第18話 集結
2025年10月1日午前0時16分 バー・サウス
ウォッシュと、ウルボーグに変身する男アーバインは、バー・サウスに到着していた。地下へ続く階段を降り、扉を開けると、店のカウンターが見える。
「こんばんはー」
ウォッシュが挨拶をすると、オーナーの長身な女性ジェシーが歩み寄って来た。
「ウォッシュ!」
「やあジェシー」
ジェシーは、ウォッシュを抱きしめて、その頬にキスをした。ウォッシュも顔を上げて、ジェシーの頬にキスをした。ジェシーは嬉しそうにウォッシュの肩を抱いた。
「しばらく来ないから、他に良いバーでも見つけたのかと思ってたよ」
「まさか。ここより良いバーなんて、俺は知らないよ」
「ほんと?浮気したら許さないよー?」
「ハハハ、ほんとさ」
ジェシーは背が高いので、ウォッシュは彼女を見上げて話す。ウォッシュは本件を話題に出した。
「VIPルームって空いてるかな? 今日使わせてほしいんだけど」
「ええ、空いてるわよ」
「良かった。急に使わせてほしいなんて言って悪いね」
「本当は予約制の部屋なんだけど、あなたは特別ね」
ジェシーはそう言うと、ウォシュの後ろに立つ男アーバインを見た。そして、眉をつり上げた。
「もしかしてあなた、この人と二人でVIPルームを使うの?」
ウォッシュは、少しばつが悪そうな調子で答える。
「や、その、まあ、後で一人来るかもしれないから。学生時代からの友人でさ。ゆっくり話したいのさ。な? な? アーバイン」
そう言って、凄い勢いでアーバインの方を振り向いた。当然、ウォッシュとアーバインに学生時代からの面識などない。だが、あまりに必死なウォッシュを見て、アーバインはどうやら合わせる気になってくれたらしい。
「あ、ああそうだ。俺たち仲良しなんです」
アーバインはそう言って、ウォッシュの頭をぽんぽんと叩いた。ジェシーは笑顔で部屋を案内してくれた。
「そういうことね。VIPルームはこちらよ」
部屋に入るなり、アーバインは立ち止まった。
少し料金が高めなVIPルームは、完全個室である。キラキラした赤い壁で覆われ、ハート型の大きなバルーンが机やソファーに置かれている。
「お、おお……」
ウォッシュは、アーバインの驚きを察し、口を開いた。
「可愛らしい部屋だろ? 本来は、デートとかお誕生日パーティーで使う部屋なんだ」
「なるほどな。男二人で来るようなところじゃないな」
アーバインは、先ほど店のオーナーであるジェシーに顔をしかめられた理由が分かったようである。
ウォッシュは、奥にあるソファーに腰かけた。アーバインも、ハート型のバルーンを横に避けて、手前のソファーへ腰を掛けた。
いよいよ本題へ入るため、会話の口火を切る。
「アーバイン。ではエメラルドガールについて話そうか。俺は、彼女については、昨晩殺害事件を犯したことぐらいしか知らないな。正直、正体に関しては女性であるということ以外は見当がつかないよ。
君は何か、有力な情報はあるのか?」
「俺は昨日の夜……」
コンコン
アーバインの言葉を遮り、部屋のドアがノックされた。アーバインは、ビクッと背筋を伸ばした。ウォッシュは特に動揺していない。
「どうぞ」
あくまで素朴に返事をした。すると、「失礼します」と言って若い黒髪の女性が入って来た。バーの店員である。
「ファーストドリンクを聞きに参りました」
「ビールをお願いします」
お酒を選んでいる暇などないというように、食い気味な返事をするアーバイン。一方ウォッシュは、机の上にあったメニューを手に取りじっくりと眺めている。
「うーん……セックスオンザビーチ頼みます」
「分かりました」
店員は部屋を出ていった。ウォッシュは店員の背中を見送った後、アーバインに話しかけた。
「今の女の子、かわいくね?」
「お前よくそんな余裕あるな」
※※
しばらくして、エレナが到着した。こうして、警察官エレナとウォッシュ、そして怪人に変身する男アーバインの、奇妙な面談が開始された。
「エレナ、こんばんは。彼がウルボーグに変身する男、アーバインだ」
ウォッシュはアーバインに手をかざし、紹介した。そんなことをしてくれなくても、エレナは既にアーバインの顔を見たことがある。
「う、うん」
ぎこちなく返事をし、エレナは椅子に腰かけた。彼女をこのバー・サウスへ召喚するに至った経緯をウォッシュから聞いた。
アーバインと手を組むことになったから、信頼できる仲間としてエレナを呼んだらしい。手を組む理由はもちろん、エメラルドガールへの対策をするためである。
アーバインは、エメラルドガールに関して分かることを話していたらしい。アーバインの話は、次のようなものであった。
彼は昨晩、ウルボーグに変身し、ネオン少女院を襲撃した。その後帰宅したとき、何者かに部屋を荒らされていた。そして、人間をバッタ型の怪人に変身させる薬、薬品エメラルドが盗まれていたことを発見した。
薬品ウルコイドは男性、薬品エメラルドは女性への適性が強く、もしも逆の性別の者が使用した場合、骨格の変形や脳への障害などの強い負荷がかかるという。アーバインは前々からこの二種の薬品を所持していたが、ウルコイドのみを使用し、エメラルドは自宅の分かりにくいところに隠していたらしい。だが、そのエメラルドは盗まれてしまった。
とにかく、昨日の間に何者かがアーバインの家へ侵入し、薬品エメラルドを盗んで逃亡した。その何者かがエメラルドガールへ変身し、殺人事件を起こしたのだろうということだ。これ以上のことは、特に分からないということであった。
アーバインにとって、エメラルドガールは罪なき人々を殺害した罪人であり、戦って倒したいと考えているらしい。そこで、ウォッシュと協定を結んだということだ。
一通りアーバインが話し終えると、ウォッシュが口を開いた。
「アーバイン。ぶっちゃけた話さ、君とエメラルドガールが戦ったとして、勝てる自信あるの?」
アーバインはあくまで無表情だ。
「いや、自信はない。圧倒するかもしれないし、互角かもしれないし、完封されるかもしれない。何しろ、どのくらい強いのか分からないからな」
「まあ、そうだよな」
「ああ。だが、ウルボーグ以外の対抗手段もある」
「なに? もっと強力な怪人に変身できるとか?」
ウォシュは身を乗り出した。そんなウォッシュとは裏腹に、アーバインは変わらず無表情で答える。
第19話 発露へつづく




