第25話 連鎖
2025年10月5日 ブック駅周辺 午前11時0分
「そうか。じゃあ、推理するまでもなかったってことか。とにかく、二人が無事でよかったよ」
ウォッシュが言った。今、エレナ、アーバイン、ウォッシュの三人は昨日激闘があったブック駅の周辺に来ていた。そして、警察の仲間たちや市民の亡骸を回収したり、戦闘の跡を記録したりしていた。
喉をかききられ死亡したマシューの亡骸を見たとき、ウォッシュはまた泣きそうな顔をしていた。
一段落し、近くのカフェでゆっくりした。そして、エメラルドガールの変身が解けるところを見たという話をしていたのだ。アーバインから、エメラルドガールに変身する女イリアナの話を聞いて、ウォッシュは推理するまでもなかったと言ったのであった。
というのも、イリアナはアーバインの教え子だったらしい。アーバインは、コーヒーを飲みながら、エレナとウォッシュに、イリアナの話を聞かせた。
イリアナは学生時代、優秀な水泳選手で、街や国の代表を背負えるほどだったという。そのまま各種大会に参加し、水泳人生を歩む予定だったし、周りの誰もが、彼女の未来はそうなるものと思っていた。
だが、突然イリアナの夢は断たれた。水泳の練習の際、肌が異常に荒れ、激しいかゆみを発症したのであった。診断の結果は、塩素アレルギーであった。こうして、イリアナは水泳人生を諦めた。
かといって、簡単に路線変更はできなかった。他に得意なことややりたいことがあったわけでもなく、一気に冴えない子のような扱いをされた。有名だったイリアナは、学校の友だちからヘイトを集めており、水泳ができなくなった瞬間、みんなのヘイトが爆発した。「水泳の他に何も取り得ないじゃん」「これで出来損ないだね」などと言われ、いじめられるようになったという。親からも、ぞんざいな扱いを受けるようになった。
「確かに、そういえばエメラルドガールの最初の被害者はスポーツ選手だったな。もしかしたら、活躍するスポーツ選手を羨ましがっていたのかもね」
ウォッシュはそう言っていた。
イリアナが落ち込んでいたとき、手を差し伸べたのがアーバインだったのだ。アーバインと身近だったイリアナは、アーバインの妻が殺害されたことを知っていたのだ。
だから、ウルボーグが最初の犯行で、彼の妻を殺害したジャックたちを処刑したとき、その正体がアーバインであることを勘付いたのだ。
こうしてイリアナは、アーバインの家から変身薬エメラルドを盗み、エメラルドガールへ変身したのだ。
「ああ……悲しい……誰も救えないのかしら」
エレナは顔を抑えた。
「アーバイン……警察や街の人の亡骸を見たでしょう? これが、あなたが望んだものなの?」
エレナはアーバインを問い詰めた。だが、アーバインよりも先に、ウォッシュが口を開いた。
「まあ、そうだな。エメラルドガールの出現は、アーバインにとっても予想外だった。怪人に変身する能力は、人間が扱うには持て余るということだ。
だが、元を辿れば、俺たち警察の責任はある。もし、俺たちが君と君の妻を守ることができたら……ウルボーグは誕生しなかっただろう。俺たちが守るべきものを守り切れなかったから、街に歪みを発生させてしまったんだ。アーバイン……」
ウォッシュは語りかけるように話していたが、急に口をつぐんだ。おそらく、「すまない」と言いたいのだろう。だが、謝罪したところでアーバインの妻は生き返らないし、ウォッシュからの謝罪など、アーバインは求めていないだろう。ウォッシュはそれを察し、押し黙ったのだ。
「大丈夫だ、もう腹は括ってある」
アーバインは、いつになく目をすわらせて話した。
「何のこと?」
エレナは聞いた。ウォッシュも、「ん?」と言いながらアーバインを見つめている。二人には、アーバインがどう腹をくくったのか、分からないのだ。
アーバインは、ハッキリと力強く言った。
「次で終わりにする。この事件の全てをだ」
第26話 贖罪 へつづく




