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第6話 真相

――導入――


 太古、愚か者がパンドラの箱を空けたがために、箱の中に閉じ込められていたあらゆる罪、悪がこの世に解き放たれた。慌てた愚か者はパンドラの箱を閉めたが、時すでに遅し。最後に箱の奥底に残った唯一のものは、希望である。





2025年8月18日 シルバープラザ付近 午前5時55分


 バランチが殺害された翌朝。彼女の死体と、倒れていた警察官ソラシド・ウォッシュナーが発見された。ウォッシュナーは病院に搬送され、後遺症の残るケガや、命に別状はなかった。





2025年8月20日 ネオンシティ警察署 午前8時32分


「それにしても運が良くて何よりよ、ウォッシュ」

 エレナは声をかけた。重傷がなかったウォッシュは、職場に復帰していた。

「うん。ありがとう。心配かけたね」

 ウォッシュはそう言いながら、にやにやしていた。その表情を見て、エレナは覗き込むように聞いた。

「嬉しそうにして、どうしたの?」

「いいや、ウルボーグの正体に関する手がかりを掴んだんだ」

「ほんと!」

「まだ考え中だけどね。予想がまとまったら、話を聞いてよ、エレナ」

「うん」

 ウォッシュは、やる気満々といった風であった。

「よおし! 見てろよ見てろよー」




※※



2025年8月20日 ウォッシュ宅 午後9時45分


 ウォッシュは机につき、ウルボーグが起こした過去の事件を調べていた。

 バランチが殺害された際に持っていたビデオカメラは、幸い壊れていなかった。その映像には、バランチが殺害されることの一部始終と、レンガの壁を破壊されたあとの様子が映っていた。ウォッシュがふっ飛ばされたとき、カメラも宙を舞った。だが、地を転がった後、うまいことウルボーグの背中を映していた。何度も見返し、何度も一時停止した。本当に惜しいのは、このカメラが、ウルボーグの背中しかとらえていないところであった。これがもし前からの撮影に成功していたら、顔が分かり、本人を特定できていたであろう。


 だがその望みは、欲張りなことのようにも思えた。ウォッシュも彼の背中は目撃したが、重要なのは、データとしてこれが残っていることであり、これはウルボーグの正体に関する絶対的な証拠なのだ。目におさめるだけよりも、強力なソースとしてこの映像は存在しているのだ。

 ウォッシュが五体満足で生きながらえていることも考えると、相当な強運であるともいえる。

 ウォッシュは、今までの白紙の状態に比べれば、この事件の解明はかなり前進しているように思えた。今わかっている中で、ウルボーグの正体に関するほとんど確実である情報は、簡単に並べると以下のようであった。



一.怪人ウルボーグは、生身の人間が変身している。

二.正体は、髪形や体格を参考にすると、長身の男である。



 もう一度命を懸ければ、もっと正体に近付けるもしれないが、さすがに二度もあのような作戦を行う勇気はなかった。


 ウォッシュは、他に彼の正体に迫る手段として、過去の事件を片っ端から調べていた。地道ではあるが、過去の手がかりから犯人を特定するのは、王道である。だが、これがなかなか大変であった。なにしろ、ウルボーグが殺害した人数は、この時点で数十人にのぼっていた。参考資料がたくさんあるといえば聞こえは良いが、この膨大な量の書類が、のちのちウォッシュを苦しめることになるのは、彼もだいたい予想していた。



※※



2025年8月22日 ネオンシティ警察署 午前12時18分 昼休み


「ウォッシュ、大丈夫? またウルボーグの事件調査してたの?」

 エレナは、弁当を食べながら、隣のデスクのウォッシュに声をかけた。

 ウォッシュはここ二日徹夜しており、案の定目が宙を泳いでいる。くまの面積は、日に日に増していた。

「だいじょび、だいじょび」

 ウォッシュは、うつろな目でそう答えた。心配性なエレナは、この華奢な友を放置できなかった。エレナは、彼の肩を揺さぶった。

「ウォッシュ! あなた、死んじゃうわよ!」

ウォッシュは、不気味にほくそ笑んだ。

「へ、へへへ……。死ぬほど好きなのさ」

「もー! バカ!」

 エレナは、こいつはもうどうしようもないと思った。



※※


 二人が話している途中、署の中にある一台の液晶テレビが、誰に見られるでもなく付けっ放しにされ、無機質に、ある映像を流していた。それは、ある特報番組。ウルボーグの犯行や正体について予想し合う会話が、政治家や研究者、一般人から無作為に選ばれた者の間で行われていた。

 有能な教員として知られるアーバイン教授は、死刑の必要性を熱心に説き、ウルボーグの行動に賛同していた。ウォッシュはエレナとの会話を続けながらも、ちらとテレビに目を向け、その内容に耳を傾けていた。



第7話 根源 へつづく

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