしてくれたのだろう。
きっとそうだと信じて教室に入り、光司を見つける。
「よっ。ありがとな、ちゃんとフォローしてくれたんだ?」
「んっ? あぁ」
せっかくお礼を言ったのに、素っ気ない返事が返ってきた。
会話としては成り立っているのだから、やはり光司がフォローしてくれたのだろう。
話を続けようとしたのだが、予鈴が鳴り仕方なく自分の席に向かう。
そして一限目が終わり、光司の席に向かおうとすると、廊下から現れたのが智香だった。
こうして3個の弁当を手に入れた俺。
『1ーC(男)』に『なんか弁当3人から貰ったんだけど?』と打ち込んだが、既読はついても返事は無し。
さっきみたいにスタンプでもいいから返して欲しい。
『1ーC』はあれから無言のままだ。
いつもなら休み時間に集合する場所には誰もおらず、唯一同じクラスの光司もどこかに行ってしまってる。
これはハブにされたのだろうか?
もしかしたら弁当は「これは手切れ金。さようなら」を表しているのではないだろうか?
昼になるとパンを買いに購買に行く事なく、せめて最後の晩餐を味わおうと屋上に続く階段の上で1人豪華な3つの弁当を広げる。
重箱に入った懐石かと思える瑠衣の弁当。
食べやすいサイズで色とりどりのサンドイッチが詰められた葵の弁当。
肉がこれでもかと詰め込まれた智香の弁当。
弁当を食べていると、今までの楽しかった思い出が走馬灯のように駆け巡る。
少し涙目になりながらどうやって弁当箱を返そうかと悩んでいると、スマホが震えた。
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隆『光司、早急に』
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一瞬にして既読が5に増える。
…… 『1ーC』ラインだ。
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葵『光司、早く』
智『光司、ハリーアップ』
瑠『光司、早々に』
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連続で打ち込まれるライン。
一体何が起こっているのか?
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光『俺かよ!?
えー、孔明、3択だ。
どの弁当が1番美味かった?』
――――――――――――――――――
はぁ?
ちょっとなにそれその3択?
昨日の続きを再開しようってか? しかも公開で。
俺が混乱していると、さらに連続で打ち込まれる。
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隆『孔明、早急に』
瑠『孔明、私のだよね?』
葵『孔明、ボクのだよね?』
智『孔明、アタシのだろ?』
光『孔明、俺のだろ?』
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光司に弁当貰ってねーし。4択だし。
いや違う、コイツは俺をフォローしてくれてるのだ。
俺は良き友人に感謝した。
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孔『えっと、1番美味しかった
のは光司のかな?』
光『ふざけんなし(怒)』
瑠『乙女の純情を踏みにじられた』
智『ありえない(泣)』
葵『ボクの心はマリアナ海溝より
深く傷ついたよ』
隆『黙って腹を切れ!』
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くっ、振ったの光司じゃん。
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光『本当に孔明は』
隆『ふざけていい時と』
智『悪い時の』
瑠『区別が』
葵『ついてない』
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ふざけてるの俺?
しかしながらコイツら……流れるようなスムーズな連携だ。
いつもは輪に入っているので楽しかったが、敵に回すと恐ろしい。
ここでタイムアップを知らせる予鈴が鳴る。
俺は急いで教室に向かいながら、僅かに増えた執行猶予に胸を撫で下ろす。
だが、しかし! 俺はまだ連中を甘く見ていたと思い知る。
少し授業に遅れ、急いで教科書を広げた時だ。
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光『そろそろタイムリミットです。
5』
葵『4』
智『3』
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きっちり1分おきにカウントダウンが始まる。
コイツら授業中をなんだと思ってるんだ!
学生の本分は勉強だぞ!
スマホを眺めつつ理不尽な怒りを覚える。
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瑠『2』
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くっ、アミダで選ぶか、クジでも作るか……。
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隆『1』
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――俺は覚悟を決めた!
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孔『山田先生のヅラって新しく
なったよね?』
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4つ隣の席で吹き出す光司。
書いた俺も笑いがこみあげる。
「こらっ、今は授業中だぞ! 廊下で頭を冷やしてこい!」
俺と光司が廊下に出ると、隣、またその奥から廊下に出てくる奴らがいる。
俺たちは互いに見合せると声を殺して笑った。
するとモゾモゾとスマホを取り出す連中。
――――――――――――――――――
隆『ロスタイム突入』
智『孔明、ハリーアップ』
瑠『孔明、早々に』
葵『孔明、早く』
光『孔明、諦めろ』
――――――――――――――――――
コ・イ・ツ・ら・はー!
絶対に逃さないと俺に集まる視線。
ふぅ。
さて、どうしよう。
俺はとりあえずスマホの電源を落とし、現実逃避するのであった。
――――――――――――
あ『お読み頂きありがとうございます!
面白いと感じて頂けたら』
光『↓の評価を』
隆『押してくれると』
智『ラインが』
葵『盛り上がり』
瑠『ます』
孔『……。』
以下NGラインです
◯ポイント100記念NG
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光『それではアピールポイントいきますか?』
瑠『私なら掃除、洗濯、料理と完璧です。
家庭的な女性を好む孔明を満足させ
られるのは私です』
智『アタシと一緒なら孔明もたのしいだろ?
やっぱり人生にはドキドキハラハラが
必要だと思うんだ』
葵『ボクなら孔明に癒しをあげれると思う
んだ。一緒にまったりしよ』
隆『得意な球種はスライダー。
9回、いや15回まで投げれる体力。
やはり夜は体力勝負だろ?』
孔『隆之。想像だけで吐き気
するぞ』
――――――――――――――
◯ポイント250記念NG
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光『そろそろタイムリミットです。
5』
葵『4』
智『3』
瑠『3』
メッセージが取り消されました。
孔『今間違ったよね?』
瑠『2(うるさい!)』
隆『1』
――――――――――――――
◯ポイント500記念NG
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孔『高島先生って……パット
盛りすぎじゃない?』
光『孔明、さすがに俺は言えない』
智『どこ見てんのよ!』
葵『ガッカリだよ』
瑠『わ、私は、べ、別にパットは』
隆『瑠衣、なんか落ちたぞ』
光『隆之、死亡フラグ立ったな』
孔『突然の矢に気を付けろ』
智『アンタら3人共ね』
――――――――――――――
◯ポイント1000記念NG
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孔『智香は貧しいヌー。
葵は微小なヌー。
瑠衣は平らなヌー』
光『孔明、上手い!』
智『まだ発育中だ( ゜Д゜)ゴルァ!!』
葵『覚悟は出来てんのか( ゜Д゜)ゴルァ!!』
瑠『出てこいや( ゜Д゜)ゴルァ!!』
隆『∑(゜Д゜;≡;゜Д゜)』
隆之が退会しました。
――――――――――――――
◯ポイント3000記念NG
――――――――――――
孔『やっぱり家庭的な子かな?』
光『はい、智香アウト!』
孔『他には元気で活発な子で』
隆『葵、残念賞だな』
孔『一緒にいて安らげるといいな』
光『瑠衣もダメか』
智『アタシは活発でしょ?』
葵『ボクは安らぎだよね?』
瑠『私は家庭的ですよね?』
隆『じゃあ、俺は肉体的』
光『なら、俺はテクニシャン』
孔『えっ!?』
智『ど』
葵『れ』
瑠『に』
隆『す』
光『る?』
孔『……チェンジで』
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◯ポイント5000記念NG?
――――――――――――
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
| NG切れ! |
|________|
∧ ∧ ||
( ゜д゜)||
/ づΦ
光『仕方ない。アゲインだ!』
孔『はぁっ?』
光『孔明、正直に答えろ。
好きなタイプってどんな女だ?』
孔『正直に……か。
胸がデカくて従順でお金持ち。
顔は吉岡里帆で――』
隆『や、やめろ孔明!』
孔『甘やかしてくれて、
朝起きると裸にエプロンで、
おはようのチューを――』
光『こ、孔明!』
智香が退会しました。
葵が退会しました。
瑠衣が退会しました。
孔『俺のことダーリンって
呼んでくれて、
おねだりが上手で――』
隆之が退会しました。
光司が退会しました。
誰もルームにいません。
孔『……ふっ。やっと言える。
本当は俺もヅラなんだよねぇ』
――――――――――――――
◯ポイント10,000記念SS
「ねぇ、瑠衣。聞いてるの?」
智香に肩を揺らされ、私はハッと我にかえった。
「えっ!? あっ、ごめん。ちょっとボーッとしてたみたい」
最近いつもそう。
気がつくと目で追っている。
別にイケメンでもない。勉強が出来るわけでも、運動神経がいいわけでもない。
なのに私の心にいつの間にか住み着いてた男友達。
もともと他人との間に壁を作っていた私。
それを少しづつ壊していくきっかけを作ったのが孔明だった。
あれは高校に入ったばかりのこと。
誰かがクラス全員のグループラインを作ろうと言い出し、私も流れでそのグループに参加した。
毎日送られる膨大な量のメッセージに、個人的にラインを送りつけてくる男もいた。
外面だけを見て、勝手に私を作り上げてくる。
クラスのラインでは一言も喋らず、個人で送ってきた男は全てブロック。
そのうち私にしていたように個人に直接ラインする人がいると話が出て、クラスラインからはどんどん人が減っていった。
それは私のスマホが大人しくなった、GWも明けた5月の半ば頃だ。
現代国語の授業中に三島由紀夫をスマホで検索していると、画面にライン通知が来た。
『現国の山田先生ってさ、ヅラだよね?』
私は笑いを堪えるのに必死。でも突然誰かが笑い出すと我慢は出来なかった。
山田先生に怒られ、教室から出されたのは6人。
私と智香、葵、隆之、光司……そして孔明だった。
そういえばクラスのグループに残っていたメンバーだ。
同じクラスなのに喋ったことのない人達。
授業が終わり孔明、光司、隆之がさっきのラインのことを話してると、そこに智香が加わる。
私も混ざろうかと思ったけど、妙に恥ずかしく輪に入れない。
すると智香が「あれは笑っちゃうよね?」と声をかけてきた。
いつの間にか私も会話に加わり、葵も加わる。
女性関係にだらしないと噂の光司はもとより、私とは接点がないと思っていた5人。
なのに不思議と会話は弾み、気がつけば名前で呼び合う仲になっていた。
休み時間には集まり、夜はそのままグループラインで盛り上がる。
そして学年が上がりクラスが別々になった頃から、私の目は孔明を追いかけるようになっていた。
ふとした瞬間に見える笑顔。さりげなく気を使ってくれる優しさ。
トドメは弓道県大会の後だった。
四的を任された準決勝戦で、私は制限時間超過をしてしまい、結果チームは敗れた。
みんなが私に「気にしないで」とか「次頑張ろう」って優しい言葉をかける。
そんな中、孔明は落ち込む私にこう言った。
「俺には弓道は分からないけどさ、良くも悪くもその結果が今の瑠衣だろ? 落ち込むだけ落ち込んだら、次ちょっとだけでもいい瑠衣になればいいじゃん。瑠衣は頑張ってるよ。って、俺は偉そうに言えるほど何もしてないけどね」
私は泣いた。
孔明は慌てたけど、悲しくて泣いたわけじゃない。
「瑠衣は頑張ってるよ」
その一言が嬉しかった。
頑張ろうじゃない、頑張ったでもない。
今の私を見て、認めてくれているようで嬉しくて。
その時から、私は孔明が好きなんだとはっきり自覚した。
でもその恋心は表には出せない。
何より、私が孔明が好きなことで今ある6人の関係が崩れることが怖かった。
そんなある日、私と智香、葵の3人のグループラインでやりとりしていた時のことだ。
――――――――――――――――――
智『瑠衣って孔明のこと好きだよね?』
――――――――――――――――――
突然の智香の一言に、私の体から汗が噴き出る。
――――――――――――――――――
瑠『別に私はそんな風には』
葵『あのね、瑠衣。バレバレだよ』
智『気付いてないのは孔明ぐらい』
瑠『……はい』
智『やっと白状したかw』
葵『もうボクはお母さんの気持ちで
イリイリしながら見ていたよ』
――――――――――――――――――
どれだけ私は孔明を見ていたかって話だ。
智香や葵はともかく、隆之や光司にも知れていると思うと、顔が熱くなる。
問題なのは彼女達の性格上このまま終わるはずがないことだ。
案の定、新たにライングループのお誘いを知らせる通知が表示される。
メンバーは智香、葵、隆之、光司。
グループ名が『孔明攻略会議』って。
私は諦めて参加するに指を滑らせた。
――――――――――――――――――
瑠衣が参加しました。
光『主役登場!
あっ、ヒロインか』
隆『この時を待ちわびたぞ』
瑠『……よろしくお願いします』
智『それでは孔明攻略会議を始めよっか。
まずは議長、葵からの挨拶』
葵『いいかい、これは聖戦だよ。
敵の防御は固く困難を極めるだろう。
しかし我々は負けるわけにはいかない。
必ず瑠衣の矢を孔明のハートに
突き刺すんだ!』
――――――――――――――――――
ノリノリの4人。
ふざけているようにしか見えないのに、変わらない雰囲気にちょっと安堵してしまう。
あーでもない、こーでもないと方向性を見失った議論が続いていた時だ。
――――――――――――――――――
光『ちゅーもーく!
今から孔明を「1-C」ラインに
誘導するからな。
女子組は傍観きめこむように!』
――――――――――――――――――
光司の行動は驚くほど早かった。
孔明は気づかずに女性の好みをさらけ出していく。
私はドキドキしながらそれを眺めていた。
――――――――――――――――――
智『ふむふむ。料理上手と。
瑠衣、バッチしだね』
葵『明日はお弁当作戦だよ』
瑠『いきなりそれは厳しいよ。
多分……渡せない』
隆『じゃあ智香も葵も渡したらどうだ?
3人だったら瑠衣も気が楽だろ?』
光『確かに。
問題は智香が作れるかだな』
智『失礼な! 肉ぐらい焼ける!』
葵『肉って!?
じゃあボクはサンドイッチにするよ』
光『作戦は決まったな。
どうせ孔明が誰かの名前を
出すはずないし、
そろそろグループ違うこと
バラすからな』
――――――――――――――――――
あれよあれよと作戦が決まってしまった。
私が孔明にお弁当を渡すと考えるだけで、心臓がうるさく音を立てる。
でも、智香と葵も協力してくれるなら。
――――――――――――――――――
光『じゃあ作戦通り、明日の弁当作り
頑張ってくれ!』
智『オッケー』
葵『ボクに任せておいて』
瑠『が、頑張ります』
隆『瑠衣、頑張れよ!』
――――――――――――――――――
もう後には引けない。
私はスマホを机に置いて、台所へと向かう。
「さっ、頑張るぞ」
私は腕まくりをして調理を始めながら、何かが動き出そうとする予感に胸を膨らませていた。
お読み頂きありがとうございました。
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