第22話 交戦
バイクに乗っているのは、頭にツノを生やした怪人ウルボーグである。ウルボーグは、バイクから降り、女怪人の方を向いた。一方、女怪人も立ち上がった。こうして、二者の怪人は向かい合った。先にウルボーグの方が声を発した。
「女怪人よ。俺の名はウルボーグ。俺の家から薬品を盗み出したのはお前か?」
「ええそうよ。あなたが初めて殺人を行った日、ウルボーグの正体があなただと気付いたわ」
「なに?」
この女は、ウルボーグに変身する男アーバインのことを知り、変身薬を盗んだことは、間違いなさそうだ。女怪人は話す。
「ねえウルボーグ。怪人同士仲良くしましょうよ。一緒にこの街を滅茶苦茶にしない?」
「俺はそんなことのために変身薬を開発したわけではない! この街を守るために開発したのだ!」
「へえ。じゃあ、あなたの作った薬で変身して、好き放題し続けたら、あなたどうするの?」
「街を破壊するというのなら、もちろん戦う」
「ふーん……」
……。しばらく沈黙があたりを包んだ。この沈黙を破ったのは、女怪人エメラルドガールである。
「残念」
女怪人はそうつぶやくと、地面を蹴り、一気にウルボーグとの距離を詰めた。そして、右腕を繰り出した。ウルボーグは、難なくこれを受け止めた。がっしりと拳を掴み、敵に問いかけた。
「お前は何者だ!」
「ふん! 素直に答えるわけないでしょ!」
エメラルドガールは、拳を振り払った。そして、少し後ずさりした。
「おりゃあ! おりゃあ!」
後ずさりするエメラルドガールを追い、ウルボーグが左右にパンチを繰り出す。だが、相手はこれを軽々と避けていく。
そして、エメラルドガールがウルボーグの伸びきった腕を横にはじいた。ウルボーグが体勢を崩し、グラグラとその巨体を揺らした。エメラルドガールはこのスキを見逃さなかった。
大きく勢いを付け、ウルボーグの胸を蹴り上げたのだ!
「ぐああ!」
ウルボーグは叫び声をあげながら宙を舞った。そして、後方にあったガラス張りのビルを突き破り、暗い部屋の中へ消えていった。
※※
「ぐああ!」
叫び声をあげながら宙を舞ったアーバインは、ガラスを突き破り、企業ビルの二階へふっ飛んだ。誰もいない夜中のオフィスを、怪人が転がっていく。デスクの上をゴロゴロと猛スピードで転がり、パソコンを破壊し、書類をまき散らした。
ドン!
やがて、床に勢いよくぶつかり、アーバインの体は止まった。視界がぐらぐらと揺らぎ、頭を抑えながら腰を起こす。そう遠くはないところから、エメラルドガールの声が聞こえてくる。
「ハハハハハ! ゴォール!」
くそったれ! フットボールでもやってんのか! アーバインは悔しさを覚えながら、近くにあったデスクに手をついた。
タタタタタ……!
エメラルドガールの足音が聞こえる。こちらにだんだんと近づいてきているのだ。アーバインは身を屈め、デスクの後ろに身を隠した。
パリン! パリン!
やがて、ガラスが割れる音がした。間違いない。エメラルドガールはジャンプして、ガラスの壁を突き破りこのオフィスに突っ込んできたのだ!
「どこへ隠れた……! アース! アーバイン・アース!」
叫ぶエメラルドガールの声を聞き、ウルボーグは頭をトンカチで叩かれたかのような衝撃を覚えた。ウルボーグではなく、アースと呼んだ! やはりウルボーグの正体を分かっているのだ! 薬が盗まれた時点で、正体はバレているものとは理解していたつもりであったが、やはりハッキリと名を叫ばれてしまうと、アーバインの恐怖は増幅した。
何よりこれは、情報においてはアーバインが負けているということなのだ。アーバインはエメラルドガールの正体を知らない。名も知らず、素顔も知らない。だが、相手はアーバインのことを知っている。この情報アドバンテージが、アーバインの精神に不安定をもたらしたのだ。
アーバインは身を隠しながら少し顔を出し、イスを投げつけた。
「ふん!」
エメラルドガールは片手でそれをはじいた。イスは折れ、横へふっ飛んでいた。アーバインはこそこそと移動しながら、もうひとつ、さらにもうひとつと、手当たり次第にイスを投げつけた。
「ちっ! 小賢しい技だな!」
エメラルドガールは両腕を駆使し、飛んでくるイスを右へ左へ、はじいていく。ひとつも彼女の体へは直撃しない。
最後にアーバインは、デスクのひとつに突きを繰り出し、手を食い込ませた。そしてそのデスクを思いきり投げ飛ばした。すかさず、空中を直進していくデスクを走って追いかけた。これが狙いなのだ。
先ほどの殴り合いでは、エメラルドガールにパンチを当てることができなかった。普通に殴ったのでは、パンチはひょいひょいと避けられてしまう。何らかの策を練り、拳を当てなければならない。そこで、イスやデスクをフェイントに使ったのだ。攻撃を防ぐとき、必ずスキが生じるはずだ。
今、デスクはエメラルドガールの目の前に飛んだ。案の定、エメラルドガールは腕を振りデスクをはじいた。だが、デスクのすぐ後ろにはアーバイン自身がいる。アーバインは相手に急接近することに成功した。今だ!
「おおりゃあ!」
アーバインは床に足を踏ん張り、右ストレートを繰り出した! これを当てるしかない! 顔面にぶち当てるのだ!
だが、相手もまた怪人。素早く反応し、両手で顔を守ろうと構えた。アーバインの渾身のパンチは、エメラルドガールの手に当たった。
「うぐ!」
とっさのガードでは防ぎきれないようだ。女怪人は声をあげた。手で守られたもののパワーではこちらが勝っている。そのまま振りぬき、顔を殴った。エメラルドガールの体はふっ飛び、ガラスを突き破った。
第23話 光明 へつづく




