第17話 運命
――導入――
怪人ウルボーグは、その拳一撃で人体に致命的な損傷を与えることができる。彼の処刑のほとんどは、殴打によるものである。しかしこの他にも、銃による殺害も行っている。
この銃は、青いライフルの様な縦長のものである。だが、現状どのような型を使用しているのかは解明されていない。
五月に初めて、ウルボーグに銃殺された罪人の死体が回収された。その死体は二発の銃撃を受けており、一発は貫通し、もう一発は貫通していなかった。死体解剖の際、貫通していなかった傷が調査されたが、奇妙なことにその傷穴からは銃弾が発見されなかった。
信じがたいことであるが、ウルボーグの使用する銃は、実弾を利用しないということなのであろうか? 警視庁内では、真空弾なのではないか、電撃弾なのではないかなど、様々な予想がなされている。
2025年9月31日午後11時56分 エレナ宅
プルルルル……プルルルル……
日課である筋トレを終え、寝支度を始めたエレナに、電話がかかってきた。見ると、ウォッシュからである。エレナはソファーに座り、電話に出た。
「もしもし」
「あ、エレナ。こんばんは。ウォッシュだけどさ、プライベートな時間にごめんよ」
ウォッシュはいつもフレンドリーだが、なんかこう妙なところで律儀である。
「いや、いいのよ。何か用?」
夜分にかけてくるということは、急ぎの用事である可能性は高いだろう。
「エレナ。昼に俺が会議で言った、怪人と協力するという案について、君はどう思う?」
エレナとしては、大賛成というわけではないが、怪人の脅威を考えると、協力もやむを得ないのではないかとも思う。喉の奥に何か引っかかっているような感覚を覚えながら、恐る恐る返事をした。
「そうね。協力したいとは思わないわ。あんな悪人たちと協力なんて、本当は考えたくもない。ウルボーグもエメラルドガールも、捕まえて、裁かれるべきだと思う。でも、私たちでは太刀打ちできないのも分かってるから、最後の手段としては、怪人と協力することも視野に入れないといけないのかなって……。
ごめんなさいね、ハッキリしてなくて。迷っているの」
「まあ、そんなとこだよな……」
ウォッシュは一拍おいて、いよいよその言葉を発した。
「あのね、今からぶっ飛んだこと言うよ。ウルボーグと今一緒にいるんだ。俺は彼と協力して、エメラルドガールの対策を考えようと思っている。エレナも来ないか? サウスというバーのVIPルームが個室だから、そこを使う予定なんだ」
「え……。え……!」
あまりに唐突な誘いに、エレナは困惑を隠せない。
「あ、でもね、大丈夫。俺たちを攻撃はしてこないよ」
ウォッシュは何やら安心させるつもりで言ってくれているらしいが、そういう問題ではない。
「ちょ、ちょっと、考えさせてもらえる?」
「うん分かった。じゃあ、先に向かうね。入店して俺の名前出したら、通してもらえると思うよ」
そこまで会話すると、電話が切られた。
エレナはいつの間にか、立ち上がっていた。うろちょろと、何をするでもなく歩き回った。
放火魔のヒルカを追いかけ、ウルボーグと対面したあの日。あの日からの出来事を思い出していた。
ヒルカの首を折ったウルボーグ。時計塔タイムガーディアンの上で群衆の上に立つウルボーグ。そして、エレナの目の前で、友アルミリカを殺害したウルボーグ……。
自分ひとりしかいない部屋に、ぽつりと立ち尽くした。静寂だけが、彼女の隣に寄り添っていた。
第18話 集結 へつづく




