第24話 正体
変身時間を使い果たし、今やただの人間の男となってしまったアーバインを、エメラルドガールがつき飛ばした。アーバインはなすすべなく宙へ浮き、道路に背を打ち付けた。
「アーバイン!」
エレナは叫んだ。
「ん? さっき服を投げたのはお前か」
エメラルドガールはエレナの方を向き、ジャンプして瞬時に眼前へ来た。エレナは念のために持っていたふたつめの銃をとり出し、女怪人の方へ向けた。しかし、すぐに腕を掴まれた。その腕は、軽々とねじられていく。
「ぐああ!」
エレナは銃を落とした。腕はどんどんねじられ、きしむ音が聞こえた。
「ほらほら。骨がきしんでいるぞ!」
やばい! これ以上ねじられたら、折れる!
エレナが危機を感じたとき、不意に、エメラルドガールの腕の力が弱まった。見ると、エメラルドガールの腕は、緑色のごつごつした腕から、細い女性の腕へ変わっていた。そして、体は縮み、髪は黒いショートヘアに、顔は白く美しいものへ変化していく。エメラルドガールは、エレナよりも小柄な女性が変身していたのだ。
「うおお!」
エレナは声を張り上げ、握られた腕をねじり返した。今ならば、簡単に押し勝つことができる。何のことはなく、エレナは腕を振り払った。そして、先ほどまでねじられていた右腕を、女の腹へ繰り出した。
「うっ!」
まともにエレナのパンチを受け、女は後ろへ退いた。それでも抵抗の意思はあるらしく、へなへなとパンチを繰り出してくる。エレナはこれをひょいと避け、顔面へもう一発くれてやった。
「うぐ……」
小柄な女は、その身を白い建物の壁に打ち付けた。容赦のないエレナは一気に間合いを詰め、右足を振り上げ横へ一閃した。
「おりゃあ!」
顔面へ直撃し、女の体がフラフラと揺れる。エレナは、左へ振りぬいた脚を下ろさず、そのまま右へ勢いよく蹴った。二発目の蹴りが、女の顔へ直撃する。
「うう……!」
女は力なく、地面へ倒れた。手を突いた女に対し、エレナは息を切らしながら言葉を吐いた。
「あんた、話は署で聞くから。おとなしく捕まりなさい」
「はあ……はあ……」
今や人間の姿へ戻ったエメラルドガールは、息を切らしながら、エレナを睨みつけた。どうやら、まだ諦めていないようである。
「イリアナ……!」
アーバインが叫んだ。イリアナ? この女のことか?
「あなたたち知り合いなの?」
エレナは動揺し、アーバインの方を向いた。アーバインはハッとした顔で、エレナの後方をまじまじと見た。
「おい! やばいぞ伏せろ!」
エレナはアーバインの視線の先、すなわち、イリアナがいた方を向いた。なんと、イリアナはボロボロの体を引きずり、さっきエレナが落とした銃を握っていた。
「へへへ……」
倒れたままのイリアナは不気味に笑い、銃口をエレナの方へ向けた。エレナは素早く伏せた。
ドン! ドン!
銃声が二回聞こえた。体に痛みは感じない。銃撃はエレナには当たらなかったのだ。
カチッ、カチッ。
イリアナは何度も引き金を引いているが、どうやら、銃弾はもうないらしい。
「くそ!」
イリアナはそう言って、銃を投げ捨てた。街灯に照らされた道路の上を、銃が滑っていく。
「先生……一週間後の夜、タイムガーディアンで。ケリを付けよう」
イリアナはアーバインの方を見て、語りかけた。そして、傷ついた体で転がったり這ったりしながら、道路を移動した。
「待て!」
エレナはイリアナに向けて走った。だが、間に合わない。イリアナは転がりながら、通りを流れる大きな川へ落ちた。
ドボン……
そうして、川の流れに従って、その小柄な体は流れていった。
第25話 連鎖 へつづく




