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第20話 友情



 泣きっ面をしたエレナと、顔に少しアザのついたアーバインを見て、周囲の客や店員に怪しまれながら、三人は店を出た。


 アーバインは、早々に歩きだし、あっという間に角を曲がって見えなくなった。店の前で、エレナとウォッシュは立ち止まっていた。

「エレナ、ハンカチ貸そうか?」


 ウォッシュはエレナと向き合い、ポケットから青いハンカチを取り出した。

「いえ、遠慮しとくわ」


 エレナは手のひらを前に出し、丁寧に断った。ウォッシュは、「ああ、そうかい」と言って、ポケットにハンカチを戻した。そして再び、エレナの目を見つめた。

「君の事情を考えない態度をとって悪かった。本当は君をここへ呼ぶこと自体が、間違えていたのかもしれない」

「いいえ、私も感情的になりすぎたわ」


 ウォッシュは、ふうと息をついた。

「エレナ。俺は、アーバインの殺人はもちろん正当な行為ではないと思うよ。ただ、君の前でこんなことを言うのは本当に君の心情をわきまえてないかもしれないけれど、アーバインの気持ちも分かるような気がするんだ。

 もしも目の前で愛する人が犯され殺されたとき、正気でいられるかな? 俺は自信がないよ。絶対に復讐したいと思うだろう。この世界すら、滅茶苦茶にしたくなるかもしれない」


 エレナは、アーバインの心境を思いやってみた。

「ええ。そうね……」

「ただ、やっぱりアーバインは線を超えすぎた」

「線?」

「ああ。何の線とは言えないけど、とにかく超えすぎたんだ。アーバインは、しかるべき運命を辿るだろうよ。君に痛めつけられたり、逮捕されたりするまでもなくね。なんとなく、そう思うんだ」


 しかるべき運命……。果たしてそのようなものが、本当に待ち受けているのであろうか。そもそもウォッシュは、事件を追いかけたり、投資にお金を費やしたりして、いつも何かの統計書類や雑誌を読んでいる。そんなウォッシュが、運命などという、何か人知を超えた大きな力を信じるのだろうか。


 エレナには、この男が運命などという言葉を用いるのは、少し似合わないような気がした。


 ウォッシュは話を続けた。

「たぶん、彼もロクな死に方はしないだろうと、予感していると思うよ。壮絶な運命を感じているだろうよ」

「アーバイン自身が?」

「そうだよ。そうでもないと、君に謝ったりなんかしないさ。あんなに信条の硬い人が、簡単に自分の敵に謝ったりしないものだよ」


 確かに、アーバインが謝ったとき、エレナはかなり驚いた。エレナは、こくりと頷いた。

「私、そろそろ帰るね」

「うん……」

「今日、ひとりで帰るから」


 エレナは食い気味に言った。ハッキリ言っておかないと、この男は家まで送るとか言ってくれそうだからである。今日は、友だちと一緒に帰るような気分ではない。

「そ、そう? 一緒に帰ろうと思ってたんだけど」


 やっぱりこうである。

「うん。ほんと大丈夫。じゃあ、おやすみ」

「おやすみ。エレナ、気を付けて帰るんだよ」

「うん。ウォッシュも気を付けて」


 エレナはウォッシュに背を向け、歩き始めた。ウォッシュはきっと、エレナが角を曲がって見えなくなるまで、その背中を見送っていただろう。



第21話 死闘 へつづく

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